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#toringi TorinGi 「Dressing」キャラクターを互いに引き出させる仕掛けのしたたかさ

2011年5月3日ソワレにてfeblabo produce TorinGi第三回公演「Dressing」を観ました。

会場はエビス駅前バー。

秀逸な脚本・演出と個性をしっかり作りこめる役者たちの組み合わせを
この空間で観るのはとても贅沢。

もう、時間を忘れて見入ってしまいました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

脚本:米内山陽子
演出:池田智哉


開演を待つ間、
ドリンクに口をつけながら眼前の舞台エリアを眺めて・・・。
それほど広くはないエビス駅前バーのこと、
8人もの女優たちがどのようにお芝居をするのだろうかと、
ちょっと心配もしたのですが、
それはまったくの杞憂でした。

バーカウンターの内と外、
開店1時間前のガールズバーの風景を切り取る形で
物語が進んでいきます。
その店のママと新人女性が店に入ってくるところから
物語が始まる。
二人のシーンが終わると
入れ替わり立ち替わり出勤してくる女性たち、
キャラクタそれぞれの色が
まずは観る側に提示されていく。
そこには、女性達の気取らない、
毎日を感じさせるナチュラルな雰囲気があって。

やがて、会話などから、
キャラクターたちの関係や個性が
少しずつ滲みだしてきます。
いくつもの関係性が緩やかに倒れるドミノのように顕れて
それらはルーズにつながりながら、
さらに互いを巻き込んでいく。
ふと気が付けば
その店のお客のごとく外側から観ていた彼女たちを
店のスタッフとして観るように
観客の視座も置き換えられていて。
そこには、女性たちが外には見せない
バックヤードの風景が展開していくのです。

作り手は
物語に置いた女性たちの関係性を
ステレオタイプにつみあげるのではなく
他の個性のベールを剥ぐような爪を登場人物それぞれにあたえて
ひっかけあって
繋がっていくような感覚を
舞台に描き出していきます。
ガールスバーの開店前の時間という箍がきっちりと効いて
全体がある種のタイトさ保っているので
爪もルーズなかかり方をせず
しっかりと他の個性の隠された部分を導き出していく。

まだ、自分をコントロールすることのできない女性から
自分の感情に戸惑い揺れる女性、
自らの価値観を手に入れ、
あるいは自分を律することを覚えた女性、
さらには、自分が過ごした時間を俯瞰することができる
大人の女性の姿までが、
戯曲の仕掛けによってバーカウンター周りに
照らし出されていく。
シーンがしたたかに重ねられるなかで、
そこにもう一歩の踏み込みが生まれ
女性たちの隠された色を
さらに浮かび上がらせていきます。

様々なものがさらけ出されて
開店時間がやってくる。
観客もスタッフから店のお客の視座に戻されて、
初めて全員が舞台にそろい
美しく来店のお客様に頭を下げる
そのグルーブ感にまずは圧倒されて・・・。
次の刹那には
形式的につくられたお辞儀の美しさに束ねられた
様々なバリエーションをもった女性たちがそれぞれに醸すものの
ボリューム感に捉えられてしまうのです。

場末とまでは言わないけれど、
どこの繁華街にもあるようなお店に内包された
ありふれた日常の質量のようなものが
一様ではない瑞々しさとともに心に残りました。

役者のこと、
「さえ」を演じた朝倉亮子には女性としての美しさと
意地の強さをひとつのキャラクターに拠り込んで描き出す力がありました。
如才なさの裏側に見える、
どこか近視眼的な肩の張り方が観る側に彼女を取り込むトリガーを与えていきます。
「ゆりあ」を演じた椎谷万里江はその店のナンバー1を納得させる空気を
気負いなく編み上げておりました。
ママとの信頼関係の裏地が見えるお芝居がきちんと担保されながら、
一方で創り出されるキャラクターの肩の力が
さえとは逆にほどよく抜けている感じがとても良い。
「まいまい」を演じた鈴木アメリ
キャラクターがもつある種の短絡さやささくれだっているような部分も
緻密なお芝居で描き上げてみせました。
ちょっと自分を押さえられない部分や
さえに影響されるような浅い感じがしたたかに作り上げられていて。
普通の女性が当たり前に持っているような
苛立ちや軽さをしなやかに演じきっておりました。
「いちごを」演じた岡田まりあはキャラクターがもつ不安定な部分をがっつりと。
自分をコントロールできなくなる姿の迫力にも目を奪われるのですが、
それにもまして感情の溢れるひと息前の雰囲気に
しっかりとしたリアリティをが作り込まれておりました。
「みゆ」を演じただてあずみはボーイッシュな美しさを作りつつ、
ある意味女性としてのナチュラルでスタンダードな感覚を舞台に置いていきます。
自分の線を自分で引くみたいなキャラクターの揺らぎのなさがしっかりと作られていて。
お芝居に安定感があり、
その演技には舞台の雰囲気をキュッと締めるような力があって。
みゆに心を寄せる「きいちゃん」を演じた根本沙織
どこか未熟な女性の一途さやうざさを着実に演じ重ねて舞台に
想いを募らせた女性の色を醸し出しておりました。
ジェンダーのベクトルは違っても、
女性の相手を思う気持ちの自然な感触を
あからさまに感じることができて。
バーテンダーの「ちなみ」を演じた細井里佳には
大人の女性のゆとりや包容力のようなものを感じて。
さらには彼女の過去が明らかになっていくなかで、
しらっと見せる女性の生臭さに息を呑む。
そこには舞台の色をすっと塗りかえるようなぞくっとくるインパクトがありました。
「詠子ママ」を演じた中谷真由美のお芝居には
どこか軽い感じの表層に隠された女性としての達観や芯の部分が、
自然体で織り込まれていて、上手いなぁと思う。
なんだかんだ言っても店を束ねる力が裏地に縫い込まれているようなお芝居が、
物語の枠組みをしっかりと支えて。

役者が様々に描き出すキャラクターの内心に、
それぞれにニュアンスの異なった観る側を踏み込ませる奥行きあることに感嘆。
初日ということで、
ほんの少しだけ舞台の密度がバラけるような部分もありましたが
それは、回を重ねる中で
逆にリアリティを創り出していく武器になるような気もして。

役者たちから伝わってくるものはもちろんのこと、
それらをしたたかに組み上げていく
作り手の才能に改めて目を見張ったことでした。

*** ***

余談というわけでもないのですが、
帰りの電車、吊るしの雑誌広告に今回の大震災の写真があって、
ふっと
3月11日以前には、きっとガレキの街に
今観てきたような光景が日々繰り返されていたお店が
いくつもあったことに気づく。

お芝居の世界の実存感やボリューム感に、
ふっと失われたものの重さがリンクして
暫く呆然としてしまいました。

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コメント

とても素敵なブログですね!

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投稿: レーシックオペドットコム | 2011/05/07 17:46

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