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北京蝶々「番外公演 4×15」役者の引き出しの一つを開けて

10月29日ソワレにて北京蝶々の番外公演「4×15」を観ました。

会場は新宿眼科画廊地下。

作り手と4人の役者たちの、豊かで、
抜きんでた表現力を堪能することができました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

・脚本 :大塩哲史
・演出 :北京蝶々


新宿眼科画廊地下には、ちょっとした閉塞感があって、
それが一人芝居には武器になるような感じがあって・・・。

トップバッターの田渕さんが、ちょっとグタグタな部分を見せるのもご愛敬。

リラックスした雰囲気ととタイトな空気が混在する中で
すっと芝居に入っていきます。

・田渕彰展「エアデート 完全版」

冒頭のちょっとした客いじりをゲートウェイに
実から虚に踏みいる感じが
丁寧につくられていて、
すっと、エアデートの世界に観る側も封じ込められてしまう。

妄想と言わず「エアデート」という概念を構築するあたりからして
けっこう凄いのですが、
そこに何とも言えない初心者マーク感を織り込むことで
観る側はしたたかに常ならない視座に導かれている。
視座が変わっているから、
観る側にとって物語には
その可笑しさでは終わらない。
さらに、作り手と役者が織り上げる
その虚が解けてさらに踏み込む世界にも力があって。

きっちりと持っていかれてしまいました。

・岡安慶子「恋愛で飯を喰う人」

風俗嬢、普通にことに及ぶと思いきや
ちょっと意外な展開が作り出されていきます。

一人芝居なのですが、
キャラクターの瞳に映るものがしたたかに作りこまれているというか
視線の距離や焦点合わせが
息を呑むほどに安定して観客に刺さる。
だから、キャラクターが対する相手への
距離感や想いの移ろいや濃淡が浮くことなく
その場としての不条理な言葉が
見えない客を鏡とするように
質感をもって伝わってくる。

ソープ嬢の仕事の中で
手放した部分と抱きつづける部分、
あるいは狡さと矜持のようなもの
ボーダーが曖昧ないろんな感覚や想いがあって、
でも、その集合からは
役者が演じる一人の女性の
個室という場所での風貌や肌触りがしっかりと浮かんでくる。

だからこそ、客が帰った後の、
行き先を失った視線に
彼女の素顔が浮かび上がり、
観る側に強く印象にのこる。
垣間見える心情の
すこし醒めた感触を持った生々しさに
思わず息を呑みました。


・帯金ゆかり「狼少女、都会に降り立つ」

コンテンツ的にはワンアイデアのお芝居だと思うのですよ。

でも、演じ手がもつ表現力が
あれよという間に企画の瞬発力を凌駕して
世界を舞台に組み上げていく。
一つ間違えばとんでもなく薄っぺらい世界になりかねないものを
常に観る側に広がるものよりもたくさんのもので空間を満たし続ける
テンションというか力に圧倒されて。

身体の切れももちろんあるのでしょうけれど、
それにとどまらない、
元々場ごとの空気の色をすっと現出させ、
あるいは変化させていくような力が
人並み外れてあることは十分承知していて
でも、そうであっても
こういうベクトルにもその力を発揮できることは
けっこう驚き。

この人の底力に改めて触れて、
前のめりになって見入ってしまいました。

・森田祐吏 「たった一人の地球防衛軍」

恣意的な薄っぺらさが最初にあって、
苦笑系の笑いかなと思わせておいて・・・。
でも、それが、
ゆっくりと膨らんでいく
足腰をしっかりともった感覚に
しだいに塗り変わっていく。

演じ手の個性の強さが
演技を一つに留めるのではなく
彼が現わすニュアンスの間口の広さに繋がっていきます。
どこかトホホな地球防衛軍の姿に
実存感を裏打ちするお芝居の確かさが
薄っぺらかったキャラクターの心情に
次第に奥行きを与えていく。
気が付けば、
観る側は冒頭のベタで表層的な世界を足場にして
ひとりの男性の心情に
しっかりと取り込まれている。

演じ手にはキャラクターの色を強く立てる力があって、
そちらが目立ってしまう舞台も拝見したことがあるのですが、
でも、この役者のメインディッシュは
性格俳優的な側面のというか
キャラクターの心情や心の移ろいを舞台上に置く力だということを
はからずも、地球防衛軍隊員という、
直球キャラ勝負のようなロールを
したたかに演じている姿をみつつも(地球防衛軍芝居としても秀逸だとおもう)
改めて認識したことでした。

*** ***

いろんな毛色をしっかりと描き分けた
作・演出の力量も改めて再認識。

劇団としても、作家や役者としても
この集団がもついろんなアスペクトでの
演じる引き出しの多彩さとクオリティを再認識。

集団としての、そして個人の役者や作家としての
作り演じる力を
しっかりと見せられたように思いました。

良い企画だったと思います。
とても楽しめた1時間、
公演数の少なさがとてももったいなく感じたことでした。

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