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カトリ企画UR『紙風船文様4』演出に紡ぎ出された岸田戯曲の新たな生々しさ

2014年4月11日ソワレにて、カトリ企画UR『紙風船文様4』を観ました。

会場は新宿眼科画廊地下。

今回の演出家は、モモンガコンプレックス主宰でもあり、ダンサーや振付家としての力量は十分に承知、その彼女の感性が岸田國士の世界をどのように切り取るのか、とても楽しみに足を運びました。

(ここからネタバレがあります。ご留意ください)

作   : 岸田國士

演出 :  白神ももこ

出演 : 黒岩三佳、武谷公雄

場内に入ると、役者達や演出家がアップをしていて(アップ中という手作り感いっぱいの表示あり)、
終わると役者たちは、それぞれに場の掃除や本番に向けての仕込みでコーヒーを沸かしたり・・・。
その空気のナチュラルさがすでに醸すものがあって、
よしんば客入れ中であっても、作業が終わった会場の隅の方に佇む役者を観ていると、
それがあたかも、夫婦の日常の風景に感じられる。

やがて、舞台が始まるとワイドショーのインタビューの態が作られ、それぞれの結婚観が語られ、それが結婚前の二人の時間のようにも思えて。
そうして、価値観全てが一致というわけではない、男女の新居の風景が生まれ、
観客は、岸田戯曲に描かれた、そんな夫婦のとある日曜日の午後へと導かれていきます。

演出はダンサーでもあり振付家でもあるし、彼女が身体で紡ぐ極めて秀逸な作品を幾度となく観ているので、戯曲の本編がどのように捌かれこの空間を満たしていくのかと前のめりになって見つめる。
でも、そこに現れたのはあからさまなダンスの動きではなく、一見とても自然体に思える会話の積み重ね。
作り手が役者達のロールを担い作り上げる力を信頼して、まっすぐに引き出し組む、その会話で織り上げられた揺蕩うような夫婦のそれぞれの呼吸にすっと引き込まれてしまう。
ナチュラルな会話のテンポや間が役者達の研がれた感性とともに紡がれ、刹那ごとに温度や密度が作りこまれることで、表層の肌触りとは異なる繊細な質感を持った夫婦のあいだに生まれる感情が、しなやかな起伏を持って観る側に伝わってくる。
舞台が必ずしも息詰まるような空気で観る側を閉じ込めているわけではなく、むしろその空間の色調に塗りこめられない個々の想いの中庸さが、役者達がつくる刹那ごとの距離や視線の方向裏打ちされた台詞と共に、良い意味であからさまに、その時間のテイストに組み上がっていく。

そうして醸された行き詰まりや行き場のなさのなかに解かれる鎌倉を巡る二人の遊び心も、徒に尖って世界を踏み出したり身体でかぶいたりすることはなく、丁寧な所作に裏打ちされた会話の確かさが仮初の風景に質感を与えていく。
でも、そうして積み上げられていく時間だからこそ、その先に訪れる妻から突出するように溢れる感情や男のとてもしなやかにうすっぺらい当惑、さらには、キャラクターたちが同じふたたび同じ感情の満ち干に戻る滅失感などが、無理なく、観る側に違和感を与えることなく、日曜日に満ちる、常ならぬ、常なる時間に訪れるものとして、切っ先を持って観る側を捉えるのです。
この戯曲は男性の書いたものだし、カトリ企画に留まらずこれまでに観た他の舞台を思い出しても、妻や夫の感情は夢の膨らみと対比しての諦観や満たされなさという男性にも理解しうる概念に削ぎ出され伝わってきたのですが、この舞台にはその過程をすっと飛び越えて女性自身にも理屈ではつかみきれぬままに湧き上がってくるような感情があって。交わされた言葉の擦れ違いや鎌倉の顛末につもった、抑えきれないものが、戯曲の枠組みを超えて0突出し溢れるその姿に違和感なく、必然すら感じつつ深く染められてしまう。

さらには、
この舞台、戯曲に対してとても実直だと思うのです。でも、なんだろ、物語を構成するシーンの一つずつに、くっきりとしたフォーカスやミザンスの作り方があり、その中に時間を滲みのなく伝えるエンジンが機能していて、そのことで、これまでに観たこの戯曲の上演とは似て非なる新たな視座やメリハをが、他の上演との比較にに汚されることなく、新たな感覚として観る側に供されているようにも思えて。

開場時や冒頭のシーンと共に作られた二人の日々の俯瞰と、特に妻に積もったものの肌触りや感情のこぼれ方の交わりから切り出されたものが、「倦怠期の入口の夫婦」的な座標やキャクターたちのありようを引きだしていて。でも、観終わって、そうして組まれた舞台に生まれる奥行きに導かれ、そのなかに息づくものの生々しいどうしようもなさに、強く心を捉われてしまったことでした。

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