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五反田団「五反田団の夜」3つ星シェフが腕をふるったB級料理のテイスト

2011年11月20日、五反田団の「五反田団の夜」を観ました。

会場は五反田、アトリエヘリコプター。
意外な広がりに愕然、作り手や演じ手の常ならぬ才に
まさに圧倒されました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意くださいませ)

作・演出: 前田司郎

出演:大山雄史 後藤飛鳥 中川幸子 西田麻耶 前田司郎 宮部純子

五反田団流の
どこか下世話でとほほっとした感じの始まり。
冒頭の姉弟の空気にしても
そのあとの市民団体(?)での会話にしても
極めて表層的な感覚やうすっぺらさが
鮮やかでわかりやすく、
じわりじわりと可笑しさが膨らんでいく。

でも、その可笑しさ、
観る側にはおくびにもださないのですが
作り手のしたたかな策略に満ちていて
キャラクターたちの雰囲気を強く浮かび上がらせ、
物語を解き放つ力へと変わっていくのです。

西田麻耶のキャラクターの作り方の上手さが、キャラクターの個性にとどまらず
物語にいろんな骨を作り上げていく。物語のベーストーンを醸し出す力というか・・。
中川幸子には実在感があり、なおかつ他のキャラクターを照らし出していくような力があって。

たとえばマクドナルドに関する
プチネタのようなエピソードが
しっかりと後半の物語のを支える伏線になっていたりする。
鶴の折り方ひとつにも、素敵なばかばかしさに包まれた
豊かな寓意を感じる。

それらが、後藤飛鳥のカダフィ話で
さらに、鮮やかに色を変えていきます。
この人の作りだすキャラクターだと、小市民のごたごたが
そのまま革命の構造に乗っかる、
恐ろしいほどのナチュラルに寓意が満ちる。
すっとしたたか、かつ、イノセントに場の色を変わり広げる
キャラクターがそこにはあって・・・。
一見平凡に見えて、ワンワードで一気に世界を塗り替える
絶妙なタイミングと切れ・・・、本当に上手いなぁと思う。
しかも、それを寓意を崩さずに凡庸に貫く、
キャラクターへの圧倒的なキープ力のようなものもあって・・・。
また、勘所での大山雄史の場面への刺さり方や受け方もよいのですよ。
この人の物語に対する立ち位置の絶妙さが
女優達の作りだす世界を、
伸びやかに広げながら、一方でしっかりと一つの器に納めていく。
物語の展開の軽さに
観る側が受け身をとる暇もなく、
世相や組織、さらには革命の感覚にまで
世界が広がる。
なんだろ、めんどうくさいロジックの説明より
遥かに説得力のある様々なものの本質が
一口噛んだ小籠包のスープのごとく
あふれるようにやってくる感じ。
それらは、脂っこくももたれるもことなく
観る側に流れ込んできてさらに膨らんでいくのです。

加えて、この作品にはもう一皿のメインディッシュがあって。
宮部純子前田司郎のお二人による
手をつなぐ刹那の身体表現に
目を奪われる。
宮部の見栄えにとどまらず、
端々に美しさを纏う女優力にも感心しましたが、
それを受け止めて、男の純情を編み込んで刹那の時間へと鮮やかに切り取る
前田司郎の役者としての身体の使い方には愕然。
留まる時間、指先の動きが場内を笑いで満たす・・、
でも本当の凄さはそこから。
体の揺らぎ、ひとつの動き、
満ちて踏み出すワンステップ・・・。
互いの想いの重なりと、
ためらいの温度の差異のようなものが
豊かに醸された密度とともに伝わってくる。
それは、滑稽でありながら
ため息が出るほど実直で豊か。
そんなに長い時間ではなかったと思うのですが、
観る側の時間感覚が鮮やかに奪いさられ、
二人のひとときの心情にどっぷりと浸される。

物語自体の収束にも
がっつりの含蓄があり
さらには、身体表現のリプライズの
チープで豊かな広がりにもしっかりとやられて・・・。
カジュアルな雰囲気のレストランで
こそっと3つ星シェフが作ったランチを食べたような驚きというか・・・。

作り手と役者、そして作品・・・、
それぞれからこの劇団の底力を凄さを改めて実感したことでした。

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