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ラフメーカー『面影橋で逢いましょう』、戯曲の確かさに支えられた2バージョン

2015年4月24・27日ソワレでラフメーカー『面影橋で逢いましょう』平成・昭和両チームを観ました。

会場は新宿眼科画廊地下。

この作品は以前のラフメーカーの公演でも2度ほど観ていて、その戯曲のしたたかさに強く心を惹かれていて。

今回、2バージョンでの公演ということで作品がどのようなテイストに仕上がっているのかも楽しみにして、劇場に足を運びました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

平成チーム⇒昭和チームの順番で観ました

脚本・演出 :  天夕隼佑

平成チーム

出演 : 綾乃彩、加瀬恵、山藤桃子、森岡瑠璃、小春(MakeProduction)、町田勇気、山口輝(A-LIGHT)

平成バージョンは戯曲の枠組みを台詞や所作にしっかりとのせて組み上げていく感じ。一つずつのシーンが戯曲のディテールにそって組みあがる。従前に感じた戯曲の良さを再確認することができたし、その中に役者が作る個性がしっかりとはまり、そこにくっきりとした舞台の色やエッジをもった厚みが生まれていました。

ルームシェアをする二人の女性のトーンが見事に異なって編まれていることが舞台の力になっていて、でも、そのことが場の空気を乖離させないように一つずつの台詞がとても丁寧に語られていく。他の役者たちもぶれなくキャラクターを貫いていきます。そのなかで、戯曲に紡がれる時間の流れがきっちりと観る側が物語を歩む階段となって、その顛末を追わせてくれる。
オフィスやコンビニの誇張された人間関係の空気も滲みなく伝わってくる。影の主人公となるコンビニ店員のちょっとバイアスのかかった不器用さにも観る側を引きつけるものがあって舞台全体の隠れた柱に育っていく感じも良い。主人公の後輩のジェンダーだけが平成・昭和チームで異なるのですが、こちらのバージョンではそのロールの想いのあいまいさもうまく戯曲に定められた空気として場の空気に織り込まれていたように思う。

観終わってくっきり差の中に少し硬質な印象が残ったりもしたのですが、それは舞台が解けていないというよりは、戯曲のディテールまでが舞台に作りこまれていたからであるようにも思えたことでした。

平成チーム

出演 : 冬月ちき、小鶴璃奈(ラフメーカー)、湯口光穂、川原真衣、米田敬(トルチュ)、三上雄大(カレイドスコープ)、安藤裕

昭和バージョンは、戯曲を足場にして役者たちが想いを異なる色で膨らませていく。戯曲から外れているわけではないし、その仕掛けは舞台に織り込まれているのですが、それがダイレクトに観る側に置かれるという印象はなく、台詞などよりシーンごとに役者たちが醸す想いのありようとそれを支える空気の重なりに浮かび上がってくる。
平成バージョンと比べても物語のクリアな顛末の組みあがり感はなく、シーンの背景についてもそのディテールがぼやけてる感じはするのですが、なんだろ、そのことで時間の実感が物語の歩みにうめこまれるのではない、際立った解像度に支えられたロールたちの想いの感触とその変わり方として訪れる感じがありました。
ルームシェアの二人が読む互いの日記から、とてもしなやかに其々の時間が広がっていく。読まれるものが、演じられるキャラクターの想いの外枠となり、それを共有するふたりの距離の実感となって、二人がすごすそれぞれの時間に歩みとふくらみが生まれる。最後には物語の中心に束ねられていくコンビニの店員にしても、その存在感が直線ではなく曲線で差し入れられ、その時間を過ごす女性たちのさらなる実存感へと膨らんでいくような感じがあって。

平成チームの舞台から物理的に端折られているシーンなどもあったのですが、そのことで、物語に縛られないキャラクターたちの視座からの日々を暮らす感覚が導かれていて、それは登場人物によりそい、意識しない時間の歩みを舞台から上手く減色させ、より物語を登場人物の感覚に編み上げているように思いました。

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この2バージョン、まあ、戯曲自体の強度があるからこそ、できる試みなのだろうなとは思います。両バージョンを観たあとの感慨が足し算ではなく、ちゃんと掛け算になっておりました。

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