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JACROW#13「北と東の狭間」息を呑む実存感の重なり

ちょっと遅くなりましたが、2010年5月10日ソワレにてJACROW#13「北と東の狭間」を観ました。外伝は14日に・・・。会場はサンモールスタジオ。

その世界の実存感に息をのみました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出:中村暢明

冒頭に、中国人の女性たちが働く店の賑わいが現れ、観客を舞台上の世界に落とし込んでいきます。店内の喧騒、女性たちの中国語混じりの会話が幾重にも聞こえる。見えない観客が女性たちの演技でしなやかに浮かび上がってくる中で、チャイナドレスの女性たちにライトがしっかりと当たったような感覚賀生まれて・・・。そこから、彼女たちとそれを取り巻く日本人たちの物語が始まります。

店のママとふたりの中国人女性。中国人女性にとっては安定した在留資格を得る事が夢。そのためにひとりが日本人との偽装結婚をもくろむ。時は日本が沈み始めるバブル崩壊のころ、転落し多額の借金を抱えた男が偽装結婚の相手として店に呼ばれてやってくる。

偽装結婚を仲介する社長とその社員、その店に食い込むやくざ、やくざからの借金に苦しむ店のバーテン。さらにはママの結婚相手から刑事、店の女性にはまる男とその婚約者、そして店の女性にふられた男まで、偽装結婚のふたりを中心に、数ヶ月にわたるその店に出入りする人々の姿が織りあげられていきます。

描かれる人物たちの解像度の高さがそのまま舞台の力になっていて。中国人女性たちには目を見張るほどの存在感。片言の日本語や響きをしっかりと持った中国語に留まらず、小さな仕草から表情のうごき、さらには言動までしっかり作り上げられていて。やくざのどこか枠をはずれたような感じ、偽装結婚相手の男たちから滲み出してくる喪失感、店の女性に取り込まれていく男ややくざの蟻地獄にはまっていくバーテンが醸し出す抜け出せない感覚、それぞれが役者達の演技に支えられしなやかで細密なテンションを舞台に作り上げる。それも、舞台をひと色に塗りこめるような感じではなく、登場人物それぞれの色が重なる感じで観る側を巻き込んでいくのです。

動き出した物語がその重なりの間に光を当てて、それぞれが抱くロジックというかもくろみや価値観のシルエットが浮かび上がります。中国人の女性たち、日本人の社長、偽装結婚の相手、やくざ、刑事、その店にかかわる男たちとさらにその周りまで・・。作・演出の中村はしたたかな手法で、シルエットの形状をくっきりと描きこんだ上で、それらが次第に積み重なりかかわりあい、やがて崩れていく姿を舞台上に作り上げていく。中国語やシーンの作りこみで、観る側に届く言葉と隠される言葉が組み合わされ、物語に切れと奥行きが育ち、したたかなつながりや示唆、見せて伝えるものと見せずに伝わるもののモザイクから物語の広がりや余韻がうまれて。

役者のこと、前述のとおり、中国人女性を演じた3人には息を呑むようなリアリティがありました。言葉や仕草に息を呑む。しかもそのリアリティが個々を塗り込められることなく、そこからさらに一人ずつの人物像が積み上げられていく。蒻崎今日子の強さにはデリケートさが共存していて、キャラクターが自らに引いた線の内が浮かんでくる。冷徹な性格を感じさせる表情が表層的にならず、生きてその内面を観る側に伝えてくれるのです。柳井洋子には男性を引き込むに足りる魅力を作りつつ、キャラクターの芯の強さを見せるしなやかさがありました。

清水那保にはキャラクターの心の息づかいを観る側に刷り込んでいくような力があって。芝居の細密さが醸し出す心の揺れは、決して強い色あいではないにもかかわらず、落差がしっかりと作られて観る側を締めあげていきます。一つの言葉や動作がこぼれることなくキャラクターの心情を観る側に注ぎ込んでいく。作り出す肌合いのようなものが、観る側の感覚とすっと一つになる・・・。

清水の偽装結婚の相手を演じた橋本恵一郎も清水の色を受けて、どこか飄々とした、なにかを失ったようなキャラクターの姿を演じ切って見せました。主役を張れるだけの力量がある役者さんだと思うのですが、一方でこの人の芝居を観るたびに舞台を支えるバイプレイヤーとしての才能にも瞠目する・・・。共演者を生かして自らも生きるお芝居が今回もとても効果的でした。もう一人の国際結婚男性を演じた平山寛人にも弱さに強度を与えるお芝居の芯があって・・。単純にひ弱な男として舞台に埋もれない力というか、すっと引っこ抜けないキャラクターの根の張り方やが観る側に質感として伝わってくる。際立った感じはしなくても、後に残るお芝居だったと思います。店のバーテン役を演じた谷仲恵輔は物語の暗い色を着々と演じていく。物語への入り込み方が絶妙で、要の部分を後ろからぐっと支える感じ。モラルハザードへ繋がっていくような弱さに観る側が思わずうなずいてしまうような現実感があって・・・。

根津茂尚は、少しの軽薄さを折り込みながらキャラクターのコアにある鉛色のような感覚を観る側に印象付けて見せました。やくざ役の仗桐安はどこか戯画的な役を呑みこんで実存感を作り上げる演技。役柄の色に縛られているようでいて、役柄以上にキャラクターの性格や人間臭さが観る側にのこる。それがそのまま、舞台上の空気に実存感を与えてくれるのです。

菅野貴夫は、日本人のスタンダードを印象付けるような存在感と、堕ちていく感覚を広い間口で観る側に伝える力があって。この人が演じるキャラクターの危うさにこそ、その時代の危うさがしっかり宿っている・・・。キャラクターの個性とある種の普遍性をすっと一つに束ねる力量を感じました。その婚約者を演じた平出仁美のお芝居には場の雰囲気に負けないエッジが効いていて、その場にそまったり抗うのではなく、キャラクターの個性を実直に表わしながら中国人女性との対比を作り上げていきます。そのベースが作り上げられているから、終盤の狂気が概念にならず、温度と密度をもって観る側が取り込まれてしまう・・。

岡本篤が演じる刑事は、ハードボイルドな匂いを作りながらいくつかのシーンの雰囲気の枠組みの役を果たしていくのですが、でも以外の部分の裏側のお芝居が、枠組みを崩すのではなく枠組みの危うさを伝えるだけのデリカシーを持っていて。

様々なもくろみや想いたちがメルトダウンしていくような終盤が圧巻。追い詰められていくバーテンや婚約者を奪われた女性、さらには店に火をかける男(日替わり友情出演:杉木隆幸)の狂気に違和感がないことに息を呑む。

もくろみの箍がはずれ、座標を失った男女からあふれる不器用で生々しい愛憎のゆらぎにひたすら圧倒される。荒々しく、切なく、汚れきった物語の終わりからからやってくる、濃密で不思議に純粋な愛情の瑞々しさに驚嘆し、その質感に一気に浸潤されたことでした。

外伝も前回公演とは少し違った肌合いがあって、物語に新たな深度を感じたり。

こういう充実感のあるお芝居は、本当に観ていて飽きない。高い満足度に加えて、次回が本当に楽しみに思えるお芝居でありました。

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