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BoroBon企画『カナタノヒトヘ』異なる趣を支える役者の洗練。

2014年8月19日ソワレでBoroBon企画『カナタノヒトへ』を観ました。

中編の2作品を上演。会場は絵空箱。

この会場、先日旅立たれた水下きよしさんが最後に予約をしたとのこと。
フレキシビリティをもったスペースが作れることも、ワンドリンク付時のカクテルの美味しさも魅力なのですが、それよりもなによりも、この場所には観る側を取り込み舞台の肌触りにしっかりと浸し込む空気があって。

そのなかで、水下きよしさんとゆかりのあった役者たちが丁寧に紡ぐ一つずつの刹那を、しっかりと受け取ることができました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

・星守る犬~絵空箱バージョン~

作・演出 : 工藤千夏

伊原農(ハイリンド) 瓜生和成(東京タンバリン) 川西佑佳(扉座) 伴美奈子(扉座) 山藤貴子(PM/飛ぶ教室)


初演は10年ほど前だったそう。そのときには亡くなった水下きよしさんも出演されていたとのこと。

その初演時にもすでに過去であったろう「今」が設定されていて、 昭和のバブル期に生きる男と、その父に対する記憶、さらにはその父から垣間見える大画家の祖父の気配が物語が綴られていきます。

切り出される二つの世代の男たちには、言葉に押し込めてしまえば同じような「芸術家としての苦悩や達観」があって、それが二つの時代の、親子の立場や、記憶と現に語られることで、いくつもの視座を与えられて解けていく。
父と心中したひとりの女、さらに「今」に生きる男と父と死んだ女と血縁の女性の関係、昔の女性が語る死の感覚には、時間に滅失した想いの先に残ったある種の達観が感じられ、「今」の男と話す女性が語る死への感覚には、想いを死への達観に至らしめない生きる質感への血の通った生々しさがあって。

父と子の描くことや生きることへの感覚も、それぞれの時代をともに生きた女性たちの色に合わせるように、過去のイメージのなかの父は軽質さをもって、今を生きるその男には、日々の閉塞した行き場のない重さが差し入れられる。
二つの世代の時間が、互いの紡ぐ感覚の裏側を照らしだし、「絵を描くものの苦悩や達観」的な平面での物語の広がりとは異なる、立体感を持った表現を為すもののありようが解かれていくことにぐいぐいと惹き込まれてしまいました。

さらには、そこに差し込まれる、父子の妻であり母である女性の存在が、描かれる世界を単なるシーンの積み重ねにとどめず、それぞれの時代を一つの時間の歩みに束ねていく。

観終わっても、この空間だからこそ散らずに残る、描かれた時間たちの気配のようなものに、暫く心を浸されておりました。

・クリバヤシキャロル

作:小川未玲

構成演出:BoroBon企画

出演:

伊原農(ハイリンド) 瓜生和成(東京タンバリン)  川西佑佳(扉座) 伴美奈子(扉座) 山藤貴子(PM/飛ぶ教室) 
*日替わりキャスト* 仲坪由紀子<7日8日9日ソワレ>  藤谷みき<9日マチネ>
 北沢洋(花組芝居)<10日>


おとなのおとぎ話のような風合いを持った作品で、ボロアパート(たぶん)に暮らす住人達がとてもビビッドに描かれていきます。

役者たちのお芝居が、幽霊を含めて登場人物一人ずつの個性を、ウィットを織り込みながら、素敵にあからさまに描き出していく。
そんなに複雑な物語でもないのですが、その歩みに席の移動とか、ライトの当て方とか、いろんな変化が差し込まれ、役者たちそれぞれのキャラクターを切り出す心地良い語り口が、そのアパートに流れる時間に観る側をとりこんでいく。

そうして、空間に紡がれたトーンに讃美歌106番が、本当によくマッチするのですよ。気が付けば、コーラスのハーモニーと役者たちが紡ぎ舞台に導いた観る側をほっこりさせるようななにかに身をゆだねておりました。

色合いの全く異なる2作品を、ちゃんと別腹で、でもそれぞれの研がれた空間の相乗効果で訪れる充足感と共に、たっぷりと楽しませていただきました。

かつて同じ舞台を紡いだ役者たちがその空間に置いた二つの世界、天から眺めた水下さんも、ご自分が共に舞台を培ってきた仲間のお芝居をきっと愛で、楽しまれたのではないかと思います。

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