劇団appleApple 「I」 半歩先に導かれ半歩後ろから浸潤される
2011年1月11日ソワレにて劇団appleApple 「I」を観ました。
会場は渋谷ギャラリールデコ5。
劇団appleAppleは、作品の独特な質感に
公演ごとに惹かれている劇団。
今回は、作り手が紡ぎ出すものが
今までと比べてもより色濃く感じられ
強く惹きこまれてしまいました。
(ここかれネタばれがあります。十分にご留意ください)
作・演出:永妻優一
会場に入ると長辺方向に2列に並べられた客席、
どこか雑然とセットされた開演前の舞台面、
見知ったはずの
この場所の意外なスペース感にちょっと驚く。
お芝居の始まりはそれほど唐突なものではありません。
でも、すぐに場の転換カから生まれる動感というかスピード感に
目を奪われる。
可動式のパネルが小気味よくしたたかに動いて場をつくると
そこにすっと役者たちの演技が醸し出すキャラクターの色が現れて
世界が織り上げられていく。
現実感と、どこか現実離れした肌触りが
それぞれに観る側を舞台の世界に導いていきます。
切れがあって、クリアで
にも関わらずどこか不安定であいまいで
視野狭窄的なテイストを持った
物語の展開。
観ていて、知らず知らずのうちに、
前のめりになって舞台に引き込まれている。
前半のシーンたちには、
作りこまれるニュアンスの明確さと裏腹に
したたかな薄っぺらさもあって、
観る側のちょっとした展開への飢えから
半歩先にある物語の実態を
追いかけるような感覚が生まれて、
自然に身を委ねてしまうのです。
ところが、その地域の彼女の部屋に至る中盤以降、
感覚の訪れる方向が逆転し、
今度は半歩遅れて別の質感を持った感覚が沁み入ってきて、
立ち止まり、一呼吸おいてその場の密度に捉われてしまう。
舞台上の過去と現在のボーダーが埋まり消えて、
キャラクターの記憶があいまいに、
でも、巻き込み沈めるような質量と閉塞感をもって
今に重なりあう。
二人の役者から次第に溢れてくるもの、
そして別の視座を感じさせるような影・・・。
その世界から具象されるものの存在があって
一方でそれらが具体的に物語られることはあまりなく、
だからこそ半歩遅れるようにしてやってくる
感覚の密度が、
実態に吸い取られることなく
その場の空気の色合いの微細さで
観る側を塗りこめていく。
そして、冒頭の世界に戻されて・・・
解き放たれて、
でも半歩前と半歩後ろの世界の感覚は
消えることなく、観る側に遺されて。
観終わってカーテンコールの拍手をするなかで、
自分自身の中にある記憶と、
それらに対する意識のようなものまでがどこか揺らぎ、
さらには、時間と記憶の深さのマトリックスの座標軸が
撓んだような感じすらして。
やがて会場が終演後のざわめきに包まれるなかで
常なる感覚が戻ってはきたのですが、
それにしても観る側にとって無意識の領域にまで浸潤するような
作品の力は驚嘆するばかり。
役者たちそれぞれにも
安定感と作りこまれた色合いがあって、
作り手の描く世界を観る側に流し込む力になっていて。
山ノ井史の作りだす質感が
舞台のトーンをしっかりと観る側に伝えていきます。
感覚の内外のようなものをそれぞれにしなやかに表現できる役者さんで
だからこそ、舞台の世界観を可視化させる力ともなっていて。
恩田和恵のお芝居には、この人だから演じえるような
個性を厚く湛えた密度があり、
観る側を彼女の世界に抱きこむような力があって。
ユーティリティを豊かに持った役者さんではあるのですが
一方でこの舞台に限らずこの人だから演じ得る領域も間違いなくあることを再認識。
本多巧の演技にはしたたかに描き出された
表層の質感がありました。
彼の作りだす歪みのようなものが
作品のコアに観る側を取り込む漏斗のようも感じられて。
萩原美智子のお芝居にもソリッドな感覚と
そこから踏み出す狂気をはらんだの質感の両面での秀逸を感じる。
常態をどこか踏み出したそれぞれの役者の個性的で献身的なお芝居が
観る側を引き込みやがては圧倒的に凌駕していく。
作品の余韻に浸りこみつつ、ぼぉーとアンケートを書く・・。
ふっと顔を上げた瞬間の、
目の前の、殺風景なルデコの空間に、
これほどの世界を感じさせた
作品の奥行きの深さに改めて息を呑む
誰もが好きになるというような作品というわけではないかも
しれません。
人によって肌に合うとか合わないというようなことが
かなり出る作品かなとも思う。
でも、少なくとも私的には、
この作り手や演じ手の表現に
常ならぬほどに嵌ってしまいました。
初日ということで
上演を重ねるなかで、まだ、
その心風景の深淵には先が生まれる予感もありつつ
帰り道、余震のようにやってくる、
感覚と自らの内にある時間が醸成する揺らぎのようなものに
作品の力をさらに実感じたことでした。
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