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tea for two 「tea for ONE ヒットパレード ONE act」、ベースの捉え方の上手さが生きる

2011年7月16日ソワレにてtea for two「TEA FOR ONE ヒットパレード ONE act]を観ました。

会場は明大前キッドアイラックホール。
このホールの名前は昔からよく知っていたのですが、行くのは初めて。
とても素敵な場所でした。
天井がとても高く、声もまっすぐに伝わってくる。
舞台の光景がとてもナチュラルに伝わってくる感じがする。

そんななかで、秀逸な一人芝居を楽しむことができました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意くださいませ)

作・演出 :大根健一

場内にはいると、懐かしいヒット曲たちが次々と流れてくる。
どこかソリッドな感じと不思議な空気の暖かさをもった空間で
ゆっくりと開演を待ちます。

・曲名「サムライ」 

男が舞台に現れて、
すこし慌ただしい雰囲気に朝をしっかりと感じる。
そこからモノローグでの
彼の通勤電車の選択の段取りが始まります。

話を聴いていて
キャラクターに仕事ができる感じはあまりしない・・・。
まあ、上司や同僚と電車で合わないための算段を始めている段階で
会社での彼の雰囲気も浮かんでくる。

その一方で彼には彼なりのプライドというかダンディズムがあって。
まあ、プレゼンにしても、交通費の削減という
どこかとほほと地味なものなのですが、
彼なりの唯我独尊な気概を、
ぬいぐるみに語りかけるところが
ドンキホーテよろしくなんとも滑稽に思える。

で、その雰囲気に「サムライ」が重ねられると、
現実と彼の世界の乖離が
しっかりとしたエッジを持って伝わってくるのです。
彼の高揚がそのまま反面に彼のありのままの姿を
ペーソスとともに浮かび上がらせてくれる。

アイロンでシャツを焦がしたり、
当初の気概がずるずると後退していく様には
ある種の救いのないリアリティがあって。

可笑しさに加えてどこか切なさまでが伝わってくる
サラリーマンにとっては、
ふっとわが身をを振り返ってしまうニュアンスをもった
作品でした。

朝のサラリーマン : 大岡伸次

・曲目「大阪で生まれた女」

営業会議のリーダー的な女性、オフィスの中や
どこかよどんだ会議で孤軍奮闘をする。
エピソードの作り方も場の雰囲気が
コミカルななかにとてもしなやかに伝わってくる。

彼女の台詞やしぐさの一つずつが
女性の突っ張っている部分にとどまらず、
キャラクター自体の半意識のような部分というか
ふっと見せる素顔のような側面をしなやかに創り出していきます。

最初の男性と正反対というか
彼女の仕事のできる感じがきちんと伝わってくる。
しかも、その雰囲気にはさらに奥行きがあって
仕事ができてしまうが故に生まれたであろう
周りの男たちの空気が役者の作り出す空気が
観る側にどこかコミカルに、でも肌をさすようにやってくる。
そのなかでの、一人の女性の揺れの振幅も
とても鮮やかに感じられるのです。

すこしけだるい感じと諦観と高揚を併せ持った
「大阪で生まれた女」には、
そんな女性の一番コアにある本音をすっと
引き出すような力があって。

そこには、女性の日々の生々しがあって、
さらには、その先に演じられる
彼女の開き直りというかもう一歩踏み出した
立ち位置が俯瞰できる。、

キャラクターのさらなる踏みだしに
リアリティが持つ浪速女の粘り強いパワーを感じたことでした。

会議室の女 : 塚原美穂

・曲目「喝采」 

女優がひとり芝居の世界に入り込む。その劇中劇的な部分に
観る側をすっと運んでくれるような完成度があって。
そのクオリティがしっかりしているから、
主人公が内に持つざわつきや揺らぎのようなものが
しっかりしたエッジと曖昧さを兼ね備えて伝わってくる。

現実と戯曲の世界の端境の心のうつろいのようなものが
観る側をまっすぐに彼女の想いへと導いていきます。

「喝采」という曲は、色がとても強いと思うのです。
一つの物語がくっきりと見える歌で
ドラマを絵面として伝得る力があって。
それこそ、イントロが流れるだけで
歌い手の表情までが浮かんでくるような感じがする。

にもかかわらず、舞台上に曲が流れた時に
この曲が流れ始めた時、
その感覚をしっかりと借景としてとりこむ強度が
役者のお芝居にはあって。
劇中劇の醸し出す深さが「喝采」に負けない。

むしろ、キャラクターの心情の奥がこの曲に
照らされているようにも思えて。

単に戯曲が描き出す刹那の心風景の捉え方の上手さにとどまらない
役者の底力を感じることができました。

楽屋の女優 : 西尾早智子

*** *** ***

一人芝居って、
通常のお芝居より、
さらに演劇的な嘘が無いと成り立たないような気がするのです。
今回上演された3作とて例外ではないのですが、
でも、今回の作品たちには、
あからさまなたくらみがありながら
その嘘を感じさせる匂いがすっと消し去られているような
肌触りがあって。

舞台上にあるのは間違いなく一人芝居なのですが、
観ているうちに
そのことを忘れさせるような
人物のバックグラウンドがしなやかに浮かんでくる。
紡ぎこまれた昔馴染みのヒット曲が
べたではなく絶妙に作品の色となって
観る側をさらに取り込んでいきます。
しかも、曲のニュアンスが作品としての目的地ではなく
物語を照らし出すバックライトのような位置づけになっていて
一人の人物のありようが、
曲が重ねられることによって
間接照明に照らされたように鮮明に伝わってくる。

観る側にとって馴染みのある曲を(年齢にもよるのでしょうけれど)
織り込む寓意のしたたかな塩梅や力加減に、
作り手のもつ演劇への手腕の洗練を
しっかりと感じることができました。

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