青☆組「パール食堂のマリア」たくさんの時間の編み上がりに抱かれて
2011年7月29日ソワレにて青☆組「パール食堂のマリア」を観ました。
会場は三鷹芸術センター、星のホール。
これまで、比較的小さな場所で観ることが多かった青☆組のお芝居、
広く高さをもった空間が、その広がりをさらに大きなものとしてくれました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
作・演出 : 吉田小夏
会場に入ると、そこには街の風情が舞台に作られていて。
そして、たたずむ一人の女性の姿が目に入る。
やがて猫が現れて・・・。
物語が始まる前から、
舞台にはある種のテンションがあって。
絵面ではなく生きた時間が流れ
場内を満たしていて。
だから、すでに観る側に日常が日常としてあって、
その食堂の夕方の風景にも、
身構えることなくすっと入り込んでいける。
街の裏通りの風情もまた然り。
たたずんでいた猫が死んで、
そのモノローグから観る側の視点がすっと解き放たれます。
食堂から繋がる街の風情へと
視野が広がっていく。
人々の生活の断片が自然に置かれて、
やがて、時間は夕暮れから夜に流れて・・・。
夜は昼に、そしてまた夕暮れに・・・。
やがては、時の流れまでも舫を解かれて
今は過去に、さらには別の時間へと。
死んでなおも生き続ける、
猫の心のうつろいの如く巡り
食堂の家族やその街の人々のひと時や
様々な記憶が舞台を満たしていきます。
舞台の大きさが一つずつの時間の色や広がりを
ゆったりと抱いていきます。
舞台やや上手側のトンネルや大きな階段での役者たちの動きが
シーンをゆっくりと塗り替えていく。
随所にエピソードたちの質感の重なりが生まれ
気が付けば観る側も、街の様々な空気を呼吸しつつ
その風景を眺めている。
そして、その街の空気の中にいるからこそ、
街に息づくキャラクターたちの
個々のありようまでが、
肌合いをもって伝わってくるのです。
食堂の家族が抱え続けた過去、
彼女たちの弟の秘密・・・。
敬虔なクリスチャンの家庭での
父親の選択の重さ。
父母で背負ったもの。
それは、その食堂にひとりの男をコックとして導きいれ
別な形で未来をつないでいく。
次女と勤め先の同僚教師のエピソード。
その生徒と母親の関係、
あるいはバーのマスターというかママの物語
町内会長と踊り子たちに流れる時間。
暖かさやたおやかさやウィットがあって、
一方で時には冷徹に、研ぎ澄まされ
観る側が息を呑むような切っ先が内包されている語り口が
しなやかにそれぞれの時間を浮かびあがらせる。
さらには、ベーストーンのような
その場所に変わらずに立ち続ける街娼の時間や
名前を変えて生き続け死に続けた猫の記憶があって。
舞台上に重なった時間たち。
希望や夢ばかりではなく、
時には冗長であったり
にび色に過ぎていったり
苦悩のなかにあったり
心に反して折り合いをつけなければならなかった時間たち。
それぞれの紡いだ時間は色も形も触感も違うけれど、
たくさんの生きていく時間に編み上がった街の風情があって、
観る側すらもその街に閉じ込めてしまうのです。
その先には、うまく言葉にできないのですが、
ビビッドな質感を持った人が暮らし生きることの俯瞰があって。
そこには、べたな表現だけれど
単に平成の客席から昭和40年代後半を眺めるような俯瞰にとどまらない
人が生きていくうえでの普遍のようなものがあって
強く深く心に留まるのです。
出演:荒井志郎(青☆組) 福寿奈央(青☆組) 林 竜三(青☆組) 藤川修二(青☆組) 足立 誠(青年団) 木下祐子 髙橋智子(青年団) 天明留理子(青年団) 石松太一(青年団) 大西玲子 小瀧万梨子(青年団) 櫻井 竜 如月 萌
役者達には、
観る側にしっかりと刷り込まれるような
キャラクター達のそれぞれの時間の実存感を創り出す技量があって。
しかも、それがいたずらに際立つのではなく、
場というか街とのかかわりの中に存在感が置かれていく。
観終わって、
暫く舞台をながめていました。
終演後の解けた場内の空気のなかでも
物語はゆっくりと等身大にほどけ続けていて。
その感覚に、この舞台の奥行きの深さを、
そして描きこまれたものの秀逸を実感したことでした。
*** ***
ところで、これは余談のような話ではあるのですが、
今回の舞台では
これまでのこの劇団のお芝居のような
濃縮された時間が刹那に戻っていくのとは
少し違った囚われ方をしたように感じて。
そして、劇場をゆっくりと見回して
作り手にとってこの空間は、
作り手が作り出す世界を折りたたむのではなく
そのままに広げることができる大きさなのかもしれないと思ったり。
作品の世界に浸りつつ、
素人の発想なのかもしれないけれど、
作品と劇場の出会いも幸せだったと感じたことでした。
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