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二騎の会「F」、たくさんのFが織り込まれた世界

2010年1月29日ソワレにて二騎の会「F」を観ました。

会場はこまばアゴラ劇場。

(ここからはネタばれがあります。十分にご留意ください。)

作:宮森さつき

演出:木崎友紀子

舞台が始まって少しの間は近未来の話をのほほんと観るような感じでした。

冒頭のお花見の感覚、男性がアンドロイドであることからそれが近未来の話であることがわかる。執事ロボット杓子定規な言葉づかいから急に砕けた言葉に代わって、少しずつ互いの理解が生まれていきます。ちょっとヴィヴィドで楽しげな雰囲気さえ感じて。

でも、二人の会話から女性の背景が明らかになるにつれて、彼女の口調とは裏腹の、舞台上の心を締めつけるような世界観が観る側に広がっていきます。

明日がこない、永遠に今日が続くような貧困から命と引き換えに抜け出した彼女。彼女の利益を守るという前提の中で次第に彼女の感覚を理解していく・・・。でも彼女の愛を受け取るすべを知らないアンドロイド。

彼女が通過する四季、季節のシンボルと交わる切ないほどにいびつな感覚が観る側の心を繊細に強く締めつけます。浴衣の着付けをするふたりの滑稽さ。自らが夏にいることを確認するようにはしゃぐ女性が火のつかない線香花火をもって花火と確認する姿から、彼女のうちに刻まれたどこかうすっぺらな時間への切実さとはかなさを感じて。

彼女が命と引き換えに得た富で得られるもの。命が満たすものの重さ。正しい意見はいらないと女は言います。楽しくないからと・・・。その感覚がとても自然でナチュラルなものに感じて、近未来の感覚がふっと消えてその世界の今で彼女を観ていることに気がつく。

秋の味覚、一緒にできない食事。彼女が求める時間とアンドロイドが差し出す満足の乖離。ただ、食事をしただけでそれを秋と自分を言い含める彼女の姿に涙があふれてしまいました。彼女が歌う「小さい秋みつけた」に編み込まれたうつろう秋の気配が劇場内を満たすひととき。彼女の唇から発せられるその秋が数口の味覚に置き換えられてしまうことがあまりにも切ない。あまりにも切ないのですが、でも、その数口がまるでモルヒネのように彼女のひと時の痛みを和らげていることが観る側に諦観を与えていく。

冬、クリスマスツリー、彼女に漂う終末の雰囲気。七夕の偽物でクリスマスツリーに祈る。その祈りに、彼女の想いが溢れる・・・。彼女のうちに膨らんだ愛する気持ちが静かにまっすぐその部屋に広がっていく。その言葉の行き場のなさを覆い隠すように彼女に言われたアンドロイドがかりそめのクリスマスを祝う。

その死は,物語のなかではしごく当然にやってくることで・・・。だから、アンドロイドのチアと裏腹の彼女の最期自体は淡々と観ることができました。でも、抱きあげられた彼女の姿を観て彼女が刻んだ思い出の行く末がどこにもないことに気がついて。アンドロイドの言葉に再び目頭が熱くなった。

役者のこと、端田新菜はキャラクターが持つ諦観をしっかりと作り、さらにそこから溢れだす感覚を実にみずみずしく演じ上げました。彼女がキャラクターに込める匿名性と個性のバランスがすごくしたたか。物語が持つ普遍性の上で彼女の個性としての実存感が観る側にすごく瑞々しくやってくる。多田淳之介のキャラクターのコントロールもうまいなあとおもいました。擬似的であるはずの感情の表現が絶妙。相手が思いを委ねるにたりる雰囲気がしなやかにかもし出されていて。さらにはアンドロイドとしての限界の見せ方もとてもしたたか。彼女の感覚や彼女を取り巻く現実に観客の視座をうまく導くような力もありました。

シンプルな舞台装置や照明の色が彼女の世界の広さや感覚を観る側に伝えてくれる。物干しざおに掛けていく衣装がそのまま彼女の刻んだ思い出の質感にも思えたり。役者の演技だけではなく、いろんな工夫が観客を深く舞台に取り込んで。

帰りの電車の中で、本当にいろんなことが頭をめぐりました。貧困が奪うもの、命の重さ、人の平等という建前と現実。思い出ってなんだろう。彼女は不幸だったのだろうか。

すこし醒めた見方をすれば、リアルな世界であっても、愛されたいと思う気持ちや人を思う気持ちの虚実って、実は彼女とアンドロイドの関係にも似ているかもしれないとか思ったり。

さらには、アフタートークの質問にもあり作り手側からのアンケートにも逆質問があったことでしたが、「F」ってなんの象徴だろうとかなり真剣に考えた。

Fake,Future、Feel、Feed、Fortune,Free,Forget、Fear。

考えれば考えるほど、実にさまざまな[F]がこの物語に溶け込んでいることに気づくのです。

「F」のトリガーから浮かび上がるこの物語の奥深さに、またもや息を呑んだことでした。

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