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DART'S 「The Lifemaker」 半歩凌駕して観客を引き込む

12月7日、渋谷Le Deco5にてDART’S 「The Lifemaker」を観ました。前作「In The Playroom」を観て本当に楽しみにしていた作品。

期待にたがわぬ出色の出来に大満足の観劇となりました。

(ここから ネタばれがあります。十分にご留意ください)

原作(!):桐野範容 翻案・演出:広瀬格

初日観劇。
会場の三方に座席が並べられ、中央には大きなテーブル。

一冊の本から始まる、観る側を物語に閉じ込めるための
しなやかな導入部にすっと乗せられて。
そのまま舞台の世界に吸い込まれてしまいます。

プロジェクトの世界の構造やルールが
観る側にも体感的に明らかになっていく・・・。
舞台と両側の客席の空気が一体化して
空間全体が舞台に置かれた(!)世界に重なっていきます。

時間の刻まれ方の透明さをもった感触がすごくよい。
役者達がそれぞれに舞台に投影する
キャラクターたちの姿が
高い解像度に支えられて本当に豊か。
組み込まれた社会の摂理が
さらに深くその世界のリアリティを作り上げていく。

舞台上で組み上げらた世界に
観客を巻き込むに十分な強度があって
それゆえ、次第に机上の世界から垣間見えてくる
外側の世界も観る側に違和感なく伝わってくる。
ぞくっとくるほど淡々と組み込まれていく事実。
そのたびにしなやかに変化していく
眼前の舞台の密度や色に
観る側までがぐいぐいと追い込まれていきます。
漫然と観て理解するには
半歩ほど複雑すぎる物語の展開が
観る側をのめりこませ
目を見開かせる力に変わっていくのです。

なんというか
舞台に挑まれているような感じすらして・・・。
前のめりになって、
息をつめて。

ト書きのごとく事実を告げる
アシスタントのアナウンスの耳触りのよく無感情なトーンが
着実に観る側を物語に押し込んでいきます。 
なにせ舞台空間と客席のボーダーすらあいまいなルデコ5F・・・、
物語がしっかりしている上にキャラクターたちの感情や息遣いまでも役者から直撃で、
常ならぬ力感が舞台を覆い
観る側を取り込んでいく。

やがて走り抜けて、伏線も鮮やかに回収されて、
全てが観る側に開示されて・・・。
物語は冒頭のシーンに結ばれて終幕します。
精神的な疾走感がほどけて、息をついて。
舞台のコンテンツそのままに、
徹夜して一冊の本を読み終えたような
高揚と充足感に満たされて・・・。

役者の出来もほんとによかったです。キャラクタ―の個性がそれぞれに潜行し、滲み、ほとばしる。

山本佳希にはキャラクターの底浅い部分をしっかり伏線にまで昇華させる繊細さがありました。辻修が醸し出す色には強く濃厚な個性があって舞台の流れにテンションと重さを与えます。國重直也のお芝居にはキャラクターの地の太さをしっかりと表現するパワーと安定感を感じる。島田雅之が編み上げるキャラクターの軽重や陰陽が舞台のふくらみをうまく誘いだしていきます。

板倉チヒロのお芝居には絶妙な華と勢いがあって。高揚感だけでなく沈み込んだ部分の表現でも舞台の疾走感を支えていく。メリハリの強さに加えて、ボトムから一歩踏み出すような力感にも目を奪われる。長谷川太郎が醸し出す弱さにはステレオタイプにならないナチュラルさがあって、舞台上の人間関係に不思議なリアリティを作りだしていきます。

菊地明香には強さと弱さ、あるいは理性と感情をひとつのものとして表現するようなしなやかさがありました。一人の女性のいくつもの側面を乖離せずにひとつのキャラクターとして織り上げていくような底力が観る側を惹き付ける。川田希には物語のキー的な部分を支え動かす、ぞくっとくるような存在感とメリハリがありました。台詞にとどまらず舞台上の仕草や表情で物語の内外をつなぐその表現力に舌を巻く。

片桐はづきは献身的なお芝居で舞台にキャラクターのトーンを貫いて見せました。事実を告げる声や仕草に他のキャラクターたちのお芝居の色に染まらない無機質の肌合いがあって。よしんば舞台上が坩堝のようになっていても、独特の質感を保ちその世界の基準線を描いていく感じが揺るがない。

初日ということで、舞台上に微妙なぎくしゃくがなかったわけではないのですが、
そんなことも全く気にならないほどに
舞台の勢いとその裏側に作りこまれた
演技たちの密度に捉えられて。
もちろん、この作品単独でも十分楽しめるとは思うのですが、
前作を体験したものとしては
作品間のルーズなつながりからやってくる物語の広がりにも心を奪われる。

べたな言い方ですが、本当に面白かったです。

個人的にも、できればもう一度観たいのですけれどねぇ・・・。
座席の位置によって見えるものがかなり違う気もするし。
物語自体にも一度で食べ尽くせないような深さを感じたり。

いずれにしても、時間の感覚を忘れて
のめりこめる舞台・・・。
小劇場の舞台としては比較的長い公演期間でもあり、お勧めの一品です。

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