ブルドッキングヘッドロック「すけべの話」下世話の懐の深さ
2012年2月29日と3月4日でブルドッキングヘッドロック「すけべのはなし」両編をみました。
会場は新宿御苑のサンモールスタジオ。
劇団員の女性組と男性組それぞれに客演を招いての2作品、
全く異なる語り口のなかに、「性欲」という共通テーマをうしなやかに織り込んで。
両方とも尺のある作品でしたが、時間を全く感じることなく、
其々の世界を楽しんでしまいました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
作・演出 : 喜安浩平
「セイなる夜」編
出演:永井幸子 山口かほり 藤原よしこ 深澤千有紀 伊藤聡子 津留崎夏子 林生弥 陣内ユウコ 深川奈緒美 ザンヨウコ 栩原楽人
シスターたちそれぞれの体験談のオムニバス的な部分もあるのですが
やわらかい物語の重なりが
単にそれぞれのエピソードを味わうにとどまらず
さらにふくよかな世界観で観る側を取り込んでいきます。
キャラクターの表見と本音の切り分けが
したたかに機能して・・・。
どこか女性たちそれぞれの、
その境地にいたるまでのオムニバス的な側面を持った
物語なのですが、
3組の女性たちの、表と裏を別の役者で演じ分ける仕掛けが
見事に機能していて。
重ねあわされた役者たちが醸し出す空気に
不要な重複がなく、
舞台上でひとりのキャラクターのすがたとして
とてもしなやかに機能していく。
見えない括り糸がしっかりと強度をもっているから
舞台上のキャラクターの内面が複数セットで演じられても
混沌とせず、
むしろ舞台の豊かさやふくらみが乗数でやってくる。
作品のメインディッシュであるそれぞれの
「ムラムラ」も、内に織り込まれる部分が
開かれあからさまにされているから
外連なくまっすぐに表現されて
違和感がまったくない。
そりゃ、隠されているから可笑しいこともあるけれど、
そういうことっていうのはあからさまにされると
下卑さが消え
さらに突き抜けて可笑しかったりもするわけで。
しかも、劣情の暴露大会というニュアンスではなく、
物語全体を包み込む時間や場所の世界観も
したたかに作りこまれていて。
2時間超えの上演時間も、
終わってみればあっという間、
作り手の仕掛けと役者たちの緻密なお芝居から
女性の業の質感にまで
取り込まれてしまいました。
「バットとボール」編
出演 : 西山宏幸 篠原トオル 寺井義貴 小島聰 猪爪尚紀
小笠原東院健吉 藤原慎祐 松木大輔 緑川陽介
川村紗也 佐藤みゆき
高校野球出場チームの宿舎を舞台に
ナインの劣情のありさまや
其々の性格、さらには驚くことに
彼らのどこかピュアな想いまでが
舞台上に浮かび上がっていきます。
二人の女優の空間への刺さり方がとてもよくて、
マネージャーと宿舎のおねえさんというイメージを紡ぐお芝居から
次第に彼女たちの内側を垣間見せるお芝居にシフトしていく
したたかさもあって。
その演技に引き出されるように
男子生徒たちの想いが照らし出され、さらに現わされて
絶妙なデフォルメとともに
舞台を錯綜していく。
しっかりとキャリアを持った役者たちは
もしかしたら自らの半分以下の齢を演じ手はいるのですが、
高校生より高校生の雰囲気を
観る側にがっつりと流し込んでいく。
見栄えをつくる上手さもあるのですが、
なにより、想いにしっかりと
年齢相応の浅はかさや薄っぺらさや
どこか真摯な想いまでが
彩り豊かに作りこまれていて。
演技が実際の高校生の雰囲気を乗り越えてイメージを生み、
その姿がとてつもなく可笑しい。
観ていて、作り手が役者を信じているなぁと思うのです。
物語の展開にも役者がそれぞれの色を作っていく余白が
しっかりと用意されていて。
役者たちも、キャラクターを物語を通して貫いていく。
いろんなうざさや、思い込みや、はみ出した感覚が
丸まって一つになるのではなく
それぞれにエッジをもって場に置かれ、観る側をさらに引き込んでくれる。
だから、ただのとほほなエピソードに陥ることなく、
その時間の瑞々しさすら感じることができるのです。
こちらも2時間をかなり超える上演時間だったのですが、
その時間をまったく感じませんでした。
*** *** ***
二つの舞台を観て、作・演出の物語る力を改めて実感。
2時間以上の比較的長尺の作品を2本並べて
それぞれに異なる世界のクオリティを担保されている作劇力に
舌を巻く。
役者たちの秀逸さももちろんあるとは思うのですが
作り手の引き出しから現れるものが
観る側を常に半歩凌駕している感じがあって。
それも、奇抜なものではなく
しっかりと作りこまれて浮かんでくるので
観る側にも無理がない。
つねに観る側に物語の顛末を追いかけさせるtriggerがあって、
それが飽きないのです。
ほんと、たっぷりと楽しませていただきました。
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