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世田谷パブリックシアター「往転ーオウテン」ゆっくりと深く伝わってくる生きる質感

2011年11月7日ソワレにて世田谷パブリックシアター企画制作の「往転ーオウテン」を観ました。
会場はシアタートラム。

前週、KAKUTAの「ひとよ」をその会場で観ており、桑原裕子脚本を2週連続で拝見。
その充実に目を瞠りました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

脚本:桑原裕子

演出:青木豪

冒頭のシーン、、
スクリーンに写された黒子的人々が作りこむバス走行の映像、
中央に座る人々。
それらのシチュエーションが、すぐには伝わらず、
観る側にとって物語との距離となる。
視座は、舞台上の登場人物たちの外側におかれ、
事故に至るシーンが観る側に現わされて。

そして時間までが拡散し、
ジグゾーパズルのピースのように
現れていく。

事故の前の時間、
上手側の
骨をすりつぶしているという女性の行為は強く印象にのこるのですが、
彼女の想いが伝わってくるわけではない。
訪れる男も同じこと。

下手側に並べられたベットも、病院のものだとはわかるのですが、
患者の素性などがわかるわけではない。
田舎に現れた女性の姿にも
違和感がある。
バスに乗り合わせる友人の母親と男の関係が
一番明確に見えるのですが、
彼らとて氏素性がわかるわけではない。

農家に訪れた女性と
おそらくは事故でその家に戻れなくなった女性にしても
迎え入れる側の雰囲気が
ぼんやりと「招かざる・・・」といった感じで浮かび上がってくるだけ。

バスの前方に座った中年の男女の関係にしても
場の風景に埋もれてしまいそうな
ありふれたものに思える。

でも、最初に
登場人物たちの素性や関係があいまいであっても
スクリーン上の映像などには
多くのシーンに明確な時間にタグが付けられていて
次第にフォーカスが定まっていく。
気が付けばバスの横転事故が観る側にとっての原点としておかれ、
その前後のエピソードとして
彼らの抱える物語が観る側にしなやかにプロットされているのです。

開演前にフライヤーなどを見ていて
4つの物語が独立して演じられるのかなぁなどと思っていたのですが、
実際にはバスの事故を原点にして
ゆっくりと時間全体がひとつのかたまりとして姿を現わしてくる感じ。
でも、観る側に時間と空間の座標が定まってくると
それぞれの物語の居場所が定まり、次第に解けて
個々の登場人物たち自身や、彼らの時間に奥行きが
醸し出されてく。

表層的に見えた4つの物語が
目を瞠るほどに広がっていく。

帰省するような風情の男とおばさんの二人連れには、
なにかほのぼのとあたたかい雰囲気すらあって・・・。
でも、時間の経過が、彼らの化粧を次第にはがしていきます。
いきがかりで、自らを守るように作り上げられた虚構、
実はマスコミを騒がせ東京を離れようとしているIT会社社長と
息子に金を無心に上京してはうとましがられている女性との
傷心と孤独の重なりへと姿を変えていく。
仗桐安が表層の凡庸さのなかに抱えるものをわずかに透かして
キャラクターの立場や逃げ場を次第に失っていく閉塞感を作り上げ、
峯村リエがどこかおせっかいなおばさんの色に込めた虚勢に
深い孤独を裏地としてしっかり縫いあげていきます。
それぞれがお互いの表層にある姿の嘘に気づきながら、
そのままに過ごす時間に
彼らの行き場のなさや飢えのようなものが
ぽっかり空いた枘穴のように
空虚さと実存感をもって伝わってきます。

その二人とバスの中でのティファニーの指輪のエピソードで交差したカップル、
事故で死亡した男性の家を訪れた女性の行動の
不透明さや違和感が
男の双子の弟の暮らしや兄への想いを次第に浮かび上がらせていく。
そして、弟の姿がみる側に馴染むなかで
今度は女性の横顔や想い、さらに死んだ兄の姿が
ゆっくりと倒れるドミノのようにさらけ出されていくのです。
尾上寛之の演技には
兄弟二人の異なるキャラクターを
それぞれのエッジを立てずにつなぎ合わせるような肌合いが作られていて
二人の想いの異なるベクトルにとどまらず
それぞれに共通した色までが細微にしっかりと浮かび上がってくる。
市川実和子には、ひとつの台詞、
あるいは小さな仕草や表情の細微のナチュラルな変化で
想いの出し入れをくっきりと作り上げる力があって。
現れる想いが霧散せずに観る側に残る。
二人の関係の外皮を切り裂くように差し込まれた
安藤聖がクリアに作り上げる、
ある意味屈折のない女性の存在感や魅力も実に秀逸なのですが、
その安藤の輝きとの落差を作り、
キャラクターの心情と
彼女をその場所に連れてきた男の想いを紡ぎあげていく
市川の淡々と懐の深さをもった演技が紡ぎあげる物語には
行き場のないほどの切なさがあって。
誰も愁嘆を現わさないドラマの流れが
愁嘆に解き放たれることすらことできない
登場人物たちの想いを観る側に注ぎ込んでいく。

安藤聖が看護師を務めていることが開示されるまでの
病室の物語は
シンプルに、入院している女性の視点で
語られていきます。
どうやら、彼女はバス事故でけがをしたというわけでもないらしい。。
このエピソードは舞台の流れのなか、
はどこか独立した歩みとして差し込まれていくのですが
でも、穂のか が演じるキャラクターには
観る側の興味をそらさない空気があって・・・。
また、その空気を引き出すような役回りを演じる柿丸美智恵
曖昧な空気から観る側を逃がさない。
穂のかの世界をしたたかに現実につなぎとめて観る側に供していく。
だから、エピソードの視座が彼女の内側の世界へと変化したり、
物語が事故に結びついていく流れに観る側が混乱したり違和感を感じることがない。
だからこそ、穂のかの演じる女性が眺める世界、
浅利陽介が緻密に編み上げ演じた、
隣のベットに横たわる男に女性が背負わせたものが、
クリアな質感を帯びていく。
柿丸に加えて刑事を演じた藤川修二遠藤隆太
彼らはこのエピソードだけでなく、
物語をつなげる潤滑油のように何役も演じ上げていくのですが、
彼らのお芝居の安定や醸し出すニュアンスの明解さが、
次第に重なりあうエピソードを支える骨格となっていきます。
そして、
このエピソードも、終盤には、
意識を失い昏睡したバスの運転手と看護師とともに
物語の世界にプロットされ同じ時間の広がりに取り込まれていく。

もうひとつのエピソード、死んだ母親の骨を粉にすりつぶして配って歩く女性と
人生に行き詰った彼女の愛人の行脚に流れる時間は
原点の刹那に一番近い時間の流れとして
ちょっとしたロードムービーの態で描かれていきます。
その骨を何人もの異父兄弟に配っていく。
一方、会社をくびになった彼女の愛人がやってきて
家に帰ることもできず、彼女と行動をともにする・・・。
高田聖子が演じる女性には、幸せに満ちているわけではないけれど、
冒頭からどこか達観が感じられ、
一方の大石継太の戸惑い立ちすくむ風情にも
どこかコミカルな生きていくことを前提とした姿が感じられる。。
骨を配ってまわる意図や、
その中での彼女の想いが少しずつ渡されていく中で、
彼女のコアに留められたものがすっと舫をとかれ、
さらにその先に抱える彼女の想いが
透明感とともに観る側を染めていく
冒頭のバスで歌っていた「アンチェイン・マイ・ハート」、
故郷へ向かう尾上が演じる男の苛立ちを導くその想いが纏う
どこか頑な感覚の鎧が外され
原点の時間を超えたその先で、
事故にあうことのなかった男のなかで昇華していく。

挿入される事故のニュースアナウンス、
バス事故、
二人の死亡、三人の重軽傷、そして二人の行方不明・・・。
現実にそんなニュースを聴いても
新聞でそんな記事を読んだとしても、
たぶん記憶の隅にもとどまることがないに違いない。
でも、舞台上に目の当たりにした事故の刹那から
幾重にも広がる様々なドラマの広がりに
人が生きることの重さと軽さが、
解けて渦をまくように降りてきて、
抱えきれないほどに観る側を凌駕していきます。

物語に込められた一つの時間に重ねられた
たくさんの人生の肌触り、
その感触と距離のようなもの。
バス事故までの時間がリフレインされ
すべてが包括して観る側に置かれた時、
ばらばらに見えた一つの時間が
すっと一つの感覚として収まる。
終幕の時間、
作り手の研ぎ澄まされた生きることへの感覚が
一つの定義には収まらない
もっと大きい捉え方として感じられて。

観終わっての帰り道、
ちょっと妄想にも近いのですが、
架空のバス事故ではなく、
たとえば3.11のその刹那に放たれていった
想いへの感覚にも繋がって・・・。

作り手の描くエピソードに込められた
ひとつずつの人生に思いをはせる中
べたな言い方ですが、
人が生きることの奥行きの深さを
極めて強く感じ続けたことでした。

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コメント

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

投稿: 履歴書の職歴 | 2012/02/05 13:16

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