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2011年6月 7日 (火)

青年団リンク 二騎の会 「四番倉庫」  

June 4th 2011 @こまばアゴラ劇場
感想のメモ

(ネタばれあり)

前半にじわじわと観る側に積み上げるものがあって。

客入れからそこにいるデスクの前のサラリーマン然とした男と
そこに現れるフリーターっぽい男。
その場の空気に、すこしずつ苛立ちの色が加えられていきます。
彼らの内面のストレスを描くというよりは
シチュエーションのわからない部分や
会話の噛み合わない部分を
キャラクターの感覚そのままに観客に伝えていく。
インクジェットプリンターの偽札や
伸びていくカップ麺など
チープなエピソードは積まれていくのですが
それらが物語を展開させるわけではなく
ひたすら彼らの重なりのなさを浮きたたせていくのです。
シーン自体に
観る側との我慢比べではとすら思うほどの冗長さを感じる一方で、
気が付けば舞台から観ている側に植え付けられた苛立ちの感覚が
しっかりとその密度を増している。
中盤にフリーターが切れるのは突然だし
その叫びは常ならぬものなのですが、
そこに至るまでに
彼の怒りを常ならぬものと感じさせないようなベースが
しっかりと醸成されているのです。

冒頭のサラリーマンを訪ねてきた同僚についても、
ほどけていく物語の中での単なる良識の基準線にせず
彼が抱える孤独というか精神的な空洞を見せる力が
舞台にはあって。
さらには、一番最後に訪れた
彼らの世界の対極にあると思われた女性から浮かび上がってくる
倉庫の持ち主の雰囲気からも
やがては豊かであるだけでは満たされない
家庭の姿が垣間見える。

終盤、サラリーマンが思い浮かべる
偽装誘拐のアイデアの薄っぺらいあざとさに引き込まれそうになる
フリーターと女性のモラルを踏み越えそうになる軽さに
彼らが抱える空洞や行き場の無さが重なり合って。
それが、再びばらけて行く姿に
登場人物たちの、そして彼ら自身が感じている
逃げられないような底浅さが広がっていく。

アフタートークにもあったように
登場人物それぞれの「駄目さ」に
しっかりと浸されてしまいました。
ただ、それとは別に
個人的に、この舞台でもっとも鮮烈だったのは
サラリーマンを観ていて
ふっと自分の中に満ちたどうしようもない苛立ちの
刃先の鋭さ。
舞台やキャラクターには、観る側の隠れた感覚を引き出し
とぎ上げる力があるのです。
どこか突き抜けたおかしさすら感じるのに
その一方で
フリーターが切れる気持ちというか、
ビール缶を壁に投げつける衝動が
客観的ではなく、自分の感覚として伝わってきた。
舞台はおろか、実生活でも
こんな風に溢れ出すような苛立ちって
ほとんど体験した記憶がない。

終演後、その苛立ちは
前半の冗長とも思える時間に
じっくりと観る側に育てられていたことに思い当たって。
台本や役者達の演技の秀逸に加えて
多田演出のしたたかさに
ひたすら瞠目したことでした。、

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