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FUKAIPRODUCE羽衣「耳のトンネル」観る側を引き入れる人生の俯瞰

2012年3月9日ソワレにてFUKAIPRODUCE羽衣「耳のトンネル」を観ました。
会場はこまばアゴラ劇場。

その世界にがっつりと嵌ってしまい3月12日に再度観劇。
さらに舞台の質感に取り込まれてしまいました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

脚本・演出 : 糸井幸之介

出演 : 深井順子 日髙啓介 鯉和鮎美 高橋義和 寺門敦子 澤田慎司  
      伊藤昌子 西田夏奈子 加藤律 幸田尚子(クロムモリブデン)
      並木秀介(大人の麦茶) 金子岳憲

 
冒頭のシーンの役者達の登場から
いきなり舞台に引き込まれる。
誕生の表現、
包み込むような歌声に負けない
動きやフォーメーションの広がり。
さらには、
女性たちの母性の密度にしっかりと閉じ込められて・・・。

そこからの展開にも、
ぐいぐいと引き寄せられていきます。
ギターとの出会いや、
少年のころの、
夏休みの自由研究の素敵なうすっぺらさも、
初めての体験のビビッドさも、
幾重にも色をもって、
切っ先を束ねられたり、表現のベクトルを一様に梳かれたりせず、
観る側の内側にあるさまざまな感覚を揺らしてくれる。
しばしば下世話であけすけな表現たちなのに、
そのうぶさや、とても自然な想いの交わりが
観る側に瑞々しい感覚を与えてくれて・・・。
気恥ずかしくなったり、苦笑もするのですが、
一方でまっすぐに胸がきゅんとなる。

中盤から後半の、
大人の男女の表現には
前半とまた違った色合いでの、
圧倒的な洗練があって。
一組の男女が出会い夫婦として歩みはじめる姿が
幾重にも重ねられる他の男女たちの刹那とともに
編みあがっていくのですが、
場のスピード感や、
運命的な刹那の昂揚や、
ほんの少し滑稽さをブレンドした昂揚のルーティンに
単にシチュエーションを語るにとどまらず
その感覚を、繰り返しのなかで研ぎ上げ、
普遍と個のバリエーションの広がりに昇華させていく力があって。
役者それぞれの表現の切れとノリ、
編み上げる密度、
それらが、出会い、歩み始める男女の運命感やときめきを
しなやかに観る側に流し込んでくるのです。

その刹那が秀逸だからこそ、
さらに先に描かれる、
夫と妻の浮気心のときめきや夫婦生活の懈怠の
洒脱さやウィットにも
がっちり掴まれて・・・。
後ろめたい楽しさのようなものに
場の空気が染まり、
なにか、人生のちょっとインモラルな踏み外しの
豊かさが際立って映える。

ラスト近くの
したたかにデフォルメされた一人旅の宿での
一夜の風情も、なんともいえず可笑しいのですが、
でも、そのシーンから満たされる
観る側の心のパーツがあって
淡いペーソスに浸されてしまう。

エンディングの訪れ方はどこか淡白なのですが、
だからこそ、一呼吸おいて
作品全体とともに、
人が生まれ、いろいろに感じ暮らし去っていく
その質感を感じることができて。
観終わって、拍手をしながら、
シーンたちのニュアンスの重なりからやってくる
生きることの、どこかルーズで、ふくよかて、
でもちょっぴりビターな質感に
浸りこんでおりました。

作品を観始めたときには
どこかヘタウマ的なテイストを感じたりもするのだけれど、
舞台を描く作り手の筆先になじんでくるにしたがって、
個々のシーンや刹那が、
細かく深く描きこまれていることに思い当たる。
具象であっても、デフォルメされたものであっても
表層的な表現のそろえ方や整合だけに囚われない
コアのニュアンスをそのままに舞台におくような描き方には、
絵面のピースだけではなく、
作品全体として包み込むように観る側を
作り手の世界に取り込む力があって。

さらには、振付にも
描くもの膨らませるためのぞくっとくるようなセンスを感じる。
この作品、木皮成の振付も実に魅力的。
38mmなぐりーずの「外郎売り」を観た時から
注目していたchoreographerですが、
ニュアンスの作りこみに良い意味での踏み出しがあって、
それが舞台に広がりに繋がっていて。
また、役者たちも彼が求める動きに
キャパいっぱいにこたえていて・・・。

人によって、多少好みは分かれるかもしれませんが、
私的には超はまりものの作品で。
何度でもその世界にはまり込みたくなるような
作品の魅力にがっつりとつかまってしまいました。

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