« 蜂寅企画「きら星のごとく」江戸を今にするビビッドな時代劇 | トップページ | 東京ネジ「石川のことはよくしらない」同じ戯曲に異なる役者たちが染める色① »

別冊根本宗子「貴方と私の演劇革命」気合の入った短篇集

2012年4月3日ソワレにて別冊根本宗子「貴方と私の演劇革命」を観ました。

会場は新宿ゴールデン街劇場。

いろんな角度に見応えのある短編たちを腰をすえて見入ってしまいました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

出演:根本宗子 小西耕一(短編の二人芝居)

最後の作品のみ根本宗子自身が手掛けた二人芝居で
あとはまさに今が旬の作家たちが
したたかに書きあげた一人芝居・・・、
本来制約になるであろう
「ひとり」の制約を逆手にとるように、
実にしたたかに物語を描きこんでいきます。

***** ***

「男 根本宗子」
脚本:政岡泰志(動物電気)

いきなり胴着で登場。
漫画のような設定を押し通し描き上げて。
その設定の不自然さからくる無理くりの部分はそれなりにあるのですが、
一人芝居の枠だと、その無理が不思議なくらいすっとおさまる。
そして、彼女自身のキャラクターをゲートウェイにして、
まわりの男たちの姿をしなやかに浮かび上がらせるのです。
一人芝居ということで
実態で現わさなくて済む分
場の空気の作りこみから
体育会系の汗臭い男の姿が
まさに体臭を醸し出すようにつたわってきて、
それが、どこかあけすけで、情けなく、
なんとも言えず可笑しくて。

男たちの下世話な部分の共通性と
見えないはずのキャラクターたちの個性の散りばめ方、
苦笑系ではあるのですが、
どこか温かいリアリティすら感じてしまったことでした。

「ボーイフレンド」
脚本:河西裕介(国分寺大人倶楽部)

一人芝居ですから、
彼女が演じる恋人とベットをともにしたり、食事をしたり、
会話を続ける向こう側には
男性の存在が浮かぶ。
役者としてのぶれないお芝居が
その存在を観る側にしっかりと置いていく。
そして口うつしの水や、テーブルにこぼれる食事が
観る側の想像と舞台にリアルに実存するひとりだけの女性とのボーダーを
したたかに作り上げて・・・。
で、物語はそのボーダーをしらっと超えて視座を反転してしまう。
愕然とし、息を呑んでいる間もあらばこそ、
そこから一気に展開していく修羅場に、
あれよと引き込まれて。

ほんと、ぞくっときた。
しらっと一人芝居のエッジを逆手にとって
観る側を掌にのせて鮮やかに転がした(超褒め言葉)作家と、
それを刹那ごとにテンションと色合いをしたたかにコントロールして
演じきった役者、
それぞれの力にただただ瞠目でありました。

「顔」
脚本:田所仁(ライス)

聴くともなしに聴いていた冒頭の音声が
物語の状況をしなやかに浮かび上がらせていく。
女性が自らを語る部分が
シンプルで、わかりやすく、
猿山の記憶とともに物語の前提を構成する・・・。
一人芝居だから、
相手の顔がおんなじと言われた時点で
観る側にその感覚がきちんと浮かぶ>
その設定が完成した時点で
ある意味作り手の勝ちみたいなところがあって、
そこからの彼女が陥っていく状況が
いちいちがっつり可笑しくて。
でも、コミカルでありながら、
笑いだけにとどまらず
一人の女性の心の実像が
くっきりと現れて観る側を捉えていく。

ラストのすっと戻る感じに
観る側も解き放たれるのですが、
上質なコメディに満たされたような感覚のなかに
彼女の心風景はしっかりと残されていました。
したたかな作品だと思います。

「寝る前に」
脚本:鎌田順也(ナカゴー)

一人芝居で一人の女性を描く、
直球のやりかたではあるのですが、
その・・・、茶漬けの食べる絵面が
恐ろしく鮮やかで。
テレビを観る態で、卓袱台の前に座り
ご飯にお茶を注ぎ梅干し(?)とともにかきこんでいく。
梅干しの瓶からの出し方、
箸の掴み方、茶碗の持ち方・・・、
音のにぎやかさと彼女の表情の変化の薄さ、
それらの一つずつが、とてもしたたかなデフォルメとして
彼女の外側の素を描写していく。

そこまでに、寝る前のありふれた時間が
観る側をも満たすから、
電気を消したそのあとに
彼女が歌うその一曲のありようが、
とてつもなくビビッドで、強烈で、
行き場のないリアリティに溢れたものとして
観る側を席巻していく。
うまく言えないのですが、
針を刺してずるっとむける羊羹のように
その歌から無遠慮に、縛めを解かれたように
溢れだしてくるものがあって、
ひたすらその姿に捉われてしまう。
肌触りに洗練されてない生の感覚があって
でも、そこから、
作り手が描こうとしているであろうものが
しっかりと観る側に流し込まれていくのです。
役者も、本当に体を張って
その世界を演じきっていて。
見応えがありました。

「僕の彼女は、根本宗子。」
脚本:根本宗子

それまでの4本が本当に個性の強い作品だったせいか、
この作品に描かれたものには
どこか常軌を逸しているにも関わらず、
ある意味、とてもビビッドな女性の質感があって。
なにか、切っ先が別のところからやってくる感じ。
客いじりの中に作られた、
心情の踏み出しにもぞくっときましたが、
そこに至るまでの危うさのようなものにも、
表現の誇張のなかに不思議な実存感があって。

この作品、
日替わりの相手役によって
かなり色が変わるのだろうと思う。
私が観た回には、女性の心情がそのままに
浮かび上がるような感覚がありましたが、
他の回のいろんな意味で個性的な役者たちだと
それがどうなるのか、
想像しただけでもけっこうわくわくする。

しっかりと芯を持ちつつも、
様々な色に染めうる豊かなキャパシティをもった
二人芝居であるように思いました。

*** ******

それにしても、
なおかつ、しっかりとクオリティを持った作品が
よく揃ったものだと感心。

上演時間はそれほど長くないのですが、
観終わって充実感があって。

この作品たち、一つずつが公演後半にはもっと育つのだろうし、
最後の二人芝居も相手が変わることで
観た回とは別の色の秀逸さが生まれるのだろうし・・・。
作り手たちはもちろんのこと、
根本宗子の実に非凡な才能を見せつけられて。
ちょっと再見が難しいスケジュールが
とても恨めしく思えたことでした。

|

« 蜂寅企画「きら星のごとく」江戸を今にするビビッドな時代劇 | トップページ | 東京ネジ「石川のことはよくしらない」同じ戯曲に異なる役者たちが染める色① »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 別冊根本宗子「貴方と私の演劇革命」気合の入った短篇集:

« 蜂寅企画「きら星のごとく」江戸を今にするビビッドな時代劇 | トップページ | 東京ネジ「石川のことはよくしらない」同じ戯曲に異なる役者たちが染める色① »