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ミームの心臓「ヴィジョン」、語り口のしなやかさ

2010年9月6日ソワレにて、ミームの心臓「ヴィジョン」を観ました。場所は神楽坂die pratze。

作・演出も10代、役者も非常に若い座組みでしたが、作り手の物語るバランスには天性の才能が溢れていて・・・。

物語をしっかりと受け取ることができました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出:酒井一途

出演:令奈 / 中田暁良 / 小池惟紀 / 有吉宣人 / 手塚剛 / 毛利悟巳 / 深谷心(月猿人)

ジャンヌダルクの物語が
他の世界と綾織りになったり支えたりする筋立て自体は、
驚くほど斬新なものではない。
でも、その語り口には目を見張るものがありました。

シーン割のバランスがとても良い。
また、シーンをつないでいくやり方も
緩急自在という感じ。
二つの世界のつながりを
夢の世界と現実という座標にしっかりと置いて
早い段階からしっかりと提示をしていくことで
観る側に物語の構造をしっかりと見せる。
だから、ただ学生服で舞台を縦によぎる
それだけのシーンから
少女の内心のリアリティが生まれるし
イメージのしりとりのようなシーンのつなぎが
そのまま舞台全体の広がりにつながる。

役者にも多少の優劣があったり
舞台装置のチープさなど、細かい部分の粗さも気にはなるのですが、
肝になる部分はしっかりと作りこまれていて
物語がぶれない。
舞台の要所がきちんと観る側にやってくるのです。
ジャンヌダルクの物語の既知の部分を
少女の心の動きや想いにしっかりと縫い込む
運針の安定があって、
観る側が負荷なく舞台の流れにのせられていく。

その結末が導かれるまでの
二つの物語の積み上げ方が
しっかりと機能して
物語の収束にもあざとさがなく
少女の抜け出す姿を
しなやかに観る側の高揚につなげて見せました。

作り手のエピソードごとの尺の取り方や
物語の質感を作り上げていく手腕に
天性のなにかがあることを実感。
舞台に加えて当パンなどを読んでも
その構成や伝え方にしなやかさがあって
なおかつ、そのことを受け手に意識させない
したたかさがあって・・。

もちろん、
劇団として身につけるべき手練は
いくつもあるとは思うのですが、
今回の作品を観る限り
この作家が表現する力は
信頼できるような気がするのです。

ただ、作り手が
この先、何を語っていくのかについては
未知数なわけで・・。
概念だけで語り続ければ、
きっと行き詰ってしまうのだろうし、
この先彼が、自らの感性をどのように広げ
その手腕で何を表現しようとするのか・・・。
次回以降の公演で、問われつづけるのだと思います。

どう答えてくれるのか、まずは次の公演がほんとうに楽しみです。

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