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王子落語会1日目 見やすくしっかりのクオリティ。

2010年8月10日、王子小劇場の「王子落語会」を観ました。今回はレギュラーの都んぼ師匠が米紫を襲名して東京初お目見えの会でもあり、とても楽しみにしておりました。

会場はほどよく年代のばらけたいろんなお客様で良い雰囲気。下座のお囃子もなにか冴え冴えとしています。

時間通りに開演・・・。

*立川こはる 「真田小僧」

以前、大銀座落語祭の時にも前座で出られているのを観ていて、当時から高座のメリハリに注目しておりました。今回もネタは同じ「真田小僧」で再見することができました。

当時と比べて、特に間の取り方の腕が一段と上がった印象。まだ、本当に0.5呼吸が待ちきれない部分は数か所あったものの、不安定さはもう全くない高座。それどころか、第2話(笑)から第3話にかかるあたりでは観る側をしなやかに前に引き寄せるようなグルーブ感も生まれていて。2年ぶりに聴いて演者の噺の足腰が確実に鍛えられていることを実感。

まだ、前座の方ですから、なかなかいろんな噺を聴くなんてわけにもいかないのですが、この人が廓噺や人情話を覚えると、他に類を見ないような独自の芸風が育っていくような気がします。

初めて観た時にも感じましたが、ジェンダーが障害にならないタイプの女流噺家さんであり、むしろそれをびっくりするような強みにできる資質を感じたことでした。

*瀧川鯉橋 「だくだく」

上方では「書割盗人」という噺で、こちらは何度か聴いたことがありますが、江戸前の噺としては以前に一度テレビで観たことがあるだけ。名前だけではなく、絵の描き方なども東西で若干違うみたいですね。

初見の鯉橋さんはなめらかで落ち着いた語り口。奇をてらわないその芸風は、噺そのものの面白さとまっすぐに向き合っている感じがします。師匠譲りのきめの細かさが場内全体をその場所にゆっくりと染め変えていく。

絵を描く仕込みがしっかりしているから、盗人が入ってからも確実に笑いがやってくる。ぶれなっく、不出来なことも少なく、コンスタントにしなやかな高座の質を作りあげるだけの実力を感じます。

ただ、ここまでの世界が作られているのだから、もう少し遊び心があってもよいかなとは思ったり。なんだろ、ゆとりが噺の中におさまっているように思えるのです。ちょっとけれんが効いた部分やはみ出し感があっても、悪くはないかなと。密度が作れるだけに、その中で噺をまとめて小さくしてしまうのではなくもっと噺を崩してもいけるように想う。特に「だくだく」のような噺ではそういう遊びからひろがるものがあるようにも思えるのです。。

(中入り)

*桂米紫(都んぼ改メ)「厩火事」

先週米紫を襲名したばかりの師匠の東京初高座。その名前だけではなく、高座の質もがっつり磨きあげられておりました。

確か何年か前にYEBISU亭で初めて師匠を観た時には、噺の勢いがノイズを一緒に連れてきたような感じがあったのですが、特にこの一年ぐらいはその辺りのぶれがなくなって噺がすっと一本で伝わってくるようになって・・。

加えて、噺に師匠独自の風合いが生まれてきたような気がする。特に女性の描き方が良くて・・。落語の世界からすっと浮き出る様に、女性心理の機微が観る側に伝わってくる。話を聴く男が感じる面倒くささを、そのまま大きな笑いに変えることができるのも、その女性の描き方がステレオタイプでなく、きちんとそこに「女性」の個性が描かれているからだと思うのです。

しっかりとコントロールされた噺のスピードには、観る側をそのまま持っていくだけの力が織り込まれていて。艶の出し方やメリハリのつけ方も絶妙。だんなを悪く言われて、すっと色を変える女性の雰囲気から、ぞくっとくるようなの想いがこぼれて目を見張る。

これだけのクオリティを持っても、噺家として固まった器というわけでなくさらに押し広げられていきそうな資質の柔らかさを感じさせてくれるところがまた魅力。今回のような噺を聴いていると、無理に気負うのではなく、平常心のままで、さらにもうひと化けもふた化けもしてくれそうな気がする。襲名が終点ではなく、始まりだと感じさせてくれる勢いが良い。

観客に次も観たいと思わせる、噺家の資質がしっかりと盛られた高座でありました。

*瀧川鯉昇 「茶の湯」

相変わらずがうれしい鯉昇師匠の高座。冒頭、一瞬だんまりをきめこんで、それだけで空気が生まれる。たっぷりの間と語り口からやってくる浮遊感のようなものが、いつものごとく何ともいえず良いのです。

その軽い質感から繰り出される落し話のデフォルメが、枕から観客を常ならぬ世界へどんどんと引き込んでいく。

噺にはいると、とっかかりを耳触りよく語り、場全体を根岸の隠居所の風情へと導いていきます。淡々と語られるご隠居の火のおこし方から茶の入れ方のすさまじさ。椋の皮のかわりにママレモンが登場する脚色は、落語に馴染みがないお客様への配慮でしょうか。店子3軒の顛末を軽めにして若干笑いどころは絞られていても、噺としてのボリューム感は十分にあって、しっかりとした肉厚の面白さが高座からやってくる。。

トーンを貫かれることでの安心感が、話が持つ狂気を観客に馴染ませてくれるのです。

単に師匠自身の高座にとどまらず、米紫師匠とともに中入り後の会自体の充実感をもがっつりと作り上げて・・・。

鯉昇ワールドを満喫することができました。

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この会、役者割引があったり、地域のスタンプカードを集めたもので入場できたりと劇場と落語のすそ野を広げる工夫がいろいろとされているそう。その作り手の意図を感じることができる会でもありました。

二日目の今日(11日)は立川左談次師匠のご出演とか・・・。ちょっと別な用件があって私は残念ながらいけないのですが、でも、とてもとっつきやすい会で落語に馴染みがない方々にも是非にお勧め。

そもそも、落語っていうのは演劇的な要素が多分にあるわけで、王子小劇場で会をやるということにいろんな意味で違和感がないし、この会には落語を好きにさせるような雰囲気というか親しみやすさがあるのです。

木戸銭は2000円。小劇場の役者の方は申告すれば1000円になるそうな。落語好きにも満足できるクオリティだし、落語初心者の方や演劇関係者の方には、落語を親しい表現としてとらえるきっかけになりそう。

是非にお勧めかと思います。

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コメント

りいちろが話したの?

投稿: BlogPetのr-rabi(ららびー) | 2010/08/12 15:22

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