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ウィルチンソン「TRUST/UN」TRUST」枠を超えた表現で枠を作る

2011年5月11日ソワレにてウィルチンソン本公演、「TRUST/UNTRUST]を観ました。

場所は渋谷のギャラリールデコ4、
物語がもつテイストや絵画などを組み込まれた
表現の独特の肌触りに
すっかりとりこまれてしまいました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

企画/製作・脚本:ウィルチンソン
総合演出:矢口龍汰

この公演、開場時間が開演の1時間前。
時間どおりには行けなかったのですが、
通常より長い開演待ちの時間を
場内で過ごすことができて。

舞台に当たる部分の奥側などに
山ほどの肖像画がかけられている。
自由に歩き回って観てもよいとのことだったので
一枚一枚を眺めていったのですが
それらの一枚ずつに個性があって。
こちらが絵の中の表情時に入り込むと
観る角度や距離によって、いろんな風に語りかけてきてくれる。
まるで生身の人間のように
デフォルメされた表情が創り出す立体感を
舞台や客席に向けている。

その絵たちの前でお芝居が始まります。
タイトルの通り、「走れメロス」を土台にしたTRUSTの世界と
「人間失格」を母体にしたUNTRUSTの世界が
舞台に表されていきます。

ふたつの世界とも
原作に極めて忠実というわけではないのですが、
でも作品の骨格や、なによりも色合いがしたたかに
醸し出されていく。
片方の物語が進む間、
もうひとつの物語を構成する役者がすべて舞台からはけるわけではなく
そのまま止まった物語の位置でフリーズして。
信頼や友情をあからさまにした「走れメロス」は
メロスの理想が前面に押し出されて描かれていくし、
一方で「人間失格」の世界には
人間の弱さやずるさがしなやかに織り込まれていく。
二つの物語が、
交互に織り込まれて重なっていくうちに、
やがて、自然な流れで
それぞれが物語が同時にも動いて
舞台上としての一つの世界へと積み上がっていきます。
そこに現出するものは
掲げられた肖像画たちの視線をも外枠にとりこんで
観る側は太宰の脳裏の移ろいを
俯瞰をしているような感覚にとらわれてしまう。

あざといというか表層的な表現、
たとえば、メロスの朋友、セリヌンティウスの
どこか能天気にすら思える信頼のうなずきや
「人間失格」を演じる役者たちの衣裳に書かれた
心情のあけすけな表し方も
薄っぺらい質感にとどめ置かれず
しっかりと奥行きを創り出す力に変わっていきます。
お芝居のボディを
役者たちそれぞれの個性と演技が支えていく。
空間全体で描き出されていく
太宰治の感覚が
観る側に実存感を持って伝わってくるのです。
単純にお芝居に取り込まれるのではなく
様々な表現の質感に浸る中でやってくる
複数の感覚に太宰治の思考のリアリティを感じる。

当パンなどによると
「つくったものを、つくったあとで、今度はこわす」
ということらしいのですが、
観る側にとっては「こわす」印象がほとんどなくて、
演劇やそこから踏み出したパフォーマンス、
さらには絵画などもしたたかにとりこんで、
空間に造形を施して見せてもらった感じ。

初日の客出しに空気が解けた場内でも
さらに内向的につづくダンボール箱のパフォーマンスが
しっかりと機能していて・・・。
劇場を後にする一瞬前ににそのことに気づいてぞくっとくる。
舞台上にとどまらない表現たちからやってくるものが
劇場を出ても暫く抜けていきませんでした。

出演:五ノ井宇(人体連盟) 小針まみ(ニャンニャン★シコリータ) 加藤岳史(国分寺大人倶楽部) ひょい 金澤舞(しもっかれ!) 小林光(江古田のガールズ) 大川大輔(しもっかれ!)堀田創 吉武奈朋美 氏家康介(はちみつシアター)島田真吾(劇団あんかけフラミンゴ)

役者たちの個性もこの舞台の大きな魅力になっていたと思います。
個々のお芝居に色がしっかりと保たれていることが、
舞台の空気からある種の澱みを消していて
二律背反のような太宰の思考にクリアな絵姿を与えていたように思う。

この舞台、
回を重ねるに従って
さらに心模様が細部まで感じられる舞台となるような予感もあって。

作り手の今後の作品にも、
期待が膨らむ作品でありました

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