吉祥寺シアター×オーストラ・マコンドー 新作公演プレイベント 『素晴らしき哉、人生』原作リーディング、真打のクオリティ
2013年、1月19日ソワレにて、
吉祥寺シアター×オーストラ・マコンドー 新作公演プレイベント 『素晴らしき哉、人生』原作リーディングを観ました。
会場は吉祥寺シアターけいこ場。
語り手が編み上げる、物語の世界に、
ゆっくりとふくよかに浸されてしまいました。
(ここからねたばれがあります。十分にご留意ください)
原作:フィリップ・ヴァン・ドーレン・スターン『いちばんのおくりもの』
演出:倉本朋幸
出演:佐藤みゆき(こゆび侍)、後藤剛範(国分寺大人倶楽部)、NIWA(ワニモール)、MOGMOS(ギター演奏)
靴を脱いでスリッパに履き替えて、会場に入ります。
部屋の長辺にそって2列にパイプ椅子が並べられ
舞台と思しき部分には、机の上にシンプルで手作り感に満ちた
ジオラマがおかれて。
開演までの会場は少々殺風景にも思える。
やがて、黒い衣装に身を包んだ演者たちが現れ、
恣意的に、ちょっとぐたぐたっぽく、
開演前の諸注意なども・・・。
そして、柔らかい一瞬の緊張があって、物語が紡がれ始めます。
観ているうちに、これ、とても上質な、
西洋版人情噺だとおもった。
役者たちは、皆、手練れ揃い。
中でも、机の向こうから物語を紡いでいく、
佐藤みゆき の尋常ならぬ表現力に惚れ惚れ。
物語の流れへの導き方もとても丁寧で、
いきなり観る側を閉じ込めるのではなく、
空気を受け渡し、暖めながら、
着実にその世界に観る側を歩ませていく。
上下(かみしも)を切ってのキャラクターの切り替えも実にしなやか。
リーディングの態からすっと踏み出して、
単に言葉で満たすのではなく
紡ぎこむ空気の緩急を操って、
次第に、観る側に物語に縒り込んでいく感じが凄く良い。
地語りにもしなやかな抑揚と安定があり、
観る側を吸い込まれるように委ねさせてしまう力があって。
しかも、編み上がる会話が刹那ごとにビビッドで、
細微までの解像力を伴った豊かな表現に、
物語が表層を滑らず、
リーディングから抜け出した登場人物たちの風情や想いに
しっかりと裏打ちされつつ織り上がっていく。
速度と間の使い方も絶妙。
観る側が、その内にイメージを広げうる一瞬の呼吸があって、
それが霧散する前に次のシーンがすっと訪れて・・・。
・・・この感覚って、
名人上手の高座に惹き込まれた時のものだと思い当たる。
物語が進むにつれて、
ベタな言い方だけれど、ほんと、うまいなぁと思う。
落語でいえば、どこかはめ物のようなロールの、
後藤剛範・NIWAのふたりにも、
舞台にさらなる立体感を導く切れと力があって。
あとで少々ハプニングがあったこともおっしゃっていましたが、
彼らの演技筋の地力が、そんなことを微塵も感じさせず、
シーンにさらなる質感とベクトルでの表現を重ねて、
ファンタジーの中に実存感を育んでいく。
MOGMOSのギターやボーカルも、
シンプルな空間に透明感とぬくもりをもった音で色をつけ
心地良いテンションと厚みを作って。
主宰がアフタートークで話されていたように、
噺家さんの手ぬぐいと扇子のごとく
小道具をかばんに詰めて、机一つ乗せたバンで
学校を回れるような道具立ての身軽さがありつつ、
でも、稽古場のどこかモノトーンな風情を、
もっと言えば、きっとどんな場所でも
ちょっとビターで、でも心解かれるクリスマスの夜の物語に染めてしまう
演劇としてのふくよかな力量をもった、
とても贅沢で見事なパフォーマンスでありました。
もし、彼らが夢見るように、
学校でこの舞台の上演が実現すれば、
観客の生徒たちは、
もれなくきっと、観劇という人生の楽しみを入れる
プレゼント用の靴下を
もらえるのだろうなぁとも思ったり。
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