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石原正一ショー「ハリーポタ子」役者を際立たせるフォーマット

すこし遅くなりましたが、2011年9月26日ソワレにて、
石原正一ショー「ハリーポタ子」を観ました。

会場は下北沢、シアター711。

開演前に主宰と制作の方が出てきてグッズの紹介を・・・。
これがまったりと関西漫才風で、なんともいえず味があって。

観る側の頭の中も関西テイストに切り替わり、
演劇に向かい合う気持ちにおもろいものへの期待感が上積みされて・・・。

そして、その期待感をさらに凌駕する舞台が展開していきます。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出:石原正一

物語は一応ありました。
でも、ネタでも語られていた通り、
ハリーポッタの女性版という感じではない。
骨格も、適度にいい加減でご都合主義的な感じもする。
でも、だから駄目なのではなくて、
そのルーズだからこそ、
生きる役者たちの個性が物語に埋もれずに舞台を満たす。

もちろん、キャラクターを演じるという、基本的な縛りは作られているし、
ドラマとしてのロールもそれなりにはあるので、
役者の個性が野放しで無制限に舞台に広がっていくわけではないのですが、
一方で物語を脱線させずに(たまに構造的にしてるけれど)
やることさえやって前にすすんでいれば、
あとは与えられた部分で自分を出して、
受けたものが美味しいみたいな感じも舞台には満ちていて。
その縛りと自由さのバランスが役者たちひとりずつを輝かせる。

ベースのトーンは竜崎だいち が担って行きます。
この人のお芝居には、強さに加えて足腰のしっかりとした安定感があって、
観る側にも道に迷ったら彼女の物語に戻ればよいという信頼感を与えてくれる。
なにげにぶれなく、ちゃんと物語を背負えるパワーがあるのです。
今回、男優は石原正一信平エステペスのふたり、
ともに強い個性を内包しているのですが、
ただ前にでるということではなく、本当に美味しい果実は女優陣に渡して
主要な部分での舞台全体の支えになっている感じもあって。
結果的に女優たちの存在感に押される態にもなったりするのですが、
それが舞台全体の味わいにも繋がっていて。

丹下真須美も、絡みの良いお芝居。他の役者たちの切っ先を持った演技を、
うまく舞台の緩さにのせていくようなしたたかさがあって
舞台のトーンに膨らみを与えていく。
吉陸アキコの演技には舞台を澄ませるような精度があって
場に広がりが生まれます。彼女の存在というか個性の凛とした硬質が
舞台の濁りをすっと取り去るような感覚を舞台に作り出していく。

SUN!!は一歩抜きんでたしなやかさをもった身体の表現で観る側をしっかりと掴んでおりました。役者の身体の使い方とは一味違った切れのある動きでキャラクターの個性を舞台にのせていく。
加順遥の演技にはまっとうでありながら、彼女的なペースあって、舞台に不思議なエッジを創り出していきます。飛び道具的なお芝居ではないのですが、他の個性たちに埋もれないなにかがあって。
日詰千栄は気持ちよく2曲を歌い上げて舞台にエンタティメント性を与えてみせました。こういうシーンというか芸が舞台の出汁となり舞台全体のごった煮感(誉め言葉)や味わいを醸し出していく。
森口直美は正統派の目立ち方ができる役者さん。衣裳は派手なのですが、ヒールの強さのなかに、デリケートなキャラクターの心情をすっと浮かび上がらせる手練があって、べたなのにぐたぐたにならない。極めてくっきりとしたキャラクターの存在感を感じることができる。

小椋あずき は貫録のお芝居。キャラクターをちゃんと舞台に編みこむのはもちろんのこと、彼女自身の色を舞台にはめ込む絶妙な力の抜け方があって目を瞠る。刹那に立ち上がる雰囲気が自らを生かし、他の役者を照らし、個性の散乱した舞台をすっと束ねる。なんというか、その格の違いに瞠目。

吉川莉早は東京プレイヤーズコレクションでの秀逸なお芝居を観ていて、その芯を持った表現力は十分に承知していたのですが、今回は、舞台にまっとうなお芝居のテイストを残す器用さにとどまらず、それを恣意的に崩していく際の不器用さにも彼女の個性を感じて。醸し出される個性が一重ではなくいろんなベクトルを創り出すところに、この役者さんのさらなる可能性を見たように思いました。
田川徳子はお芝居に緻密な緩さというかダルさをうまくキャラクターに組み込んで、彼女自身の世界を作り上げるつつ、たとえば吉川の演技の別な奥行きを照らし出す場面もあって。他の役者のリズムに合わせつつ自分のリズムを崩さないような感じに演技のしたたかさが伝わってくる。

片山誠子はまさかのパワー。この凄さはどう表現したらよいのでしょうかねぇ。そんなに目立つ風貌はないのですが、一旦箍が外れると、キャラクターの個性の湧き上がり方に歯止めがなくなる感じ。腰が据わったパワーや突き抜けがあれよあれよという間に立ちあがり、観る側をぐいぐいと押しこんでいく。その存在には他のキャラクターを寄せ付けないような踏み込みがあって目を瞠る。

これだけの個性が、物語を編み上げていくのです。しかもゲストコーナーまで加えて。そりゃもうがっつりのボリューム感。
その中で、舞台に立つどの個性にも、羽根を広げる場がしたたかに与えられ、観る側を全く飽きさせることなく、冒頭から最後まで引き込み続ける。今回の出演者の作・演出の豊かな手腕を感じて。

当日パンフレットを見ると、今回出演の役者さんたちの多くに東京での舞台が決まっているようで、それを是非にみたくなってしまう。

もう、素敵な満腹感に満たされて、ほくほくと劇場を後にしたことでした。

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