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クロムモリブデン『こわくないこわくない』これまでの研ぎ方では描きえないものへのアプローチ

感想が著しく遅くなってしまいましたが、2014年9月1日ソワレでクロムモリブデン『こわくないこわくない』を観ました。
会場は赤坂レッドシアター。

これまでのクロムモリブデンのテイストガしっかり担保されつつも、そのテイストとは異なるモチーフへの語り口があって。劇団としての新たな歩みを感じる作品でした。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

 

脚本・演出 : 青木秀樹

出演 : 久保貫太郎、渡邉とかげ、小林義典、武子太郎、花戸祐介、葛木英、金沢涼恵、幸田尚子、一川幸恵、稲葉千隼、岩岩さや子、大多駿介、川村紗也、須田彩花、成田汐里、萩原深雪、吉田健徒、吉田拓磨

冒頭から展覧会のごとくに様々なモラルハザードがてんこ盛りなのだけれど、舞台の切れから生まれる軽質さとともに、徒な嫌悪感を抱かせることなく物語に編み上げてしまう語り口の力があって、笑いつつ、そこからの展開にあれよと取り込まれてしまう。
物語の設定や展開に差し込まれた、ありえないような、でも現実と完全に乖離することのない誇張、児童ポルノ、育児放棄、人身売買、親の倫理喪失からひき逃げに至るまで、本来加害者である側の登場人物たちのロジックが、どす黒いのだけれど妙にあるあるで、キャッチ―で、しかも絶妙なさじ加減でのコミカルなテイストがあって、観る側に物語を手放すことをさせない、彼らの理屈とともに組み上げられ、滲み出してくるロール達のそれぞれが抱える感覚のひとつずつに、不思議な実存感があって引きいれられてしまう。

それらは、男たちの自ら抗することのできない欲望なども劇団の持ち味である歪みとともに晒しつつ、でも、意外なことに、よしんば歪んでいても人がその根源にもつ情や女性たちの母性のコアなども舞台に描き出していくのです。

 そうして、作り手がイノセントな少女たちや怨念に駆られた母親なども紡ぎ入れて丁寧につなぎ広げていく物語の顛末を追いかけていくと、そりゃもう、手練れの役者達がクロムモリブデンならではの世界のデフォルメのありようだけでも十分にタフで可笑しく圧倒されるのですが、でもそれだけではなく、次第に対象となる子供たちの天真爛漫さというか無垢さが、その歪みの重なりや狭間をこともなげに乗り越え潜り抜けていく姿に更に捉われてしまう。

「殺処分♪」とはしゃぐ彼女たちが置かれている境遇は、本来ドナドナが聞こえてきそうなシチューエションの哀愁があるはずなのだけれど、少なくとも物語の中の彼女たちにはその感覚がしなやかに欠落していて、そのイノセンスに裏打ちされた自由奔放さが、観る側に置かれた歪んだ世界をするりと潜り抜け、彼女たちの歩みや、さらには彼女たちの視座からの世界に観る側を取り込んでしまうのです。


なにか、観ていて、世の中に蔓延する様々な杞憂に徒に縛られすぎずに生きることが、これから日々を歩み始める世代にとってはとても大切なことのように思えてきた。
そりゃ、当節何も知らずに自由に生きていくことでの、いろんなことに巻き込まれたりぶち当たったりするリスクも山ほどあるのだろうけれど、でもそのネガティブな可能性に過敏になったり縛られるとしぼんでしまうような、ビビッドな感性もあるわけで・・・。なんだろ、社会のどす黒さは確かにあって、でもそれを憂いてただひきこもり息を詰まらせることはない。作り手が、それこそ震災や様々なできごとに萎縮しがちな世間に対して、こんな世の中ではございますが、自分の思うがままに生きたとしても、頭でっかちな世間が喧伝するようには「こわくない」んだよと、諭しているようにすら感じられたことでした。

ちなみにこの舞台、あたらしくこの劇団の舞台を踏む役者さんたちがたくさんいて、そのことでこれまでの劇団が描く世界とは異なる広がりがうまれていたように思います。たとえば3人の少女たちにしても、これまでの劇団員ならそのイノセントな部分をしたたかに切り取り舞台の色での切っ先を作り得てしまうのだろうけれど、今回初めてこの劇団で演じた役者達には、その舞台の空気に追従せず、舞台全体と異なる質感のキャラクターをそのままに演じていくような別の強さがあって。また、ベテラン役者と一対になるロールを演じた役者達にも、従前の役者たちの個性やリズムを受け取りながら自らの色を消すことなく、ロールの研ぎ方に新たな質感の厚みを作り出してもいて。
それらは舞台にとってはこれまでの役者達が研ぎ上げて醸し出すものとはことなる中間色なのだけれど、その中間色だからこそ初めて表現し、あるいは表現を広げうるようなニュアンスがあって、これまでのクロムモリムデンの舞台のぞくぞくするような密度や束ねで描かれたものに新しい呼吸が生まれていたように思います。

従前の作り手が作品に描き出すものは、モチーフを斜に捉え、バイアスをかけ、その質感に息を呑むような力があったけれど、今回の作品ではそれとは異なるモチーフへのアプローチで、これまでの視座では語りえなかったものを、さらに新しく描き出していたように感じました。

これまでとは異なる武器を手に入れた作り手が、今後どのような世界を、どのような語り口で紡いでいくのか、とても楽しみになりました。

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