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ミナモザ「エモーショナルレイバー」、構造を描き切る力をベースにして

2010年1月20日ソワレにてミナモザ「エモシーショナルレイバーを観ました。場所は三軒茶屋、シアタートラム。

劇団としては再演作品ということですが、私は初見。

事象を描く作者の力量に目を見張り、その先に表されるものに息を呑みました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出 : 瀬戸山美咲

出演   : 宮川珈琲 井上カオリ(椿組) 中田顕史郎 印宮伸二(劇団神馬) ハマカワフミエ 林剛央(本田ライダーズ) 坂本健一 小西耕一 柳沼大地 斉藤淳

劇団としては再演だそうですが、私は初見でした。

物語はマンション風の事務所の一室、
場内に入って、舞台のなんとも言えない閉塞感にびっくり。
美術がしっかりと機能して、広いトラムの舞台から開放感が剥ぎ取られていて。

女性のモノローグ調の会話から始まる物語・・・。
その場所は振りこめ詐欺の組織の事務所。
まるで販売会社の営業所のような雰囲気で
詐欺が行われていきます。

売上といった用語から
システム化された彼らの世界が浮かび上がる。
役割分担、ノルマ、さらにはロールプレイングの手法から
極めて組織化された振りこめ詐欺の構造が描かれていく。

その中での仲間どおしの距離感、
リーダーの組織のコントロールの仕方や
モチベーションの上げ方。
さらに、出し子と呼ばれる組織のリーダーの視点が加わって
物語にふくらみと実存感を作り上げていく。

その描写の力には
舞台上の非合法の世界を、
どこかありふれた光景のごとく感じさせる力があって。
不思議な当り前さが
すっと観る側にまで入り込んできます。

日常の感覚と
犯罪にかかわる彼らが構造的に持つ不安定さの狭間に
冒頭の、内側にある唯一の女性と
出し子が連れてきたエンジェルという
その場所に置かれながらその世界と乖離した女性が置かれて・・。
二人の女性や出し子の男性などがさらなるに奥行きを作る中
それぞれの武器をかざして
個々撃破のように戦い続ける男たちの姿が
浮かび上がってくるのです。

彼ら自身がそこを居場所にする背景や
犯罪に対して無感覚になっていく構造までが
ひとつひとつ、
観る側に精緻に届けられていく。

でも、
それだけでもしっかりと見応えがあるのですが、
この物語にはさらなる踏み込みがあるのです。

終盤、そこまでに描かれた男たちの質感を背景に
二人の女性たちの抱くものが鮮やかに浮かび上がる。
男たちの絵面におかれていたた女性たちの立ち位置が逆転すると
男たちの姿との対比のように
彼女たちが顕すものが目をむくほどに鮮やかに観る側に伝わってきます。

化粧っけのない容姿で
男たちの組織に入り込んでいた女性からこぼれる母性と
満艦飾で、個々の男性と関係しながらも
組織のロジックに巻き込まれることのなかった女性の「女らしさ」。
ふっと物語の外側に歩み出た二人のシーンに目を見張る。
両極に描かれた二人の女性が
終盤に交わす会話から
まるで二つに割られて中味を示されたように
男にはわかりえないような
女性の内心がさらけ出されて。

それは、演劇としてとても良い意味で、生臭くさえ思える。
男たちの世界がしっかりと描かれているから
その対比として表現される
女性が本質的に内包するものたちの普遍性、
さらには、
女らしさの産物が母性に受け渡されていく感覚までも
エッジを丸められることなく
くっきりと伝わってくる。

冒頭の女性の台詞が回収され、
物語が一つにつながって・・・。
劇場を出ても、焼きつけられるようにやってきた
「女性」の質感が消えない・・・。
社会的な事象を切るとる秀逸にとどまらず、
その手腕をさらなる武器として
ジェンダーを鮮やかに表現していく作り手の力量に愕然。

役者たちや美術の秀逸と合わせて
ただただ、瞠目したことでした

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