« 『{ARIAKE THEATRE夏}vol.1 いまの小劇場演劇のいま』、観劇の目がリフレッシュされる | トップページ | 霞座『鉄の時代』テンションから生まれるクリアな感覚 »

ぬいぐるみハンター『ベッキーの憂鬱』ベースを立ち上げ厚みを作り出す

2013年8月9日ソワレにて、ぬいぐるみハンター『ベッキーの憂鬱』を観ました。

会場は下北沢駅前劇場。

その、空気全体で物語を運んでいくような語り口に、しっかりと捉われてしまいました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出 : 池亀三太

出演    :  山岸門人、神戸アキコ、浅利ねこ、猪股和磨、竹田有希子、森崎健吾、川本ナオト、津和野諒、富田庸平、渋谷優史、赤本颯、齋藤喜彦、梅本幸希、矢頭睦、太田彩佳、土田香織、レベッカ

受付を済ませてふっと見回すと
ロビーには試験の成績順の張り出しがあって。
会場に入ると、舞台には校舎や体育館の外観、
客席の壁面をつかって学校まわりの雰囲気があったりと、
様々な造作が仕掛けられていて。

そして 開演すると、舞台はたちまちにリズムに満ち、
素敵に薄っぺらくて作りこまれた、
スクールライフ(洋物っぽく)が組み上げられていく。
まずはそこに抜群の完成度があって。

ハイスクールミュージカルを彷彿とさせる
ホームルームのルーティンにしても、
文化祭のありようや、学級委員の熱さや、クラスのノリやしらけ方にしても、
休み時間や放課後の雰囲気にしても、
素敵にデフォルメをされていつつ、
でも、肌触りに幾つものベクトルでのリアリティが織り込まれていて、
紡ぎ出されるそれらのコアの質感にぶれがない。

そうして、観る側を高校生活のルーティンに浸してしまうことで、
物語のプラットフォーム上に、作り手の
創意と洗練を持った更なる表現を自由に差し入れる間口が生まれる・・。

野球部のダメ部員二人の話にしても、
その時間の中に置かれると
よしんば少々お下劣な表現であっても
そのあざとさではなく、
内心のありようがクリアに残るし、
下ネタをさらに拡張して呼び込んだ失笑の先には
不良っぽい少年の、実はいいやつさが
とてもしたたかに切り出されていたりもする。
女子たちのドライでとても正直な想いのありようも、
何シーンかを丸ごと占領するような妄想も、
ピュアな男子の恋心も、
様々なベクトルの創意と、遊び心と、したたかさに
とり散らかることなく、学校の時間として紡がれ、
織り上げられて・・・。
なんだろ、上下に、様々に、表現の枠を乗り越えるような感じが
舞台にはあって、素敵に揺すぶられるその積み重ねが
観る側を舞台にのめり込ませていく。

要所を繋いでいくダンスにしても、
役者たちがとてもよく鍛えられていて、
細かいところまで、流すことなく、確実にシークエンスをこなし、
観る側をちゃんと委ねさせ、物語の雰囲気に浸しこみ
さらにはレベルを踏み出して観る側をさらなる感覚に導く刹那を
いくつも作りだしていきます。
流れや刹那の美しさを湛え、
時に意外性を秘めた切れをもった動きや早さがあったり、
いきなり大技でこれなら黒鳥だって踊れるのではと思わせるような ブレのないスピンがあったりで、
観る側をあれよと前のめりにさせてくれる。
生徒会長の外連などにも質量があって、
ヒールとして 残り全員を背負っての明確な存在感に目を奪われました。
役者の立ち姿が目を瞠るほどに冴えていて・・・。
また、そのロールの舞台の差し込み方も旨いのですよ。
ドンと舞台に投げるのではなく、
なにげに手順を踏んだしたたかな空気への紡ぎこみがあって。
最初にしらっと観る側の片隅に印象を焼き付けておいて、
そこからしっかりと段階を追ってその在り様を晒していくので、
唐突感がない。

そんなふうにしてどの生徒にも、
もれなく舞台に埋もれない個性が切り出されているから、
個々のエピソードが舞台から乖離することなく、
やがてはそのプラットフォームの厚みとなり
空気を高揚させ、
気が付けば、歩むのではなく満ちるように
観る側をお化け屋敷の世界へと運ばれているのです。

ストーリーのメインの骨格の単純さを
まったく感じないわけではないのですが、
でもベッキーの存在が観る側の意識にも置かれることで
物語そのものの広がりに加え、
舞台内の肌触りと外に据えられた視線の複眼での立体感が生まれ
それが厚みとなり、、
そのふくよかさと物語のシンプルさが
実によく折り合っていて。
個々の刹那にも顛末があって、その場を染めるだけでなく、
最終的にはなげっぱなしにされないのもよい。
特に中盤以降にエピソードたちがうまく束ねられていくグルーブ感には
がっつり心惹かれたことでした。

作り手のこのメソッドと同じ感触は、
以前幼稚園を舞台にした作品などにもあって
その時にも豊かな果実を結んでいたのですが、
この舞台では、そこにドラマを取り込み動かす洗練が加わって
さらに様々な色の物語を編むことができる大きなキャパを作りだしていたような気がします。
作品を堪能しつつ
実に様々な引き出しを持つ池亀作品に今回も舌を巻きつつ、
再び、彼のこのようなやり方で編んでいくものに出会うことが、
とても楽しみになりました。

|

« 『{ARIAKE THEATRE夏}vol.1 いまの小劇場演劇のいま』、観劇の目がリフレッシュされる | トップページ | 霞座『鉄の時代』テンションから生まれるクリアな感覚 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ぬいぐるみハンター『ベッキーの憂鬱』ベースを立ち上げ厚みを作り出す:

« 『{ARIAKE THEATRE夏}vol.1 いまの小劇場演劇のいま』、観劇の目がリフレッシュされる | トップページ | 霞座『鉄の時代』テンションから生まれるクリアな感覚 »