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オーストラ・マコンドー『岸田國士原作コレクション(B)』ほんと、岸田國士がおもしろすぎる

2013年5月26日マチネにて、オーストラ・マコンドー『岸田國士原作コレクション(B)』を観ました。

前夜の(C)プログラムに続いての観劇。

(C)、(B)を通じて、どの作品にも演出の異なった個性があり、
それぞれに岸田戯曲の面白さが抽出されていて・・・。

正直なところ、戯曲賞の冠の印象が強かった「岸田國士」の本来の魅力に、
どっぷりと浸りこんでしまいました。

(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください。)

前日(C)とは異なる位置に一番大きな、
半分ステージ代わりになるテーブルが置かれていて・・・

Bも雰囲気の全く異なる3作品、
時間が経つのがあっという間でした。

原作 : 岸田國士

演出 : 倉本朋幸

振付 : 野上絹代

「取引きにあらず」

出演 : 宮崎雄真、金原直史、小林涼太、島岡亮丞 野口卓磨、蓮根わたる、土屋咲登子、でく田ともみ、久保田南美

よくできた落語のような噺なのですけれどね・・・。

会場の使い方がとてもしたたか。
外への扉を大きく開けて、
看板娘がそちらを向いて座れば、
そこは町のタバコ屋の風情。
マチネだったので、通りの風景なども見えて・・・。
で、父と娘のロールが本当によく作りこまれているのですよ。
ちょび髭のおやじのちょっと見栄っ張りで強欲なところと、
そんな父親に対して少々楯突いて、距離を置いたりはしても
実は気立ての良い娘・・・。
隣人も、妻も、その店を訪れる客たちにも、
昔の東京の下町の風情や気風が感じられて。

その雰囲気だから、
噺の筋立てにも実存感が生まれ、
詐欺師たちの企てが
じつに見事にはまり込んでいくのです。

会場の外までも使って、
店の内外を編み上げたり、
その父親の愚かさに対しての
女性たちのちょっと醒めた感じも絶品。

なんて、風景を持ったお芝居だろうと思った。

高座で上手い噺に巡り合ったような
良質のおかしみに浸され、充足感が残りました。

「ヂアロオグ・プランタニエ」

出演 : 遠藤留奈、小宮一葉

始まりは、女学生ふたりの、一人の男性をめぐる
レトロで、ストイックで、どこか甘酸っぱい会話劇、
でも、その表層の言葉使いに
二人が身体で紡ぐ心情のビビッドさが重ねられていきます。
役者たちには、一行ごとのセリフの確かさがありつつ、
その身体に異なる内心を紡ぎだす表現の技量があって。

最初は、繫がっている身体と台詞に、
耽美な空気を感じるのですが、、
次第に、身体から刹那にあふれ出てくるものが、
言葉で織り上げられる空気から乖離し、
二人の世界に立体感を醸し出す。
古風で慎ましい言葉たちが織り上げる
心情の移ろいの美しさをベーストーンのように聞きながら、
観る側の眼前には、
女性たちそれぞれの、表情や、四肢や、呼吸からの
異なる心情の移ろいが溢れだして・・・。

戯曲が内包する少女たちの踏み出しが、
役者たちの身体から紡がれる切先と彩りを持った表現に、
アンニュイな感覚に閉じ込められるのではなく、
豊かな感性に満ちた
女性へと解き放たれていく終盤が圧巻。

やがて恋慕から抜け出して、
セーラー服の縛めを自らはずして・・・。
ラフに塗りあうルージュ、
ピンヒールの靴、
戯曲につづられた会話劇のデリケートな質感を滅失させることなく
言葉に置かれた想いの内側を切り出し、描きだし、
踏み台にして。
思春期の少女の舫を解き、
女性に踏み出す刹那を導き出す、
その表現の圧倒的な広がりに息を呑む。
ラストの素敵なグルーブ感と遊び心に目を見開き、
そのビビッドで、洗練され、解放感と遊び心にあふれた
あっかんべー」の質感に
圧倒されてしまいました。

「ここに弟あり」

出演 : 後藤剛範、安川まり、兼田利明

前作最後に場内に満ちた高揚や解放感がすっと消えて、、
場内は若い男女が暮らす、東京の小さな家へと、
空気をかえて。
今様の暖房器具を火鉢に見立て、
ちょっと貧しい風情のなかに、
二人の生活が浮き彫りになっていきます。
その場の夫婦の雰囲気が丁寧に置かれ、
なんというか、二人の事情や、
言葉では刻み得ない距離感が
とても自然な肌合いで伝わってきて。
役者のロールの持ち方が実にうまいのですよ。
日々に解けた時間の肌合いで場を満たしながらも、
ふたりが、たがいに抱く想いや遠慮が、
戯曲の描く如くにしっかりと作りこまれていて。

そして、その共に実家と疎遠になっているその夫婦に、
田舎から夫の兄が訪ねてくる・・。

兄の演じ方も本当に実直で確かでした。
二人が織り上げた空気にすっと入り込んで、
けれんなく、でも、薄っぺらくなることなく、
戯曲に描かれた兄自身を織り上げて、
さらなる弟や女の思いをも引き出し、照らし出して。
で、そんな風に、
兄の矜持や弟の意地に女の勝ち気さや頭のよさが重なると、
刹那ごとのロールたちの想いにとどまらない、
それぞれの内心の色がすっと立ち上がり、
戯曲の仕掛けがその真価を発揮して、
物語にペーソスとぬくもりを与えつつ
観る側を染めていくのです。

そこには、戯曲に綴られた骨組みの面白さに加えて
それぞれの背負うものや意地がすっと消えて残る、
ロールの息遣いを持った、
互いをいとおしく想う心情が満ちて。
べたな言い方なのですが、
はかなくともその場にある、
小さな幸せとペーソスに深く浸潤されて・・・。
なんだろ、
人情なんて言葉にするとべたついてしまう・・。
うまく言えないのですが、ロール達の生成りの想いが、
しなやかに残されていて。

役者や演出によって
戯曲本来の味わいが引き出されるにとどまらず、
その、冬のひと時の風景に血が通い、
生かされていたように感じたことでした。

*** *** 

Cに続けてBを観て、
岸田戯曲本来の面白さと、
作り手が切り開く間口の豊かさに更に魅了されて。

Aが今から待ち遠しくてなりません。

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