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東京ネジ「きみどりさん」馴染むとひろがる

2010年7月28日ソワレにて東京ネジ「きみどりさん」を観ました。場所は下北沢オフオフシアター。劇団としての本公演は2年ぶりの公演だそうです。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

脚本 : 佐々木なふみ

演出 : 佐々木香与子

きみどりさんはもちろんのこと、登場人物それぞれの個性がくっきりと描きこまれていて・・。そのあけすけとも思える表現に最初はむしろすこし戸惑う。でも、振り返ればそのあけすけさこそが、家族の雰囲気を強くしなやかに観る側に刷り込んでくれるのです。

ジングルのように差し込まれるタイトルコールはまるで、作り手の記憶の看板のよう。今を起点にミルフィーユのように重ねられていく時間たち・・・。

家族を外から眺めるのではなく、家族の内側に視座を置いて描き出されるその世界は、ときには露骨だったり、さらけ出されていたりもする。でも、それが表現されなければきっと観る側にとっての本当にならないそれぞれが背負うものや想いがあって・・・。

きれいなばかりではないし、ごつごつもしているのですが、観る側は、そのなかでまだらに露出した、隠されることのないコアの色にこそ浸潤されていくのです。

あるがままにいるきみどりさんの抜群の存在感が、物語の中心となり観る側をしっかりと引っ張っていきます。ばらばらに見える家族のそれぞれのベクトルが、重なりあいぶつかり合いながらも、あるがままに受け入れらていく姿が、家族の実存感を作り出していく。理不尽とまでは言わなくても、常ならぬものを、そこにあるものとして受け入れていく家族それぞれの姿に観る側までがすっと染められて・・・。その感覚は、やがて下世話で上質なウィットへと昇華していくのです。

心惹かれるシーンがたくさんありました。

両親のプロポーズのシーンに目をうばわれて・・・、お互いの距離感と思う気持ちに心がほっこりしてしまう。加えて破り捨てられる一枚の紙から伝わってくる、その人にゆだねるものと、その人を受け入れる想いのリアリティに息を呑む・・・。

異父兄弟の末っ子が育っていく姿にも、それぞれが互いに色を染め合う家族の姿がすっと膨らんで。二女がきみどりさんみたいな性格というのもなにかわかるような気がしたり。

クリームソーダのエピソードはペーソスを感じるほどに滑稽にも思えるのですが、でも、そこからきみどりさんの薫り立つような横顔がふわっと現れる。彼女のうちにあるお洒落の感覚を注がれて、彼女の人生が二次元の戯画から三次元へと膨らんだようにも思えたり。

ラストシーン・・・、あのころの土曜日の夜に記憶が収束していくのですが、でもそれは、最終回の「終わり」ではなく、次週もお楽しみにの「終わり」にも思えて、きみどりさんのテレビから流れるその番組のように、次の回がやってくれば、きみどりさんのジングルのとともに記憶が巡りだす気がして。

役者のこと、きみどりさんを演じた佐々木富貴子は強い色を作ってその個性をしっかりと観る側に印象付けました。母親役の久保亜津子はキャラクターの母親である部分に加えて女性としてのビビッドな部分もきちんと描かいて見せました。きみどりさんを含めて守るべき家を背負う女性を豊かに演じて見せる。ゆったりとしているのに個々一番ではくっきりと観る側に入り込んでくるお芝居に引き込まれました。夫役の小林至がまた良い味なのですよ。大人の風情で少年少女の心を秘めた二人のお芝居を観ているだけでそれはもう眼福なのです。

長女を演じた吉田真琴は、どこかかたくなな雰囲気と漫画家の内向的な部分を丁寧に作り上げました。その婚約者の寺部智英も、長女を支える男性としてのお芝居をゆとりを持って演じる。二面由希も堅実なお芝居で、外から見た家庭の姿を観客に伝える目なっていました。両角葉も派手さはないのですが、きみどりさんの質感をうまく引き出していて・・・。佐々木香与子も冒頭のシーンを手堅くまとめ、観客を物語に導いておりました。

花戸裕介は難しい役回りだったと思うのですが、姉二人にいじめられる末っ子としての拗ねかたや距離の取り方に底堅い実存感があって。佐々木なふみ はホームグラウンドということもあってまさに水を得たお芝居。波乱含みのキャラクターなのですが、その感情の動きに観る側を浸潤する色が深く作りこまれておりました。

初日ということでほんの少しタイミングなどのずれなどを感じた部分もあったのですが、でも、やってきたものには観る側をして作り手の世界を彷徨させるに十分な力があって。

観終わって、どこか突き抜けた可笑しさを感じ、その可笑しさが愛おしさに変わる中で、さらにたくさんのことが心に満ちるお芝居でありました。

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