あひるなんちゃら「さめるお湯」一行ずつおもしろい
2011年2月9日ソワレにてあひるなんちゃら「さめるお湯」を観ました。
場所は下北沢OffOffシアター。
あひるなんちゃらは、ここのところずっと観つづけている劇団のひとつ。
今回の作品でも、その緻密なゆるさに、さらなる進化があって。
あひるワールドをがっつりと楽しむことができました。
(ここからネタばれがあります。充分にご留意ください)
脚本・演出:関村 俊介
出演:黒岩 三佳・根津 茂尚・関村 俊介・異儀田 夏葉・川村 紗也・三瓶 大介・篠本 美帆・永山 智啓・日栄 洋祐 ・堀 靖明
冒頭から、いきなりみかん絡みのネタにやられる。
みかん一個でいきなり常なる感覚をゆすられて・・・。
どこかベクトルの異なる男女の時間がいきなり可笑しく
するっと引き込まれる。
そこから、
キャラクターたちの、
さりげなく、
奇想天外で、
でも、観る側が妙に納得してしまう
個性や違和感に裏打ちされた会話に引きずり込まれていきます。
個々が内包する何かが抜けたりずれたりした感じが
キャラクターどおしの重なりから浮かび上がって
思わず笑いを誘われてしまう。
いろんなひねりや外し、
浅いものや深いもの、
曲がり方や貫き方等々
型にはまらない様々なバリエーションが
それこそ
台詞の一行ごとに織り込まれていて
その可笑しさを増幅していきます。
べたなボケや一発芸でとるような
色が濃かったりインパクトの強い笑いはあまりないのですが、
ずるずると物語が流れる中、
それぞれのキャラクターのベクトルの方向差や
不思議な理をもったモラルハザードや
つっこむ角度のずれが
幾重にも重なって
べたついたり残ったりしない
洗練された笑いへと広がっていくのです。
前述のみかんねたはもちろんのこと、
理不尽とも思える昼食のサッカーボールの見せ方や
舞台で演じられることのない母屋の状況の、
どこか薄っぺらいのに
半歩はみ出したような状況の滑稽さに
囚われてしまう。
さらには、三ツ目のことや同窓会の話にしても
考え落ちのような、
すっと納得することを妨げる絶妙な馴れ合い感で観る側を
繋ぎとめていきます。
それらを演じる役者達にも
しなやかで腰の据わった安定感があって、
観る側をそらさない。
台詞が交わされ、間が作られ、
キャラクターたちの感情がすっと浮かび
観る側の予想を裏切るように場が転んでいく。、
その一歩ずつがいちいち可笑しくて
ひとつのパターンでなく色々な感覚で笑ってしまう。
暗転を使わず、
シーンの遷移や時間の経過を音楽でつなぐやりかたも、
旨いと思う。、
場面転換が時間の流れを洒脱に含みこんで、
ひとつの場の風味が滅失しないで
次のシーンに受け継がれていきます。
いろんな滑稽さが、
ゆっくりと絡まって
一層の舞台の空気へと育まれていく。
突き抜けた流れの中での、
不思議にあざとさのない相乗効果から
場にさらなる積み上がりが生まれて。
そこから醸し出される物が観る側を取り込んでいるから、
舞台のふくらみが思わずはみ出して
台本世界の外側に勇み足をしたり、
劇場外からかすかに聞こえる電車の音が
小田急として素のままドラマに混ざってしまっても、
それらが姑息さにならず
舞台の広がりの豊かさとして
さらに、もっと、観る側を巻き込んでいくのです。
なんだろ、終わってみれば今回の作品、
テイストはもちろん「あひるなんちゃら」なのですが
いつもを凌駕した
暖まり感やおかしさのボリューム感があって。
緻密にコントロールされた舞台からかもし出されたものが
いつもの「あひるなんちゃら」より
がっつり増量で、
より満たされ感がありました。
これまでのあひるなんちゃらの作品たちには
すでに高い完成度を感じていたのに
もうワンステップ歩みを進めた密度に
さらなる境地を見せられて。
作風が変わったわけでもないのです。
でも、あひるワールドはちゃんと水を掻いて前にすすんでいる・・・。
よしんば過去と同じテイストがベースにあったとしても、
作り手が留まることなく前に進んでいる作品は
観ていて飽きないのです。
すでに、毎回観たい劇団であるのに
もっと次の公演も観たい思いにとらわれたことでした。
ほんと、たっぷりと楽しませていただきました。
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