劇団PEOPLE PURPLE 「クリスタルイヴ」オーソドックスを陳腐にさせない作劇
2012年9月7日ソワレにて劇団PEOPLE PURPLE「クリスタル イヴ」を観ました。
会場はSPACE107。
歳がばれちゃうけど、この劇場、20年ぶりくらいかも・・・。その時には関西から来たMotherの「子供の一生」を観て、心の芯までぞくっとなった。
そして、今回も関西からの劇団のお芝居、たっぷりと楽しませていただきました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
作・演出 : 宇田学
出演 : 植村好宏・森下ひさえ・柏村有美・袋小路林檎・吉井ミワ・片山誠子・楠瀬アキ・伊部夢花・習田歩未・岩本苑子・上田洵・野村亮太・宇田学 広山詞葉(バイ・ザ・ウェイ)<東京公演のみ> 他
作り手に、物語を語ることへのぞくっとくるような才を感じる。
シーンの一つずつに表すものが明確で、そのなかには、関西の劇団の良さである笑わせてなんぼみたいな部分が絶妙に織り込まれていて、全体を物語の枠で薄っぺらく硬直させることなく、しなやかにすっきりと観る側にストーリーが広がっていく。
前半から、役者たちの演技が本当にくっきりとしていて明確にキャラクターたちの姿や物語の流れを観る側に伝えてくれるのでたとえば後半につながる「時間」の少々ややこしい部分やミュータントの存在も、漏れることなく舞台上にちりばめられたウィットや下世話さを楽しみつつ、受け取ることができる。
冗長な感じに陥ることなく物語の基礎部分が紡がれて、
尖った斬新さで観る側のテンションをコントロールしたり観る側を展開から置きざりにすることもなく、一方で指の先ほども退屈させることもなく、伏線をしっかりと張り込んで未来世界が積み上がっていくのです。
一転して後半の畳み掛けるような展開が実に圧巻。
照明効果やキャラクターたちのテンションにぐいぐいと引かれる。
前半に重ねられたものが一気に切っ先を持って世界を広げていく感じには、ドライブがぐいっとかかったスピード感と高揚があって、物語がその隠していた爪を一気にあらわにした感じ。想いや謎解きの妙味もあり、現われた顛末の見晴らしは何度も翻り観る側をのめり込ませていく。照明などの仕組みで作られた世界の広がりを、役者たちがぶれることなくロールの色を貫きながらしなやかに支え続けていく。
正直に言うととてもオーソドックスなテイストのファンタジーにも思えるのです。舞台としての際立った斬新さがあるかといわれると、そう感じるような部分はあまりない。
だからといって、微塵も陳腐な匂いを漂わせることはまったくなく、むしろ、オーソドックスであることで観る側が受け取ることのできる創意があり、深く物語に浸しこむ強さが生まれている。
物語全体を語る上でのメリハリの作り方や、役者たちのロールのベタにならない明確さ、
さらなる半歩がしっかりとある顛末と、抜きんでたものが観客の馴染みやすい口当たりの中にしたたかに内包され、作品としての間口の広さや伝導率の高さをしっかりと担保して。また照明や美術も、作品の世界をがっつりと観る側に伝える力がありました。
こういう、オーソドックスさが醸し出す安定のなかに、古臭さやちゃちさやあざとさを混じりこませることなく、スケール感や洗練で観る側をもっていく作品ってありそうで案外少ないような気がする。
ふくよかな広がりと切っ先をもったエンターティメントとして時間を忘れて楽しむことができる作品、それが当たり前のごとく供されることに、作り手の一歩踏み越えた才能を垣間見た思いがしたことでした。
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