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Covent Garden Club「雪下生華店」幽霊の実存を支える力

2011年4月16日マチネにてCovent Garden Club「雪下生華店」を観ました。

会場は中目黒のレンタルスペースさくら。目黒川のそばに立つ細長いスペース。
川沿いの桜は満開を少し過ぎ、それでも葉桜の風情がまた美しく・・・。
会場の前を、犬を連れた親子や、お散歩をする夫婦連れが通り過ぎる、生活とお洒落な空気が素敵に同居した場所。

そのスペースでの、ゆるやかに深く心惹かれる物語を堪能しました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出:北村勢吉

ほぼガラス張りのスペース。扉も大きく開かれて、外気がゆるやかに会場も満たして。
公演はワンドリンク付きのシステム。
べたな言い方ですが素敵なスペース。
アイスティを飲みながら、和んだ気持ちで開演を待ちます。

開演時間の15分前からDRIED BONITOのライブが始まる。
熟達したボーカルと研ぎ澄まされたギターには
洗練と耳触りのよさが同居していて
それが会場の雰囲気をさらに豊かにする。
たとえばグラスの氷が揺れる音とも相性の良いおしゃれさがあって。
観劇に来たことも忘れて耳を傾けてしまう。
(終演後CDを買ってしまったほど心地よくキャッチーな音楽でした)

そのライブが終わるころ、ふっと気が付けば
場内には一人の女性が会場現れていて。
彼女の存在に目を奪われるなか
観客はそのまま物語に導かれていきます。

前半はどこかコミカル。
場をそのまま取り込んだ喫茶店の女性オーナ椿と
北海道から戻ってきたという常連客のカメラマン竹田の会話がべたでポップ。
冒頭の女性が幽霊で、
しかも彼女が話すことはそのカメラマンにしか見えないことがまず明かされて。
さらに一冊の絵本が読まれることで
少しずつ幽霊の女性が抱えたものがその場に現れていく。

物語はゆっくりと広がっていきます。
いくつものトリガーが焦ることなく丁寧に織り込まれていく。
最初に絵本を朗読するときの過度な下手ぶりは少しだけ気になったものの、
そこに幽霊の心に浮かぶ歌が低くかさなり、花の香りの存在が示唆されて行く中で、
空気が少しずつ色を帯び、会場全体に常ならぬ世界の実存感が育まれる。
それらが十分にいきわたったころ、椿の父親の幽霊が普通に登場し
展開にさらなる踏み込みを与えていくのです。

俗に言う「映像的」な構成ではあるとは思う。
シーンの作り方もどこかシンプルでくっきりと見えて
しかも一つずつのシーンにあざとい膨らみや飛躍がない。
物語の積みあがりはとてもゆるやかなのですが
それが舞台上の澱みになることなく、
幽霊たちが時間を跨ぐ力や繋がっていくものの奥行に変わっていきます。
絵本が読み進まれるなか
場の空気の比重がかつて幽霊が生を受けていた時代に移り、
舞台にメロディーを重ねていた歌い手までが
物語の絵面としてとりこまれて・・・。
彼女の記憶は、失恋への傷心をそのままにして完全に解ける。

幽霊の淡々とした想いに色が宿る。
嫉妬の姿に命ある女性の生々しさが戻る。

でも、物語にはもう少しだけ先があって、
その嫉妬の誤解も解かれることになります。
彼女が心を寄せた髪結いが現れて・・・。

その先の、髪結いと彼女のシーンは
お芝居のなかでも一番演劇的だったかも。
男性が観ても、役者たちの醸し出す雰囲気から、
髪を梳かれ、束ねられ、飾られていく感触を
しなやかに感じることができる。
無機質な質感を持った幽霊の彼女が、
その美しさを生身の女性に纏う感覚は
観る側がその場の空気に浸っているからこそ
感じることができるものだと思うのです。

役者のこと、幽霊を演じた外山弥生には幽霊を貫く底力がありました。
MUの「変な穴(女)」を観た時にも
作品の秀逸さを照らし出すようなキャラクターの色の揺らぎのなさに
強く惹かれたのですが、
今回は幽霊としてのぶれない存在感や安定感や物語の広がりまでを
担うに足りる演技の引き出しの多さというか豊かさにさらに瞠目しました。
一つの作品の中でシームレスにお芝居を変化させていくしなやかさがあって。
竹田に見えて椿に見えないという幽霊の設定を
二人とは異なる視点を醸して貫き、切れ味よく物語の基調を作る一方で、
記憶が少しずつ解けていく部分では、
繊細な揺らぎと色の変化を所作や表情から醸し出していく。
さらに終盤には、嫉妬に捉われた女性の色や髪を飾られるその満ち方を
実存感のある女性の肌合いでしなやかに表現していくのです。
MUの時にも同じことを感じたのですが、この人、凄い。
映像で活躍されることが多い役者さんとのことですが、
舞台でももっと観たいと思う。

椿を演じた中西智深は、
女性が生きる今を竹田や見えない(ことになっている)外山とのお芝居のなかで
くっきりと表現して見せました。
役柄上、ラフというか自由度の高い演技にも見えるのですが
実はとても実直なお芝居をしているのだと思う。
会話の受け方や間がとてもよい役者さんで、
竹田役のカワベコージとの会話の弾み方にも心地よいリズムがあって。

冷静になって考えると
終盤に差しかかるあたりでの、幽霊側の話の展開に心を奪われるような彼女の表情が
タイミング的にはすこし早い気もしたのですが
(登場人物中彼女のロールだけは竹田に聴かなければ
幽霊側で何が起こっているか見えない設定)
観る側が幽霊側のお芝居に浸潤されてしまっていることと、
中西のキャラクターの作り方の確かさで
それが気になることはありませんでした。

竹田を演じたカワベコージ
お芝居のパワーにきちんとキャラクターの繊細さをこめて見せました。
物語が緩んだ時に物語の外に遊び切れないとような
不器用さがあったりもするのですが、
外にも開かれた会場のなかで
狂言回し的な役割を全うしつつ
観る側をお芝居の内側に追い込む力があって。
しかもそれが、ただ無理くりというわけではなく
ロールの心情を紡ぐなかで演じられていくのです。

青木十三雄は物語を時代を超えた側に引き寄せるような役回りでしたが、
登場から物語のペースにしっかりと乗って
物語をラストまで曳航して見せました。
存在感の出し入れがしたたかで、
それまでに語られた物語を過不足なく(褒め言葉です)受け取り
お芝居につなげていく。

三浦ユークは幽霊が恋に落ちるに足りる雰囲気を
所作の端々から滴らせて・・・。
髪を結いあげていく時の所作や表情がとても良い。
あちこちのテーブルに何気におかれていた髪飾りのパーツとなる草花を
ピックアップしていくなかに
その女性の信頼に足りる美のセンスがちゃんと醸し出されていて。

ふたたびDRIED BONITOの演奏の中終演。
観終わって甘さとビターな感覚がもたれることなく残る。

このお芝居、初日のマチネということで
まだ、育っていく余白はあると思うのですが、
会場に入った時には予想もしなかった
深い余韻に包まれた終幕でありました。

*** *** ***

ちょっと余談ですが、このお芝居は会場の外の雰囲気がとても影響する環境での公演でありまして・・・。
なにせ外の空気が普通に入ってくるし、ジョギングする人の足音や通り過ぎる子供の声などもやってくる。
お天気の変化も観客には手に取るようにわかる・・・。

で、私が観た回にはびっくりするような奇跡がおこりました。
お芝居の中ごろから、
それまでは気持ちよく晴れていた空の一部に暗雲が立ち込め始め
幽霊の記憶が解けだすシーンから風が彼女に吹き、
その袖やスカートを揺らし始める。
観ていて最初は凄い仕掛けだなと思ったのですが
これは天なせる技で・・・。
やがて彼女が記憶を取り戻したころ外は雨が降り出して・・・。
しかもさらには誤解が解けて
その髪が美しい草花に彩られるころには
再び日差しが戻ってきて。

照明などの変化による演出のない舞台だったのですが、
そんなことが素足で逃げ出すような
お天気の変化にぞくっときた。

もしかしたら、演劇の神様って本当にいて、
良い舞台をさりげなく支えているのかもしれない・・・。
マジでそんなことを想像してしまう出来事でありました。

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