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ガレキの太鼓「止まらずの国」、圧倒的な描写力から降りてくるもの

2010年3月26日ガレキの太鼓「止まらずの国」を観ました。会場はサンモールスタジオ。その世界にがっつりと凌駕されました。

(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください。)

舞台は、とあるイスラムの国。建物に光が差し込み観客の心をその世界に取り込みます。そして朝の風景・・・。上手の入り口を照らす光の強さと、そこにいる旅人たちの風貌や言葉にたちまち引き込まれる。電気の事情に始まって、その国の雰囲気、生活感、様々なものが混然となって観る側を包み込む。冒頭の数シーンでたちまちその世界に閉じ込められてしまいます。

その空気が観る側の肌にまでしみ込む中で、旅人という大きなくくりが登場人物それぞれの個性へとほどけていく。旅の経験から身につけたことや、他人との距離感、そして情報を交換したり助け合う姿に織り込まれたいろんな知恵の実存感、「イン・シャーラ」的な感覚。その中にひとりずつの個性が浮かびあがってきます。生まれ育った環境(国)やちょっとした物事への感想が、旅人達それぞれに繊細な濃淡をつけていく。物語の流れの中に、旅を極めたものから、旅を粛々と続けるもの、旅への期待を持ちつづけるものから、少し旅に疲れたもの、さらに意思とは異なってその場に置かれたものまで、さまざまな様相が個々の登場人物からぞくっとするような解像度で織り込まれていくのです。

その解像度があるから、戦争とみまがうような後半のシーンが生きる。常ならぬことがやってくるときの感覚の作り方が本当に秀逸。なにか自らの経験をこえた得体の知れないものが起こり始めるときの不気味な静寂。地下鉄サリン事件の朝の銀座駅を経験したことがあるのですが、本当に大変なことって、きっと情報が伝わらないままに違和感を内在して静かに立ち上がっていくのです。誰をも凌駕する事態が波のように押し寄せて、キャラクターのそれぞれを問う。やがてやってくる事態にバラけていく判断とパニックと悟り。緊迫感に観る側までが圧倒的に押し込まれる中、好むと好まざるとにかかわらず、それぞれが自らの経験に事態を重ねてさらなる経験を受け入れていく。

再び訪れる朝、耳をつんざくようなコーランの読経。結末におとずれるキャラクターたちの放心はちょっとあっけない感じもするのですが、その軽さがあるからこそ、知りたいという意思を超えて知ることの昂ぶりや悦び、さらにはそれを受け入れることの重さまでが、同じようにしっかりした解像度を持って観る側に降りてくるのです。

作・演出の舘そらみには、ひとつの世界を包括して描写するする力と一人ずつの人間にほぐしていく力の両方が兼ね備わっていて、書き割りではない空気の厚さと時間の立体感を舞台から劇場全体にまで広げていく。その中で、語られるエピソードから、まるで占い師がのぞく水晶玉のように、個々の登場人物の経験や想いが浮かんでくる・・・。砂が粒子のようにただよう空気の中、一人ずつにとってのその場の時間が観る側の空気と共振していく。・。前回のマンション公演の時にも思ったのですが、彼女の作る空気のしなやかさとその中に織り込まれるキャラクターの想いの浸透力には、類まれなものがあって・・・・。舘の絵筆だからこそ、見え感じられる世界がそこにはる。

出演:井上雄太 遠藤剛 上村梓 通地優子 篠崎友 鈴木智香子 中本章太 柳沢尚美 江藤信暁 内堀太郎

役者たちも、びっくりするような派手さはないのですが、ボディがしっかりした演技で実直に舘の描く世界を具現化して見せました。

終演時には、それぞれのキャラクターが旅に費やした時間と得たものがすっと舞台上に俯瞰できて・・・。その空間で時間を過ごし、知ることを重ねることの「軽さ」と「重さ」の質感に心を奪われていました。さらには、一番旅の経験を積んだキャラクターがスークの入り口で観たという光景・・・。「耳が聞こえず両手のない子供が踊る姿が面白くて見ているうちに、足が絡まってほどけなくなって。それを助けにきた子供の友達は目がほとんど見えないという。」という台詞(意味)がしっかり残っていることに気づいて。

帰る場所につながれたもやいが少しずつ擦り切れる中、旅に時を過ごしつづけることに思いを馳せたことでした。

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