« 月刊根本宗子「恋に生きる人」可笑しさにとどまらない心惹かれる質感 | トップページ | 乞局「EXPO」色とりどりの短篇たちから浮かび上がる時代の肌触り »

箱庭円舞曲「どうしても地味」やがて染まり切ってしまう感覚への予感

5月16日ソワレにて、箱庭円舞曲「どうしても地味」を観ました。
会場は下北沢駅前劇場。

公演を観るたびに感じていた作り手の組み上げる世界の
デフォルメされた感覚の先にある削ぎ出されたリアリティに
今回もしっかり浸されて。
しかも、これまでよりさらに緩く鋭い人間の生きざまへの切っ先を感じて。
取り込まれてしまいました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください。)

脚本・演出 : 古川貴義

出演: 
小野哲史 須貝英 爺隠才蔵 片桐はづき 菊池明明(
ナイロン100℃) 木下祐子 磯和武明 神戸アキコ(ぬいぐるみハンター) 小島聰(ブルドッキングヘッドロック) 笹野鈴々音

初日を拝見。
冒頭の線香花火のシーンからしなやかに掴まれる。
すっと視線がその光にさらわれて。
その光景を原点にして物語が組み上げられていきます。

舞台装置がしっかりと作りこまれていて
その雰囲気から、地方の空気感が醸し出されていて。
冒頭からのちょっと尾籠な会話なども含めた空気が
なんともいえないぎこちなさのなかに
場の実存感を観る側に刻み込んでいく。

シーンの繋ぎ方にも工夫があって
観る側に理性でリズムを作らせず、
体感的な記憶の展開を引き出し
舞台に繋ぎとめていきます。
なんだろ、観る側が想像で補正するのを拒むような
それぞれの自らの処し方や
キャラクター間の距離の取り方(あるいは取れなさ)の
無骨さがそのままに重なっていく。

道具立ても上手いのですよ。
やたら出てくるティッシュの使い方にしても
距離感の盲目さを刷り込んでいくような
カニミソやイカスミの異様な量にしても、
観る側の世界を観るなかでの平衡感覚ををじわじわと失わせて。
また、タバコの扱いなどで示唆される
物語の外枠というか
時間もしくは次元の違和感(近未来もしくはパラレルワールドみたいな)が
観る側のバランスの根本を揺さぶりつつ、
でも、そのことが観る側に物語を手放させるのではなく
シーンの重なりで導き、
物語の世界をたたらを踏むような感じで
追わせていくのです。
気が付けばどこかデフォルメを感じながらも
その世界にあるがごとくに閉じ込められて
そして、内側の世界からの視座だからこそ見える
個性と狂気のボーダーラインに置かれたような
キャラクターたちのベクトルの色や重ならなさ、
さらには舞台には恣意的に置かれない
貫かれた先の風景に浸されてしまう。

いろんなコミカルさがあって、
滑稽にさえ思える、密度の居心地の悪い重なりもあって、
でも、それらが刹那に捨て置かれるのではなく、
いつしか翻り、観る側への鋭い切っ先へと変わっていく。
気が付けば奇異に感じた感覚たちの理それぞれに
実感が生まれていて。
終わってみれば、シーンごとの時間の前後が、
その記憶の肌触りにそって
観る側に対して組み上げられていることにも気づく。

役者たちも、
それぞれのキャラクターの滓のようなものを
したたかに内に透かし入れて
貫いていきます。
それぞれの場に対する刺さり方や感覚に
細微な位置取りと色の醸し度と
変化する質感が作られていて、
しかも、それがデリケートなだけでなく
キャラクターの背骨のごとき図太さを背負って
観る側を掴んでいく。

初日ということで、
いくつかの部分にぎこちなさを感じたのも事実なのですが、
それを些細と思わせるほどに、
さらに鮮やかさを増していくであろう作品の懐の深さも感じて。
気が付けばどこかデフォルメを感じながらも
その世界にそのままに踏み込んでしまっていて。
そして、内側の世界からの視座だからこそ見える
個性と狂気のボーダーラインに置かれたような
キャラクターたちのベクトルの色や重ならなさ、
さらには舞台には恣意的に置かれない
貫かれた先の風景までが浮かび上がって。

この作り手だから、そしてこの演じてだからこそ、
切り取り描き得る世界があることを改めて実感。

すでに、隠し味のように感じていた、
舞台に惹かれるにとどまらない
舞台の世界に取り込まれ蹂躙されるような感覚が、
公演を重ねる中でさらに膨らんでいく予感もありました。

|

« 月刊根本宗子「恋に生きる人」可笑しさにとどまらない心惹かれる質感 | トップページ | 乞局「EXPO」色とりどりの短篇たちから浮かび上がる時代の肌触り »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 箱庭円舞曲「どうしても地味」やがて染まり切ってしまう感覚への予感:

« 月刊根本宗子「恋に生きる人」可笑しさにとどまらない心惹かれる質感 | トップページ | 乞局「EXPO」色とりどりの短篇たちから浮かび上がる時代の肌触り »