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エビス駅前バープロデュース「したごごろ」グラスを忘れて芝居に見入る

2011年3月1日ソワレ(21時)にてエビス駅前バープロデュース、「したごころ」を観ました。

会場は、恵比寿駅から歩いて数分のバー。
ワンドリンク制の料金になっていて、
カウンターでお酒(ソフトドリンクもあり)を頼んで壁側の席に着きます。

ちょっとグラスを傾けながら、お芝居を楽しむという趣向なのでしょうけれど、
このお芝居が面白すぎる。(褒め言葉です)

グラスの存在などあっという間に忘れて、お芝居に見入ってしまいました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

脚本:米内山陽子
演出:広瀬格

出演:蒻崎今日子(JACROW)/山﨑雅志(ホチキス)/伊丹孝利(宇宙食堂)/鈴木麻美
出演:田中千佳子/和田亮一(エムチキビート)/中村倫子/金川周平(東京オレンジ)

舞台はバーカウンターと
その前のスツール席周辺。
これほどリアルな舞台設定はないわけで、
女性のバーテンダーの存在に
そのまま導かれて物語に浸されていきます。

ルーズにつながる会話劇の連作の態での1時間強、
それぞれの男女関係が
けっこう大人の味で、
後味に甘ったるさがないのがよい。

創り手が、
男女の関係を切り取るやりかたが、
単純にあるがままを描写したり
その質感を醸し出したりといったのとは
一味違っていて、
個々の関係がすっと一皮よけいにめくられている感じ。

まずは
強がったりいきがっている男の薄っぺらさの向こうに
それを上手に掌にのせている女性のしたたかさが
見えるという構図にしっかりと捉えられる。
令嬢とホストの関係にしても、結婚詐欺の間柄にしても
金貸しと債務者の関係にしても・・・、
第一印象とは裏腹に
女性の方が一枚上だったり、大人だったり。

その部分だけでも、
通常の劇場で演じて
陳腐化したり白けたりすることはないであろう
切れ味を持った内容なのですが、
リアルなバーカウンターで演じられ、
カウンターごしの女性バーテンダーがからむことで、
その関係の基準線がさらに引きなおされると
今度は女性側の想いの生々しさや頑迷さのようなものが
浮かび上がってくる。
道化や狂言回しを担うにとどまらない
観る側の感覚をなにげに後押しするような突っ込みが
バーカウンタの向こうからやってきて
物語の見え方がさらに広がり
男と女の距離のありようや、
感覚の相違、
そして二人の間にあるものの機微が
鮮やかに伝わってくるのです。

登場人物たちを組み込んで創りだす
物語のつなぎもしたたか。
ラストのバーカウンターの内側のエピソードも
さりげなく秀逸で、
それまでの物語たちの余韻をそのままに、
お酒の美味しさが損なわれない終わり方にも
単に刹那の切り口のシャープさ見せつけるるだけではない
創り手の棟梁的な作品の組み上げ力を感じたり。

バーというのは不思議な場所で・・・。
もし演じられる場所が喫茶店のような場所であれば
これほどまで男女の機微が
骨太には表現できなかったように思う。
あるいは劇場だったら、
なにか別の工夫がないともっと物語が生臭くなったかも・・・。
この雰囲気かだから現出してもあざとくならない
キャラクターたちの本音のようなものを受け取ることが出来たと
感じたことでした。

まあ、それにしても・・・。
会場も本物なら、供されるお酒も本物。
さらにはお芝居も、がっつり作られた本物・・・。
それが何より証拠には、
一時のためにこしらえられた作品ではないが故に
すでにたっぷりと秀逸な作品なのに
さらに満ちる余白を感じたりもして
リピート欲をそそられたり。
そして役者も一級品、
この空間や距離でみる彼らのお芝居は
常ならぬほどにとても贅沢だと思う。

また、開演時間(平日には食事をしたり残業帰りでも間に合う21時の設定あり)も
勤め人にはとてもありがたかったり
小劇場演劇としてはとても長い2週間以上公演期間が設定されていたりもして。
演じる方は大変だと思うのですが、
観客には新しいスタイルで
劇場に足を運ぶよい動機付けになっている気がする。

ほんと、いろんな秀逸がつまった
公演でありました。

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