KAKUTA「TURNING POINT[分岐点]、時代に縫い込まれた2本の糸の交差点
2012年2月24日ソワレにてKAKUTA[Turning Point(分岐点)」を観ました。
会場は下北沢・スズナリ。
オムニバス風の態であっても、
作品全体からやってくるものがあって、作劇のしたたかさに舌を巻く。
ふくらみをもった舞台となりました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
作:金井博文 桑原裕子 堤泰之
演出:山崎総司 康泰之 桑原裕子
出演:成清正紀 若狭勝也 大枝佳織 原扶貴子 野澤爽子
高山奈央子 馬場恒行 佐賀野雅和 ヨウラマキ 桑原裕子
木下智恵
冠仁 武藤心平 鳥島明 熊野善啓 長尾長幸 前田勝
物語の入口は白い舞台
冒頭のシーンのどこか無軌道な二人の女性、
彼女たちがその距離感のままに
訪れる時間たちに縫い込まれていく。
冒頭とラストのシーンが同じ作家で
最初の二人のシーンに登場したキャラクターを2本の糸として
両端を見る側に提示する役回り、
そして二人の作家がその糸をそれぞれの物語に縫い込みつつ
3人の演出家によって同じ場所に違う色で演じられるシーンから、
時間の変遷までが浮かび上がっていきます。
冒頭の女性たちが個々の物語の
主人公になっているわけではない。
群像劇的なトーンが舞台に満ちる中
彼女たちはむしろ、脇を固めるようなロールであったりもするのですが、
そのなかでも二人が、
どのようにそのシーン・・・・、
もっといえばシーンが具象する時代に刺さり
縫い目を作っていく姿がしっかりと残る。
無軌道で若気の至りのような1997年を起点に
どこかルーズで退廃を感じさせる色の中に
登場人物たちが抱く若さや生真面目さを感じさせる1999年、
穏やかでどこか教条的な雰囲気のなかに
どこかポップでシニカルで人間臭い嘘がはびこるような2006年、
時代が行きついて、それでも歩みを止めることのない2011年、
そして、最後にたどりついた今、2012年
3人の演出家が紡ぎあげる
5~6年を隔てた時代それぞれの時代に
エピソードや切り取られた時代の面白さたちが満ちて、
役者たちの描き出すものに自然に取り込まれているうちに
描かれた物語にシーンへの
齢を重ねていく二人の女性の刺さり方や
縫い筋の重なり方が
魔法のように自然に残る。
糸だけを引き出してみれば
波乱万丈とも思える彼女たちなのですが、
それぞれの時代のなかに
彼女たちのありようの必然があるから
再びラストのパートで彼女たちを見つめるとき
二人の生き方も、腐れ縁のような関係も
日々を重ね人生を過ごすとてもナチュラルな質感として
観る側に積もっていく。
描かれた時代の匂いを自らの風景として体験している
ある世代以上の人間(たとえば私)にとっては
彼女たちの歩んできた感覚に
記憶のベースの部分として揺らされる部分もあり、
そこからも、キャラクターたちがたどった
道程への感慨が満ちてくる。
KAKUTAにとどまらず
桑原裕子の関わる作品には
観終わった後の独特で他に類のない
満たされ方があって。
それはこの人の純作演の作品にとどまらず
「グラデーションの夜」のような彼女の演出であっても
「往転」のような、彼女の脚本であってもそうなのですが、
日々を生きることの積み重ねで歩んできた距離と
その先に視線を上げての一歩の感覚が
色をそれぞれにしつつ、
しなやかにまっすぐ降りてくる。
しかも、作品ごとに
一期一会のような生きる肌触りの精緻な描写を裏打ちする
作り手の作劇の新しさが
抽象的でも先鋭的な作品ではなく、
むしろオーソドックな具象に満ちているにもかかわらず
観る者を澱ませない。
今回についても
複数作家と演出家によって編まれた
時代のリアリティに繋ぎこまれた
2つの人生の歩みと交差の姿に
すっかり取り込まれてしまいました。
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