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風琴工房『おるがん選集 3』狭さが奥行きを際立たせて

2013年5月2日ソワレにて風琴工房『おるがん選集 3』を観ました。

会場は中野駅から10分ほどのところにある「くらしのアトリエ ひらや」。
看板がかかっていなければ、 普通の民家と見紛う一軒家のスペースでの公演でした。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

演出 : 詩森ろば

演劇などでは、狭いことが必ずしもハンデにはならないわけで・・・。

玄関のこじんまりした三和土で靴を脱ぎ入場。
その時点から、家の風情が肌に伝わってくるよう。
その空間が醸し出すたおやかさと、、
友人宅に初めてお邪魔するような緊張感の中で
開演を待ちます。

・『物語が、始まる』

原作 川上弘美

舞台スペースとして際立って狭い感じはしないのですが、
中央にテーブが置かれていることもあり、
どこかタイトな空間を中心としたお芝居・・・。
そこを役者たちの細微な表現が満たしていきます。

冒頭から、「雛形」の存在が既知のごとくに語られて・・・。
それがあるがごとくのものとしての空気が
最初こそ、観る側に多少の違和感を与えるものの、
男女の会話の肌触りが、
場にSFのようなテイストを醸すこもとなく、
重ねられて・・・。
次第に女性と雛形と、そして男性との顛末として綴られていきます。

田中沙織の瞳やまぶたで紡がれる、
女性の内心の細微な揺らぎや変化に、
強く深く取り込まれる。
そのまなざしの先にあるものと、動きと、フォーカスと、強さと、色が、
しなやかに移ろい、舞台上にあるものの、時の長さや、距離や、
女性自身の刹那ごとの想いのありようを観る側に伝えてくれる。

どこか音読みというか硬質な響きを持った単語、
雛形の視線は、よく制御され、どこか一意に制御されつつ、
そのものの、どこか削ぎ落された貫きと強さを場に差し込んで。

佐野功が演じ上げる雛形との時間に少しずつ染められ、
揺蕩い移ろう女性の色の細微な変化が、
重なり、女性の舫いが解け、
やがて、根津茂尚が担う男がそのままに醸し続ける色から乖離していく。

最初にその存在が雛形と呼ばれたとき、
無意識に「なんの??」と思っていて、
でも、その存在が、
次第に育ち、やがて女性を取り込み変え、
女性自身に新たな視野を織り込み、
やがて急速に勢いを失っていくというその姿に、
なんだろ、季節ごとに時代というかトレンドを纏う
姿が重なって・・・。
あからさまさもなく、むしろやわらかくしなやかに、
でも明らかに女性は雛形が標榜する時代に染められ、
雛形に馴染むことなく自らの色を抱き続ける男との会話に、
その姿が細微に映える。
シーンの重なりは、さらに雛形の世界と女性を撚りあわせ、
特に派手でもラディカルではない、
むしろややコンサバティブにすら思える女性の
自らの日々を生きる自然体の感覚が、
鮮やかに伝わってくるのです。

その雛形が、あっけなく滅失し、
その先の時間に舞台が閉じるとき、
どこか、奇想天外に思える物語に切り取られた、
もはや戻りえない女性の今を歩む感覚と、
そこに寄り添うことのできない男の姿が
それぞれを担う役者たちの秀逸とともに
しっかりと置かれていたことでした。

・痩せた背中

原作 鷺沢萠

そこにいる人間全員で
客席のレイアウトを変えて二作目を・・・。
なにか、スタッフ(役者の方)と一体になって
コトゴトやる感じからやってくる、場の一体感も楽しい。

物語は、父の葬儀に喪主として参列する男(酒巻誉洋)の
記憶の態で綴られていきます。
冒頭の親戚の男(根津茂尚)との会話からの、
その時間への引きこみ方にシンプルでしたたかな作劇のキレがあり、
一旦男の視座が観る側に定まると、
それぞれのシーンの肌触りが
しなやかに観る側に訪れてくる。

父と李千鶴が演じるひとりの女性をめぐるエピソード、
3人で暮らしていた日々の記憶、
奔放な父を待つ女のありようが、
次第に女性自身を蝕み、やがて、あるカタストロフを迎えるまでの空気の感触。
そのことが父を変えて、女性に尽くすようになって・・・。
そこには、女性自身の姿や千羽鶴から垣間見える、
男にも知りえない男女の時間の存在があって・・・。

その風景の伝聞だけではなく、
風景に収まりきらない感覚が、
男の視座と時間が貫かれるなかで、観る側にも伝わってくる。
さらには舞台にある彼女の恋人(宍戸香那恵)の存在には、
観客を男の父と女性の記憶に塗りこめてしまうことなく
その顛末の奥を俯瞰させる場の空気を醸し続ける力があって。
男が自ら身を置く男女のありようとの、
重なりや異なりが、
父と女性の関係を奇異な物語に封じ込めることなく
むしろ、
二人の想いの深さや溢れだす情念に近いものを
際立たせていくのです。

女性の編み物をする姿が、男の恋人のそれと重なり
男女に流れる時間の普遍を織り上げていく。
女が、父親のための食事を窓から犬に投げ捨てるシーンがあって、
でも、それは一瞬の驚きであっても、
観る側には、微塵ほども突飛さを感じさせることなく、
むしろ、女性の想いの底知れない深さこそが、
観る側に焼付いていく。

冒頭、観る側を物語に導いた男の親戚が、
観る側を男の想いから引き戻して・・・。
そこにある今に、父と女性が重ねた、
そして男と恋人が重ねていく時間の
俯瞰がかさなって。

なんだろ、上手く言えないのですが、
幸せとか不幸せという範疇などではとても計りきれない、
男と女の日々の時間の感覚が、
軽さと重さをそれぞれにして、
この空間に刻まれたものとして残る。
その感覚の圧倒的な実存感とはなかさを、自らに仕舞い切れずに
終演後もしばらく舞台の空間を眺め続けておりました。

さらには、印象に置かれたものが、
きっとこの舞台でしか受け取りえない感覚であることを知りつつ、
原作の小説を無性に読んでみたくなったりも・・・。


*** ***

帰り道、なにかとても贅沢をさせてもらった気分。
手練れの作り手が、極上の役者を得て編み上げた時間に、
さらに心に解ける芝居の余韻を感じながら、
駅までの道のりが全く遠く感じられませんでした。

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