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マームとジプシー「ハロースクール、バイバイ」機微を描く立体感の圧倒

2010年11月24日、マームとジプシー「ハロースクール、バイバイ」を観ました。会場は池袋シアターグリーンベースシアター。

出色の舞台。その世界にしっかりと閉じ込められてしまいました。

(ここからネタばれがあります。上演中の公演でもあり十分にご留意ください。)

初日のソワレを拝見しました。

客入れ時にすでに舞台上では
ユニフォームを来た選手が数人、ストレッチをしている。
ステージ上で表現のシステムが動き出す前に
すでにかもし出された空気があって・・・。

だから、物語の始まりのシーンたちがスムーズに展開していきます。
やや控えめの光の作り方。

中学校の女子バレー部、先輩が抜けた後の部活の様子などが
ランダムと思えるような切り取り方で
舞台上に次々と現れていく。

シーンたちのシームレスな展開に見入る。
やがて、
いくつかのシーンが残像を重ねるように繰り返され
一つになっていきます。
しかも、同じシーンについて観る側の視座を変化させることで
その時間に立体的な厚みがうまれていく。

シーンの時系列も、
最初は記憶の曖昧さを模したように
順番が伝わってこない。
でもシーンのつながりがいくつも浮かび上がり
ゆっくりと流れというかシーン間の因果が生まれて、
その場の空気が
時間をたどるようにして膨らんでいくのです。

たとえばカツサンドの匂い(悪臭)や
ひとりでのマックのこと。
体育館の倉庫の感触や
サッカー部の級友のリフティングにまつわるエピソード。
断片がはめこまれて時間が満ちていく感じ。
バレーボールの練習や合宿、
試合の高揚が
舞台全体をみたす。
一方で
それらの記憶から派生するがごとく
解けるように蘇る場面もあって。

次第に言葉では語ることができないような
さまざまな記憶の密度が醸成されていきます。
重ねられていくシーン達の組み上げは
その場の空気に観る側を包み込むだけではなく
記憶の濃淡までを織り上げていくのです。

ひとつの刹那を醸し上げるために繰り返される
シーン達の精度の作りこみが、実は凄いのだと思う。
シーンのつながりに違和感を感じさせない
役者達の場面を繋ぐ切れに目を瞠る・・。

そうして構築された空気の厚みは
よしんばどこかデフォルメされたような
歌詞の校歌であっても、
浮くことなく、むしろ彩りとして
その場にすいっと引き入れてしまう。

何度か、深くたおやかな空気のなかで、一行分ほどの長さの、
それが春の終わりの出来事だったことをつぶやく台詞が語られて、
とても効果的だと思いました。
バレーボールの試合の記憶も
取り壊されていく級友の家である銭湯も
その台詞の内側に置かれて・・・。
よしんばいくつものシーンが錯綜し、それぞれがしっかりと膨らんでいても
時間がばらけることがない。
台詞が重ねられるとき、
体感的にどこか物憂く、
ちょっと汗臭く、きれいなばかりではない、
いろんな色にビターで、でも少しだけいとおしいその時間が
拡散することなく
すっと記憶の色へと変化して
観る側に置かれていくのです。

終演、そして客電がついても、
舞台上の空気に浸されたまま、
少しの間立ち上がることができませんでした。
べたな言い方ですが、
しっかりと舞台に取り込まれてしまっておりました。

作・演出 : 藤田貴大

出演者:伊野香織・成田亜佑美・萩原綾・河野愛・斎藤章子・緑川史絵・木下有佳理・尾野島慎太郎・波佐谷聡

この作り手が
今後どのような空気を舞台に醸して観る側をとりこんでいくのだろう。

夜風に当たりすっと自分に戻る中で、この劇団や作り手が今後何を観る側に与えてくれるのか、ほんとうに楽しみになりました。

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コメント

りいちろが圧倒するの?

投稿: BlogPetのr-rabi(ららびー) | 2010/12/03 15:12

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