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月刊根本宗子「恋に生きる人」可笑しさにとどまらない心惹かれる質感

2012年5月14日ソワレにて月刊根本宗子「恋に生きる人」を観ました。
会場は新宿ゴールデン街劇場。

コメディタッチに作られていて、事実傑出した可笑しさが醸し出されるシーンもあるのですが、
それにとどまらない、様々な感覚が、あざとさのない踏み出しとともに
やってきて・・・。

本当に可笑しかったし、かもし出されるものにもとても惹かれたし・・・。
リピートする方もそれなりにいらっしゃるというお話を伺い、その気持ちがとてもよくわかる・・・。

また、作り手の描く力がさらに一歩前に進んだことを実感する舞台でもありました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出 : 根本宗子

冒頭からキャラクターの描き方ががとてもしっかりしていて、
バイトリーダーと新人の会話の部分から、
それぞれの性格がくっきりと浮かび上がる。
二人の関係の進展からも、
ナチュラルにそれぞれの想いの肌触りが伝わってきて。

さらに現れる登場人物たちにしても、
個性は強いのですが、
奇異な存在とは感じられない不思議な実存感があって。
気持ちの描きこみがとても細かくなされていて、
よしんば現実感からの踏み出しがあったりしても
観る側があざとさを感じることなく、
どこかに居ても可笑しくないラインの内側で
キャラクターたちの雰囲気を受け止めてしまう。

きっと、作り手には、
世の「人」物のありようを
常ならぬ観察力で眺め蓄えて描きだす
天性の力があるのだと思う。
だから、男の彼女と元カノと、
彼女の友人であり元カノから彼を寝とった女が
一つの空間に置かれて、
キャラクター達の身勝手な想いや線引きによる
愛憎や関係性や変化が舞台に満ちても、
それが、科学反応が順序を踏んで進むがごとく
無理なく流れ膨らみ、
ごちゃごちゃの絵空事や団子のようなカオスにならない。
その一方で、役者達がかもす感情が理性を踏み越える温度が
それぞれの想いを一人ずつの個性に導かれた必然に押し上げ、
舞台はあれよあれよと推移し
クリアなしっちゃかめっちゃかさで観る側まで巻き込んでいくのです。
筋は通っていても先の予想のつかない刹那や感情のひとつずつが、
クッキリと現ればたばたと重なっていくのが
もう、とてつもなく可笑しくて。

しかも、その可笑しさで
物語が熟し切ってしまうわけではない。
そこから元カノがイマカノのために
ダメ男の特訓を始めるという展開も
滑稽で突飛でありながら、
そこには描きだされた女性の
想いの深層にあるであろう感覚が
実存感を伴って織りあげられていくのです。

役者たちが本当に上手いのですよ。
大竹沙絵子の描きだす23歳の女性には、
想いのなかにピュアな部分と本音が
デリケートに織り上げられていて、
観る側が受け取る普通さがしたたかな強度を持ち
ロールの感情の揺らぎもまっすぐそのままに伝わってくる。
西山宏幸もキャラクターの雰囲気を
実存感を損なわないぎりぎりのデフォルメで
したたかに描きだす。
キャラクターがもつある種の口当たりのよさと
バイトリーダーの小さな誇りに隠された裏側の薄っぺらさが
きっちり作りこまれていて。
梨木智香も表向きの風貌と
表層から一皮内側に広がる女性の内心の風景を
一つの色に編み込んで描いていく。
思い込みの強度と細かく描かれた大雑把さのようなものが
観る側にありがちでどこかめんどうくさい(褒め言葉)
存在感となって伝わってくるのです。
宮下雄也は多少飛び道具的な要素をもったキャラクターを
外に歌舞くのではなく、
むしろ演技の太さと切れで内弁慶に押し込めて
描きだしていきます。
そのことで存在が浮くことなく場に馴染み、
物語の展開の要素となる居場所や存在感を作り上げていて。
好演だと思う。
新谷真弓は、表層の雰囲気に
華をもった女性のずるさを漉きこみつつ
ふくよかな感情の作りこみで内心の想いの形状を
創り出していきます。
個性豊かな空気感があってそのメリハリから
ロールのきめ細かなテイストが生まれて。
感情の踏み出しにも観る側を委ねさせる冴えと温度があって、
ちょっと突き出したこだわりや意地の張り方の肌さわりにも
豊かな解像度が裏打ちされていて。
ナイロン100℃の公演だけでなく、
いろいろな舞台で秀逸なお芝居を拝見させていただいていますが
今回はいつもに増して
キャラクターの女性としてのビビッドさに
見惚れ惹きつけられてしまう。


終わってみれば
ラストシーンの男と元カノに垣間見える
男と女の「相性」のようなものの質感が本当によくて
心を惹かれる。
振り返ると、突飛に表現されるのではなく
物語を貫いて描かれていたことも思いあたるのですが、
それが最後にしっかりと生きて、
観る側をゆっくりと浸潤していくのです。
また、女友達たちがよりを戻すあたりの物語の組み上げにも
女性感覚の不可思議さと偽りのないリアリティがあって。

作り手の人やその距離の勘所を描く力に改めて舌を巻きつつ、
描くにとどまらない動かすやり方についても
彼女流のやりかたを
手のうちに納めたようにも感じて。
今回の作品から醸し出されたテイストに満たされつつ
次の公演が本当に待ち遠しくなりました

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