On7『痒み』、創意の踏み出しを支える女優たちの役者筋
2014年3月25日ソワレにてOn7『痒み』を観ました。
会場は下北沢のシアター711。
On7は、青年座・文学座・俳優座・演劇集団円・テアトルエコーに所属する、同世代の、まさに今が旬の女優達が集まったユニット。従前に観た第0回公演『Butterflies in my stomach』や今回公演のフライヤーに使われた写真の展示とリーディングのイベント『名も無き花』も、とても印象に残った作品で、この公演もとても楽しみにしていました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
脚本・演出 : サリngROCK(突劇金魚)
出演 : 小暮智(青年座)、尾身美詞(青年座)、安藤瞳(青年座)、渋谷はるか(文学座)、吉田久美(演劇集団円)、保亜美(俳優座)、宮山知衣(テアトル・エコー放送映画部)
同じ大学の写真サークルだった7人の女性たちの物語。
久しぶりに集まった女性たちがそれぞれに抱く感情や想いの話かなぁと思って観ていたら、物語の思いもよらない展開にびっくり。
共に乗った飛行機が墜落して、それぞれが放り出された場所での時間を歩み始める。
その世界が、半端な場所ではなく、ジャングルのような場所。
最初は彼女たちがその環境の中で生きていく姿を刹那として眺めていたのですが、やがて時間は早足で流れだし、シーンのあちらこちらに仕込まれたものや、それらがほどけ現れてくるものに加えて、彼女たちがその場所でのありようや変容していく姿に深く取り込まれていく。
時に分かれ、交わり、また離れていくグループ内の女性たちの関係。
互いへの憧れや嫌悪。
妊娠・出産、子供、離婚や再婚、
家事、食べること、
帰ることや帰らないこと、
家庭を守ること、
一人歩むこと・・・
そうして特に意識する風情もなくそれぞれが自分の世界を貫くこと・・・
さらには、ジャングルや砂漠の具象として眺めていたその場所が、やがて彼女たちの生きる感覚を切り出したものであることに思いが及ぶと、作り手が作品に仕掛けた寓意に受け取ることに心を奪われて。
たとえば虫は世間とか噂とか風聞のようなものだろうか。振り返ってみると、もっと女性の内に湧き巣食う、男にはわかりえないなにかにも思える。
では、おかしな形をした果実やシェルターに紡ぎこまれたものは?
森や砂漠の空気の肌触り、
戻ることや戻らないこと、
そもそも旅行券に込められた寓意とは・・・。
気が付けば、舞台に置かれたものの一つずつが、いろんな速度や重さや質感を持って女性たちの歩みや湧き上がる想いや生きていくこと自体のありようを綴り編み上げていて。
それらが、翻って観る側に訪れる女性たちの人生の、様々な質量とリアリティにがっつり閉じ込められてしまいました。
様々なシーンの意図を切り出し映えさせる美術や照明にも明確な意図と創意があり、映像にもロールに訪れる想いの感触をダイレクトに観客に注ぎ込む力があって。音と舞台との相性も良い。
そして、なによりも、一つずつのキャラクターのコアを作りこみ、様々な語り口や身体を使った表現とともに織り上げ、変化にぶれることなく描き貫いていく女優たちの役者としての筋力が、一見奇異にも感じる物語のシーン一つずつに異なりぶれない密度をつくり、バラけさせることなく積み上げ、やがて表に翻って女性たちの歩んだ半生の肌触りや質量を観る側に伝えていくことに感嘆。
終盤、企みに満ちた物語が、老婆となったサークルのメンバーが集い語るそれぞれの人生へとほどけるなかで訪れる、一人ずつの異なった、決して奇異ではない、でも凡庸ではない歩みの立体感に心捉われる。
しかも、そのシーンが彼女たちの終焉ではなく、更なる時間を歩むための通過点のようにも感じられ、終演時には更なる余韻が生まれていました。
終わってみれば、ウィットもいろいろに織りこまれているし、物語に仕掛けられたものも、すぐにほどけるもの、ゆっくりと姿をあらわすもの、作品がすべて晒され劇場からの帰り道にふっと気づくものなど、様々な深さや広がりを観る側が受け取ることができるように仕掛けられてることにも思い当たって、観終わって時間がたつにつれ、単に女性たちの人生の顛末を観たというだけではない、もっと広がりや奥行きを伴った感覚に深く浸されたことでした。
ちなみに、脚本・演出のサリngRockについては石原正一ショー等を観て役者としての秀逸さは承知していたし、また、彼女の短編戯曲も何本か見たことがあってとても気になる作り手だったのですが、今回フルスケールで作・演出された作品を観て、彼女だからこその発想や、表現や、描きうる世界があることを実感。
今秋にはアゴラで彼女の作・演出での舞台が予定されているとのことで、今からとても楽しみになりました。
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