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表参道ベースメントシアター「Hello!」シーンごとのニュアンスが作り上げる時間

2011年9月2日ソワレにて、表参道ベースメントシアター「Hello!」を観ました。
プレビュー公演。会場は表参道GROUND。

台風12号の気配を感じたりはするものの、
とりあえず雨に降られることもなく劇場に到着。

作り手が醸し出す、
その空間を満たす時の流れを受け取ることができました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

脚本・演出 : 上野友之

元々がライブハウスとして作られた劇場ということで、
舞台が高く、たてこみもなんとなくやりにくそう。
でも、それを逆手に取ったように、
比較的シンプルな最小限の舞台美術のなかに
役者たちの雰囲気で作る小さな喫茶店の日常が生まれ
シーンが紡がれていきます。

サクサクと進む時間があって、
その場ごとの事情がしたたかに場面に盛り込まれていく。
登場人物たちの関係やそれぞれが抱く想いも
あからさまに語られることはないのですが、
刹那の空気の織り上がりとして観る側にやってくる。

シーンの中で物語を語りこんだり、
想いに空気を塗り込めたりしていないので
観ていて軽い質感がある舞台。
現わされるそれぞれのシーンには、
刹那のニュアンスが丁寧に作りこまれていて。
その切り取り方と組み合わせの秀逸によって、
観る側は舞台となる小さな喫茶店に流れる時間の積み上がりを、
感覚として俯瞰することができる。
気が付けば、舞台が進むなかで、
作り手が織りあげる時間にとても自然に取り込まれているのです。

それぞれのシーンで表現されることの洗練と
その重ね方で醸し出されるものの広がりと肌触りに
作り手の作劇の手腕を感じることができる。

また、役者たちにも、それぞれの個性とともに
作り手の育む時間を支える技量がありました。
主人公の母親役を演じたザンヨウコには、
その場所のベーストーンを醸し出すような豊かさがありました。、
なんだろ、彼女が定める舞台の時間の流れから、
その場所の生活感やリズムのようなものがしなやかに生まれてくる。
立ち居振る舞いにしても、
子供たちへの接し方にしても、
キャラクターの個性を崩さずに
観る側の母親の認識にすっとおさまるような力があって。
さらには、この人のお芝居によって
舞台全体の時間の流れもなにげに着実にコントロールされていく。
主人公の姉を演じた黒木絵美花には
女性として生きることの質感がしなやかにつくられていました。、
物語のなかのキャラクターの立ち位置がしっかりしていて。
凛としたなかにとまどいや歩み始める力をもった女性の姿がクリアにやってくる。
ナチュラルな印象のお芝居の中に、
キャラクターの表層的な強さと
20代女性のビビッドな生きる実感が伝わってくる。

主人公を演じた白又敦は、想いを隠しながら、
その片鱗を観る側に伝える雰囲気の作り込みがあって。
プレビュー公演ということもあるのでしょうか、長尺だったり、
他の役者の演技を受けるような部分でちょっと硬さがあり、
少しだけ場に醸された空気の奥行きを使いきれない部分を感じましたが、
その硬さが解けて、場にうまく編み込まれた時の伸びシロはしっかりありそう。
主人公の中学時代の同級生というかアイドルを演じた三宅ひとみ  にも
お芝居の若干の硬さを感じたのは事実。
でも、この人のお芝居には華があるし、
個性をもった切れの良さと強さが内包されていて。
硬さが若干曖昧にしている色がありはしたのですが、
たとえば演期間後半のなどで、その硬さがほどければ、
キャラクターの表現する心情が
着実に観る側を浸潤するようなエッジを持つような気がした。

喫茶店のアルバイトを演じた武子太郎
登場する場面にメリハリをしっかりと作り上げていました。
単に3人家族の物語では鬱々としてしまうところに
彼の存在感がドラマとしての見栄えを織りこんでいく。
シーンにパワーを与える力があって、
そのパワーが観る側を、息を詰まらせることなく物語の流れにつなぎとめていく。
アイドルのマネージャーを演じた大川翔子は、
恣意的に強いバイアスをかけた演技で舞台を貫いて見せました。
タイトな空間に密度をつくり、繊細な心情を作り上げることには長けた役者さんが、
暫く封印していた引き出しを開けた感じ。
キャラクターの実存感はまっとうにつくられているのですが、
その一方で、コメディエンヌとしての
外連や踏み出しをぶれずに支える底力が解き放たれて、
舞台にとどまらず会場全体にまで
キャラクターの色を差し込んでいく。
その突き抜けが、キャラクターに対する登場人物と観る側の共通の感覚を作り出し
観る側を舞台の時間に重ねてくれるのです。

観終わって、ふっと残るものがある。
それはどんと置かれるようなものではないのですが、
観る側の記憶としてすっと入りこんでくるような浸透力を持っていて。
作り手の日々を切り取る手腕を
改めて実感した舞台でありました。

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コメント

「清水ななみ」は役名で、演じたのは「三宅ひとみ」です。

訂正お願いしますm(_ _)m

投稿: 通りすがりの者です | 2011/09/05 22:56

通りすがりの方へ

修正いたしました。
ご指摘ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: りいちろ | 2011/09/06 00:02

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