« 文月堂「ちょぼくれ花咲男」時代の風情のしたたかな取り込み | トップページ | 石原正一ショー「ハリーポタ子」役者を際立たせるフォーマット »

東京バンビ「ピクルス」もう一味が醸し出されたコメディ

2011年9月26日ソワレにて東京バンビ「ピクルス」を観ました。

会場は下北沢オフオフシアター。

コメディでありながら、同時に豊かなペーソスを残す作品でありました。

(ここからネタバレがあります。ご留意ください)

作・演出・出演:稲葉信隆

出演:アダチヒロキ はやし大輔 中峰健太 稲葉信隆 オオトモケイコ 佐々木千恵 町田歩美 三谷滋(劇団福耳) 櫻井智也(MCR)

冒頭のトイレ設備の瞬殺ネタや、
物語を俯瞰するような語り。
ちょっと駄目っぽい男三人が集まった舞台の絵面には
サクっとした笑いに満ちた
トホホ系のコメディのイメージしかなかった。

ところが、小学校の同級生の妹という女性がやってきて、
札束のはいった分厚い封筒を押しつけていくところから
物語が意外な方向に展開していきます。

その同級生のキャラクター設定は
かなり凄まじいものなのですが、
役者の作り上げる彼の世界には観る側に有無を言わせぬ説得力があって、
舞台上の他のキャラクターたちを根こそぎ巻き込んでいく。
一旦舞台の世界に取り込まれてしまうと
その展開に無理がなく、
伏線もがつがつと効いて、
笑いの先にキャラクターたちの感覚が鮮やかに浮かび、
観る側に積もり広がっていく。

居酒屋のシーンが実に秀逸。
気づまりの中から
それぞれのキャラクターに仕込まれていたものが
予想外のあらぬ方向に溢れだす。
それぞれのキャラクターの貫きにきちんと理があって
ドミノの倒れていき方に無理やあざとさがなく、
場には幾重にも膨らむ歯止めを失ったような
おかしさとペーソスが醸し出されて。

単に友人の彼女の本当の姿が開示されるだけではなく
そこからさらに物語の骨格の一つに広がったり
献身的な妹の内心の決定的な開示に繋がったり。
仕事場であるコンビニの雰囲気を醸すワイルドな客の女性が
意外な形で中盤以降の物語を支えたり。
観る側に先を読ませない伏線の張り方や展開や、
しっかりとボディーと踏み込みをもった笑いから
すっと溢れだすキャラクターの心情に心をつかまれてしまう。

キャラクターたちが醸す笑いが、
ワンショットではなく別なシーンにその色を変えて
観る側にやってくることで、
コメディとしての豊かさもがっつり広がっていきます。
コンビニ店員が廃棄弁当をもらう定番の理論武装として
地球環境を語るうざさに苦笑していると、
それが、余命いくばくもない相手にぶつけられて
凄みを持った笑いに塗り変わる。
主人公の友人の恋人が
実は主人公も学生時代にお世話になった
現役のデリヘル嬢だったという展開も切なく笑えるのですが、
そのデリヘル嬢が使い捨てにされず
後半「チェンジ」を宣言される展開に
物語の裾野がさらに広がって。
そこから妹のモラルを逸脱した献身までが浮かび上がってくる。

見せるものと見せないものの切り分けもしたたか。
そこがどのような病院なのか、
引きこもりの男性の生活の実態、
同室の患者の心情、
前述の、コンビニの客の正体や妹の献身を裏打ちするものにしても、
その表わしかたに無理やずるがなく、
観る側を一歩先んじる力があって。
その切り分け力は、別の表現力ともなって
人の生き、死ぬ感覚までも
浮かび上がらせる。
醒めた視線とリストカットの同居したネットアイドル同級生のキャラクター設定や
死を待つ同級生とそうでなかった者の対比の
淡々とした鮮やかさに息を呑む。

そして、物語は、
やがて曖昧に置かれたコンビニの店長の心風景をも
描き出していきます。
投げかけられた
「ボランティアに行って、恐ろしくなって戻ってきたような」という比喩が
ぞくっとするほどにまっすぐ
死に直面した同級生に対する彼の距離感や心情に重なる。
一人ずつの生きる感覚や死への想いが
笑いたちの先に鮮やかに広がって。

物語を包括するような語りの挿入や
タイトルの、ハンバーガーに添えられたピクルスが
舞台の世界に大外の枠組みとなって。
いくつもの場面で何気に食べられていたハンバーガーが
最後に舞台を引き締める。

もっと作りこみ研ぎ澄ますことができる部分はあると思うのです。
シーンの見栄えが少々雑な部分や場面転換の空気の保ち方のようなもの、
細かい間やいらだちの立ちあがり方・・・。
もっと熟した作品に育つ余白があることも事実。
骨格の秀逸が支えてはいても
その膨らみ方には観る側として
さらなるものを求める感覚も残って。
でも、そうではあっても
要所要所がきっちり作り込まれた
コメディとしての魅力に加えて
ビターさや透き通った感覚を内包した
コメディという範疇に収まりきらない舞台の質感が醸し出されて、
がっつりと掴まれてしまいました。

過去に観たこの劇団の作品も悪くはなかったのですが、
そこからさらに、何段階か一気に進化して、
MCRの主宰を役者としてしっかりと機能させて・・・。

秀作だと思います。

|

« 文月堂「ちょぼくれ花咲男」時代の風情のしたたかな取り込み | トップページ | 石原正一ショー「ハリーポタ子」役者を際立たせるフォーマット »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 東京バンビ「ピクルス」もう一味が醸し出されたコメディ:

« 文月堂「ちょぼくれ花咲男」時代の風情のしたたかな取り込み | トップページ | 石原正一ショー「ハリーポタ子」役者を際立たせるフォーマット »