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「ProjectBUNGAKU 太宰治」、企画と創作力の相乗効果

すこし遅くなりましたが、2010年10月2日、ProjectBUNGAKU 太宰治を観てきました。会場は八幡山ワーサルシアター。

太宰治というのは、昔々個人的にちょっと下世話な動機(高校時代に好きだった女子と話を合わせるためにみたいな・・・)で読み漁った作家で、ちょっと複雑な思い入れもあったのですが、今になって読み返してみるとぞくっとくるほどに面白い。

そんな彼の作品を気鋭の4人の演出家にゆだねるというこの企画。

しなやかに料理した4編の作品に時間を忘れて引き込まれてしまいました。

(ここからはネタばれがあります。十分にご留意ください。)

制作総指揮: 松枝佳紀

●Human Lost

翻案・演出:広田淳一

出演:中村早香・佐藤みゆき(こゆび侍)・荒木昌代(THE☆メンチカツ成)・杉亜由子・榊菜津美

 
 客入れの段階から役者の方が居続け・・・。
 場内が観客で満ちるにつれて次第に舞台の空気も密度を持ち始める。

 絵面がきれいな舞台でした。
 下手で物語を書き綴る体にしても
 登場するキャラクターたちの所作にしても・・・。
 原作の淡々とした語り口が生かされて
 そこに狂気の側から見た己のまっとうさと
 外側への違和感が
 ある種の美的なセンスをもって
 違和感なく伝わってきます。
 光と影の使い方もうまいと思った。

 金魚をもつ役者の体の使い方にも目を奪われて・・。
 
 そのしなやかな語り口に
 すっくりと閉じ込められてしまいました。

●燈籠

翻案・演出:吉田小夏

出演:木下祐子、福寿奈央、藤川修二、荒井志郎、井上みなみ(青年団)、芝博文、 田村元、木村望子

 登場人物たちがどこかポップで、
 時代の風景に足をつけながらも
 塗り込められていないのがとてもよくて。
 
 人物それぞれの描写にメリハリがあって
 しかもばらつかずに彼らの個性にしっくりと納まっている。
 役者たちにここ一番での見栄を切るがごとき強さを感じる。
 
 なんだろ、家の雰囲気とか
 家族たちの世間との関わり方とかに
 不思議なヴィヴィドさがあって。
 そこにある空気が、
 主人公のモノローグも、どこか啖呵に近い語り口も
 すっと物語のうちに馴染ませる。

 市井の風情にキャラクター達の存在感がくっきりと浮き立って。
 
 原作の風情をそのままに感じつつ
 原作とは異なるウィットの色合いに
 作り手のもつセンスの秀逸を感じたことでした。

●ヴィヨンの妻

翻案・演出:松枝佳紀

出演:伊藤えみ、竹内勇人、岩見よしまさ、ナカヤマミチコ、青木ナナ、木田友和、辻井拓、花邑沙希、峯尾晶

 繊細で実直な物語の組み上げが
 太宰の描く世界をしなやかに構築していきます。

 他の作品に比べて
 作品の部品をそのままに積み上げていく感じ。
 その分劇場全体を広く使って
 世界観の広さを作り上げていく。

 物語に対する外連は4作のなかで一番少なかったように思います。
 但し、同時に、作り手の感性が深い部分に縫いこまれていて。
 短編とはいえ物語の展開がはっきりしていて
 滲み出てくる色がある。
 
 観終えてその色にしっかりと浸されておりました。

●人間失格

翻案・演出:谷 賢一

出演:コロ(柿喰う客)、東谷英人、大原研二(Theatre劇団子)、小安光海、櫻井竜、菅谷和美(野鳩)、塚越健一、 ハマカワフミエ(国道五十八号戦線)、 三嶋義信、百花亜希、湯舟すぴか(市ヶ谷アウトレットスクウェア)

 一つずつのシーンに
 現れるイメージがくっきりとありました。
 始まってからしばらくは
 物語の流れは刹那散漫な感じすらするのですが
 それが次第に観る側を埋めていくのです。
 個々のシーンに宿る色にぞくっとするほど
 取り込まれる。
 ラフなようで緻密な舞台上の世界観に
 観る側が豊かに引き込まれ縛られていく。

 ジェンダーの異なる役者によって醸し出される雰囲気、
 背景はあいまいで、
 でも具体的なニュアンスをしっかりと持った
 役者たちの醸し出すキャラクターの色。
 濃密だったりどこか突き放したりの
 したたかな空気の醸成の仕方と
 絶妙なばらつき。
 そのままに注ぎ込まれると
 太宰を読んだ時に感じたものと
 不思議に重なる。

 男のもてかたを撚り合わせる質感にもぞくっとくるような質感があり、観る側をしっかりとつかんで。
 
 太宰の小説が、その語り口で観る者を惹きこむように、
 ちょっと魔法のようなリズム感が舞台にあって
 気がつけば太宰の色に
 強く縛られておりました。
 
 **** ****

それにしても、秀逸な企画だと思います。

なんだろ、
単に太宰ワールドを舞台上に具象化するだけでない、
さまざまな創意とそのベクトルの豊かさが
一つの舞台から醸成されていることに
すごく満たされた気がして。

個々の役者がとても眼福だったし
演出家の手腕もひしひしと伝わってきて
観終わってがっつりの充実感はもちろんのこと、
単なる作品にとどまらない+αというか
4つの作品の重なりから訪れる
太宰文学を超えて溢れだすものの瑞々しさに
圧倒される。

でも、そうであっても、観終わって限りなく太宰の世界がそこにあるのが凄い。

また、HPやツイッター、sらにはメディアなども含めた情報の供給の仕方もとてもしたたかでコアな演劇ファン以外の観客を掘り起こす成果もあったとのこと。

PPTの企画もうまく機能していたように思います。私の観た回は永井愛氏のPPTがありましたが、こちらも、聴きごたえがあってべたな言い方だけれど面白かったです。
 
この企画、太宰にとどまることなく
いろんな作家を素材にして観たいと思う・・・。
個人的には、偏っていますが、
尾崎翠や梶井基次郎あたりが
希望。

もっと偏ったところでは倉橋由美子なども魅力的かと・・・。

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コメント

東谷って…なんだろう…?

投稿: BlogPetのr-rabi(ららびー) | 2010/10/22 15:16

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