#anaume のこと(「よせあつめフェスタ」project anaume)
ちょっと遅れましたが、6月13日16時の回で穴埋め企画公演プロジェクト<あまうめ>「よせあつめフェスタ」を観ました。場所は新宿シアターミラクル。
この企画、最初に気がついたのが5月31日のツイッターの記事。フォローさせていただいている何人かの演劇関係者の間で盛り上がっている話題があって、なんじゃこれはとツイードをさかのぼって追いかけたのがきっかけでした。
キャンセルが出てあいてしまった劇場で、2週間弱の間にひとつの舞台を立ち上げる・・・。しばらくいろいろと見て、起こっていることをなんとなく把握出来た時には、さらにいろんなことがバシバシ広がっていて・・・。
あれよあれよという間に役者の方やスタッフが集まり、簡単なHPが準備され、集客が始まる。観客としても、演目や役者もわからないまま、その勢いに引きずられるように予約を入れてしまう。公演の体制がたちまちに整っていく姿にはグルーブ感すらあって、その一方で、普段お気楽極楽で足を運んでいる演劇公演を支える骨組みがツイッター上で組み上げられていく姿も、実に興味深くて・・・。
予想通りチケット予約はすぐにうり止めに。追加公演が決定し、二回公演となったもののたちまちソールドアウト。最終的には3回廻しという寄席の正月興行並みの大盛況。
前日の公開稽古という企画も観客としてはうれしかったです。短時間に準備されたとは思えない、観る側ががっつりと楽しめるコンテンツに瞠目しただけではなく、作品が演出でこんな風にもかわっていくのかという驚きがあって。
動き方や視線の置き方から細かな段取り・・・、それらが変化するたびに作品のエッジがどんどんと立ってクオリティが上がっていく。演出家からの一言でのぞくっとくるような変化が何度もあって・・。普段劇場で観ているものが、どんな作業によって支えられ研ぎ澄まされているのかを知る貴重な体験をさせていただく。
そして、当日、満員の劇場。そこでみたものには、公開稽古の品質をさらに凌駕するものがあって・・・。思わず息を呑みました。
(ここからは、個々の作品についてのネタばれがありますので、ご留意ください。)
演出・脚本(記載のないもの):関村俊介
*ツイッター
掴みとしてツイッターをテーマにした作品。ぼけと突っ込みの構造が際立った作品なのですが、二人の役者がそれを緻密に拾い上げていきます。流れのなかでのルーズな部分の間のとりかたがすごく良い。実はピンポイントでしか存在しないと思われるタイミングを確実に突いてくる。
前日の稽古の時よりはるかにしなやかな流れができているのも流石。口当たりの良い軽さにすっと引き込まれました。面白かったです。
出演:岡安慶子・三原一太
*明日バイトなんだけれど
前日稽古から一番進化していた作品。台詞にはない空気の面白さががっつりと伝わってくる。なんだろ、台詞が空気を膨らませるのではなく、空気に台詞が溶け込んでいる感じ。
二人の役者の距離感が絶妙に作られているので、けっこう曖昧なキャラクター設定が、観る側にとってとても分かりやすくつたわってくるのです。
深夜という時間帯特有のけだるさがやわらかく舞台からやってきて、舞台の秀逸を感じたことでした。
出演:堀雄貴・さいとう篤史
*ゴーテンノーペ
この作品は以前にみたことがあります。その時にも笑って、今回も笑った。ただし、作品から受ける印象は多少違っていて、今回の方が自然体な感じ。最初に見た時には個々のキャラクターのデフォルメがもっと強かったような気がします。より自然体であることで、ずれた感覚が実感となって伝わってくる。会話の組み上がり方にしても滑稽な中で腑に落ちる感覚があり、餡が詰まったたいやきのごとく、稽古の時に苦戦していた「相撲」自体だけなく、それを止める感じまで、観る側がよりかかれるおかしさが生まれていました。
実は稽古を拝見していて、一番出来上がりのイメージが得にくい作品だったのですが、ふたを開けてみるときっちりとしたクオリティが作られていて心地よい本番でありました。
出演:菊地奈緒・本山沙奈・湯舟すぴか
*隅におく
脚本:三谷麻里子
短篇なのですが、物語の奥行きがしっかりと感じられる作品。二人の女優がダブルスタンダードのような距離感をしたたかに作っていて・・・。積み上げていくことで醸し出される感覚と解き放たれることで現れてくる距離感が、舞台上の確かな厚みとなり、男優を含めてのそれぞれから溢れてくる感情にしなやかな立体感を感じるのです。稽古を拝見していて、それぞれの立ち位置だけでこんなにも舞台の空気がかわるのかと驚いたのですが、本番ではさらに間や動きにも洗練が加わり、3人の実存感に一層の磨きがかかって・・・。舞台上の時間に透明感もあって浸潤されました。
出演:石井舞・西恭一・松木美路子
*あさはかな魂よ、慈悲深い雨となって彼女の髪を濡らせ
脚本:櫻井智也
難しい脚本だと思うのですよ。でも役者がとにかく圧倒的で、その難しさこそがことごとく作品の味わいに変わっていく。堀越のグルーブ感に溢れた演技にまず瞠目。ぐいぐいとその場を高揚させていく。一方で寺井が自分のペースをがっつりと貫き、舞台に豊かなアップダウンを作り上げていきます。筧が舞台の加速度に抑制を作り、勢いに任せていているような突飛な展開のなかに、物語の辻褄を合わせるスペースをきずいていく。その間に忍び込んだ作品のペーソスに観る側はしっかりと浸潤されていくのです。
稽古を拝見したときから文句なしに引き込まれた作品でしたが、本番にはさらなる輝きが加わっていて、そのことにも瞠目しました。
出演:筧晋之介・寺井義貴・堀越涼
*赤い石
稽古時には作品の秀逸さを感じ、本番では役者の秀逸を強く実感しました。不条理なのですが、石の概念が実感としてわかる。それを稽古の時にはなにかの概念に置き換えて理解していたのですが(たとえば「カップルの空気」とか「ふたりの距離感」とか)本番の二人からはその置換がなくても石を感覚的に感じることができました。どこかに残る二人の役者としての探り合いが、パンに残る小麦粉の風味のよう・・。本番では少しだけこなれていたのですがそれでも、なにかとても旬な質感を味わったような感じ。
静かな台詞まわし、静謐で淡々とした空気の揺らぎからその石の存在が触感に近い部分から伝わってくる。
石を投げ捨てたあとの解放感とウィットに、観る側までがすっと縛めを解かれた感じがして、その感触がずっと残っておりました。
出演:堀川炎・金丸慎太郎
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(その他、この企画の詳細やクルーについて、HPのご参照をお勧めします←ここをクリック)
終演後のスペシャルイベントでごえんを繋くころには、ツイッターの内側のようなお祭りの感覚が場内に溢れていて。お芝居の充実もあって、観る側も充実感に包まれていました。その雰囲気の中に、動画やHPなどの作品を知る環境、会場運営などのスタッフワーク、もちろん作品や動画など観たものから客席の雰囲気まで、すべてに完成度と洗練が存在していたことが、観客にとってもとてもうれしかったです。
まあ、同じことを再びやれと言っても難しいのでしょうが、いろんな含蓄や経験が含まれていた公演だったとも思うし、そこから演劇の世界を支えるいろんな人や要素の底力も目の当たりにすることができたわけで、観客としてもとってもとても意義のある公演だったと実感できました。
このことが、お祭りの花火でなく、タンポポの種のように、なにかいろいろに広がっていけば良いなと思うのです。
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