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モダンスイマーズ「ロマンサー‐夜明峠編‐」美しくしたたかな舞台

2012年2月23日ソワレにてモダンスイマーズ「ロマンサー‐夜明峠編‐」を観ました。
会場は三軒茶屋シアタートラム。

初日でしたが、とても完成度の高い舞台。
語られた物語、役者たち、
さらには舞台美術や照明なども含めた、
舞台一体の美しさに見惚れ、
豊かに運ばれてしまいました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出 : 蓬莱竜太

物語の骨格はそれほど複雑なものではありません。
人食い熊を追って峠を訪れるまたぎや里の人間と
山に暮らす家族が織りなす物語・・・。

刹那ごとに描かれるシチュエーションがはっきりしていて
物語の語り口もとてもクリア。
一方で舞台に置かれるキャラクターたちの
物語への刺さり方が一様でないことから
シーンの一つずつに求心力とふくらみがあって。
したたかな脚本で、
さして意識することもなく、
キャラクターたちの立ち位置や関係性、
さらには事の成り行きが過去が
美しい舞台のミザンスとともに観る側に建てこまれていくので
漁るように舞台を見詰めるのではなく
舞台の空気とともに、
キャラクターたちの想いに染まりながら
シーン流れやシーン間の推移を
受け取っていくことができるのです。
飢えさせたり喰いつかせるようなヒリヒリ感はないのですが、
観る側をいたずらに前のめりにすることなく
時間の歩みと、次第に広がってくる視野のなかで
染め、動かされていく感覚の豊かさがこの舞台にはあって、
やわらかく深く魅了されていく。
さらには、
鮮やかでクリアな舞台の空気の変化が織り込まれ、
時には獣の咆哮におびえつつ
観る側は物語の成り行きへと誘われ、囚われていくのです。

役者たちも上手いのですよ。
シーンや場にただニュアンスを作り台詞を編み込むだけではなく、
場への刺さる深さや角度に全体の印象との絶妙なバランスがあって。
そこに生まれる質感が、
シーンが連なる中で、
キャラクターを物語に映えさせ、
しなやかに浮かび上がらせていく。
観る側にとって、登場人物たちに捨て役がなくすべてが残る、
そこには、
舞台の大きさや場の密度にぶれない
圧倒的な演ずる力が裏打ちされていて。

峠で暮らす者たち、
石田えり のお芝居には
物語のベーストーンとなりうる落ち着きとふくよかさがあって、
場に秩序を与えつつ、物語の礎をしなやかに担う。
一方で、後半には女性としての心情もしなやかに織り込まれ溢れて、
終盤に男の嘘を見抜く刹那の想いのほとばしりに息を呑む。
観る側が委ねられるような懐の深さに魅了されてしまいました。
古山憲太郎は冒頭、舞台全体の雰囲気に身を隠しつつ
ラストまでの尺いっぱいを使って舞台にキャラクターを織り込んでいく。
前半したたかに根を張ったものを開花させる終盤のパワーに目を瞠る。
常に前面でお芝居をするわけではないのですが、
存在を次第に舞台に満たし
最後に物語の屋台骨をがっつりとささえる
力加減のしたたかさがあって。
宮崎敏行はクリアなお芝居で
その場所で生きる者たちの感情をみる側に与え続けていきます。
ぶれのない演技が観る側に峠に暮らすものの雰囲気を焼き付ける。
キャラクターの個性をきっちり作り上げて舞台に刺さっていきます。
斎藤ナツ子は表層で峠の住民たちの生活実感を醸しつつ
細微な感情表現でキャラクタの内心に育まれていく想いの移ろいを
他のキャラクターの間に埋もれさせることなく
しなやかに観る側に縫い込んでいきます。
なにげに舞台上に存在感を保ち続ける強さがあって、
それが峠の住人たちを括る家族感のようなものを醸し
物語の枠組を支える力となっていく。

マタギたち、
千葉哲也は物語の別の極から
石田との関係で物語の基礎を支えていきます。
冒頭からの貫録の作り方がとてもしなやかで、
しかも伏線的な過去の織り込み方も実にしたたか。
終盤の石田との会話の中に透かしてみせる狡さも圧巻でした。
松永玲子は、冒頭から一気に舞台に切り込んで、
マタギの女性の気質を観る側に印象付けます。
そしてキャラクターの見せ方 の深度を変えつつ
時が経つにつれて次第に変わっていく
峠で暮らす者たちとの関係を
観る側に肌合いとして伝えてくれる。
終盤には石田と千葉の会話の後ろに隠れ立ち、
千葉が垣間見せる男の想いまでもすっと照らし
その先の想いが重なり合うカオスの中では
醒めたトーンでの「仕事だ」の一言とともに
場の枠組みを掘り起こし捌けていく。
こういう多くの引き出しを持った役者が舞台にいると
物語のエッジがあいまいにならずしっかりと見える。
粟野史浩は感情の立ち上がりのタイミングがとてもよく
要所で場にきっちりとテンションを与える。
マタギたちの感情のざらつきや
峠の住人たちとの感情のすれ違いを
一気に場に流し込む瞬発力もあって。

里の者たち、
小椋毅は、背負うものと理性のせめぎ合いを
実直に舞台に差し込んでいきます。
家族を失ったことを納得させる理性と満ちない実感の間にある
感情の揺らぎがまっすぐに観る側に伝わってくる。
西條義将の醸し出す弱さも出色でした。
情けなさの色で舞台を染めつつ
その中に生きることの基にある強さをしたたかに
観る側に植え付けていく。
斎藤とともに終盤のシーンに
それぞれの理を作り上げて・・・。
佐藤めぐみ は存在感に華があって、
それが、物語の成行きに揺らぐことのない
キャラクターの貫きを観る側に積み上げていく。
抱く想いがありつつ
ある意味中立的な立場を持ったロールなのですが、
その両面を表現する他のロールとの距離感の作り方もしたたか。
ラストシーンの一端を背負いきる美しさにも力感があって。

舞台の光に
森の深さや凍える空気までもが
透明感を持ってキャラクターたちの時間を染める。
刹那ごとのミザンスが本当にきれいな舞台。
でも、こういう役者たちだから、
息を呑むほどに美しい舞台美術にも
演技が埋もれることがない。

観終わって、物語を追っていたという感覚ではなく
舞台にの成り行きにそのまま運ばれた感じがあって。
実はタフな物語、
キャラクターが抱くものや、
それぞれの想い、
さらにはくろちゃん(熊)が具象するものにも想いを馳せ、
人を喰らう獣の咆哮や、
男女の機微に心を縛られながらも、」
行き場をなくした心情のその先にまで至る
芝居の踏み込みが
ラストの緋の色からしっかりと観る側に渡されて・・・。

こんな風にしなやかに、
しかも、舞台丸ごとという感じで
物語や役者に運ばれる感覚って
そうざらには経験ができないかと。
脚本や役者、さらには舞台美術などの秀逸さが
一人歩きすることなく
それぞれを高め合っているように思う。

初日とは思えない
きっちりとした完成度を持っていることにも感心。、
「良いものをみた」という満足感に浸れるお芝居でありました。
三部作とのこと、
次も、是非に観たい。

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受信: 2012/02/28 20:29

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