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ホリプロ 東京芸術劇場「百万回生きたねこ リーディング発表会」リーディングの秀逸とミュージカルへの見通し

2011年6月30日マチネにてホリプロ 東京芸術劇場「百万回生きたねこ リーディング発表会」を観ました。

会場は水天宮ピット大スタジオ。

秀逸な役者ぞろいで、シーンごとには楽しむことができました。
シーンたちもそれぞれにしなやかに創られていたと思う。
でも、本来の目的であるよいミュージカルを作ることを考えると、
この段階ではたくさんの可能性と
それらを満たすための課題もあるように思えました。

(ここからネタバレがあります。ご留意ください)

佐野洋子さんのベストセラー絵本をミュージカル化するにあたり、糸井幸之介、戌井昭人、中屋敷法仁の3氏に脚本と演出を依頼したリーディングの発表会。
ホリプロとFUKAIPRODUCE羽衣と柿喰う客の役者陣が出演。
結果として、どこかバラついているのだけれど、
いくつかのシーンのクオリティが非常に高いという、

不思議なテイストの作品が現出することになりました。

別につまらなかったわけではないです。
それどころか
、時間を忘れてしまうほどに面白かったし、
ぞくっとくるようなクオリティを感じるシーンもいくつかあった。

冒頭の言葉の断片がリズムと共に広がっていく感じには、
見る側を一気に引き込む力があったし、
別にお世辞でもなんでもなく、
リーディングを務めた役者たちは、とても秀逸で
彼らの個人の能力やそれぞれのシーンたちのニュアンスを

楽しむことはできた。

ただ・・・、
それがミュージカルとなることを想像したとき、
作品のなにが観る側を凌駕してくれるというビジョンを
この舞台から得ることはできませんでした。
ミュージカルが標榜された瞬間に、観る側は
・絵本があります。
・その絵本の世界がミュージカルの体で綴られていきます。
・音楽もダンスも綺麗です
という以上のものを舞台に求めてしまうし、
作品としてシーンの平均点の合算ではなく、光りものというか
「この部分には理屈抜きで圧倒されました」というような部分がないと
観る側はミュージカルには満たされないような気がする。

もちろん、そのための要素はどんなことでもありだし、
完成した時に観る側を凌駕するのは歌やダンスでというような
もくろみも作り手にはあるのかもしれない。
でも、実際、作品にそういう要素をあと付けで
織り込もうとしても
それらをささえるための作品の足場というか、
脚本なりコンセプトの組み上げが築かれていないと
演じ手の技量や工夫などだけで作品を輝かせるのは
なかなかに難しいと思う。

繰り返しになりますが、舞台に乗せられたものは、
決して悪くなかった。
サーカスのシーンには、
少々不必要な血なまぐさもあったけれど
でも何かが化けていくようなポテンシャルを感じた。
王様のシーンもきっと素敵な絵面になるような気がする。
漁師のシーンにはそれなりのグルーブ感が生まれていたし
後半のシロネコとのシーンは作り込めば作り込むほど
奥行きが生まれるように思える。
そう、いろんなきらめきが作品にありはするのですが、

原作や脚本、さらにはシーンが秀逸であっても
それらがどのようなベクトルで置かれて
観る側を圧倒していくかがみえないので、
ミュージカルを前提としたこのリーディングに
ある種のあっけなさを感じてしまったり・・・。
また、このままにシーンだけが膨らんで
作品が完成されていってしまうと
そこには、よく揶揄されるような、どこかトーンの帳尻を合わせたような
「ミュージカル臭」が生まれてしまうような気もするのです。

リーディングとしてしっかり楽しませてもらっておきながら
こういうことを言い連ねるのもなんなのですが・・・・。
今回のような作り手の志や実際に取り組みをみせられると
作品のミュージカル化への期待もがっつり高まるだけに
よしんば観たものが作品の土台や基礎の位置付けでであったとしても、
そこには常ならぬ高さというか、
まだ観ぬものへの高揚の片鱗を求めてしまうのです。

上演台本 : 糸井幸之介/戌井昭人/中屋敷法仁(50音順)

出演    :ねこ・玉置玲央 / 白いねこ・笹本玲奈      

飯野めぐみ/澤田慎司/日高啓介/深井順子/深谷由梨香/村上誠基

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