ムシラセ「甘神」洗練にひそむ生々しさ
2010年12月3日、ムシラセ「甘神」を観ました。会場はシアターサンモール。
ある種の洗練を感じる舞台、スタイリッシュな表現に浮かび上がる主人公のリアリティに取り込まれてしまいました。
(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください。)
脚本・演出 : 保坂萌
会場に入ると
いつもとは違う雰囲気のサンモールスタジオ。
舞台美術の美しさにまず目が行く。
開演するとブランクの舞台、
そこに二人の女性が偲びこんでくるところから
物語が始まります。
そのうちの一人が連絡の取れない彼氏を追いかける。
そして彼を見つけたところはマルチ商法の世界。
流れの中に折り込まれた
女性の心情にぶれがないので
観る側が物語の展開に戸惑うことがない。
女性が事実を知るに従って
すりガラスのような質感を持った舞台が
次第に透明度を持ち、
彼氏に引き込まれる態でその世界に入り込んでいく
女性から見えるものが明確に観る側に伝わっていきます。
光を持った舞台の絵面が本当にきれい。
衣裳の美しさにもストレートに惹かれる。
ファッションショーのように展開していく
役者たちの動きが
観る側の目をすっとさらっていく。
その輝きは砂糖のマルチ商法が放つ蠱惑的な光の
具象化のようにも思えて。
その中で、
マルチ商法に取り込まれていく側の人間の姿が
スタイリッシュさに塗り込められることなく
とても丁寧に重ねられていきます。
舞台上の透き通った感触はさらに研がれ
マルチ商法の光の先にある
影の部分までもさらけ出していく。
舞台の美しさ故に
冒頭の女性の視点から見える
マルチのメンバーたちの姿に
それぞれが抱える
自我やブランクの部分の
あからさまな陰影が浮かび上がっていきます。
終盤、
角砂糖が崩れるようにマルチ商法が終焉を迎える中
女性の視野が彼女自身にフォーカスされて
女性自身の虚を埋めていたマルチ商法の砂糖が流れ出す。
舞台上に貫かれた彼女の内心に
観る側もしっかり巻き込まれているから
砂糖が流れたあとの彼女の虚、
あるいは孤独、
立ちすくむような何もなさが
ファッションショーのまばゆい魅力と同じ力で
歪みなくそのままに伝わってくる。
女性を演じきった役者のぶれのないお芝居に瞠目。
さらには女性の目に映るキャラクターを組み上げた共演者たちにも
リアリティにとどまらず女性が観た色を作り上げる力量を感じて。
マルチが崩壊していくあたりでは、
作り手が舞台の美学を貫きすぎて
わずかに淡々とした質感が強くなりすぎているかなという
印象はありました。
でも、観る側が意識はしないけれど
その質感だから伝わってきたことも
たくさんあるようにも思えて。
ビターな物語ではあるし、
素になって考えれば、
女性もけっこう面倒くさいタイプだったりするのですが、
女性の感覚を無駄なノイズにしない舞台の洗練に
キャラクターが抱える
絶妙な明暗のバランス感が醸し出されて・・・。
時間を忘れて見入ってしまいました。
出演 : 見上寿梨(アトリエダンカン)・松下洋介・塚田まい子・柳田幸則・菊地奈緒・(elePHANTMoon)・加藤貴広・たむらてつろう・大橋明代(エム・スリー)・鴇田智美・高田百合絵(快楽のまばたき)・いちかわあゆみ
こういうスタイルというかテイストの表現には、上手く言えないのですが、事象に対する独特な解像力が存在するような気がして・・・。
今後の作品も楽しみになりました。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント