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Dull-Colored Pop 「Proof/証明(reprise)」さらに乗り越える力

2009年12月12日、マチネにてDull-Colored Pop 「Proof/証明(reprise)」を観てきました。場所は渋谷、space EDGE。

前回、10月公演時の初日を観ていて、打ちのめされた作品。

(ここからネタばれがあります。ご留意くださいませ。)

原作:デヴィッド・オーバーン

演出:谷賢一

会場のSpace Edgeは、そのままフォークリフトが動けそうな場所。多分なにかの工場か倉庫の跡地なのでしょうね。いろんなものの作りがその原型をとどめている。入場して、上着を脱ぐとじわっと冷え込んでいるのを感じる。

開演の10分ほど前になると、扉からの明りの中で、少しずつ舞台の空気が醸成されていきます。前回の地下劇場と違って今回は外気がそのまま劇場内に入ってくるし、さらには観たのがマチネだったので客入れ中は外の光もそのまま劇場にやってくる。劇場の扉が閉まっても、居すわった外気が醸し出す感覚をそのままに物語が始まります。

舞台の進行は前回上演と全く同じ・・・。観客席が家側になり、そこから外のテラスを観るような設定も、音の入り方も変わらず。キャストもそのまま。

にも関わらず、前回圧倒された舞台の力量が、明らかに上がっていました。前回も、それぞれの役者からやってくる想いに圧倒されたのですが、今回はさらに、一つの作品という枠を伝えるコントロールを役者が互いに推し量っていた一瞬の間すらきれいに払拭されていて・・・。役者の作品への熟度がさらに上がって不要となった命綱を断ち切った感じ。全体の空気の中からあふれ出たような想いたちがさらに一皮むけて、鋭く、みずみずしく、さらなる帯域をもった抜き身の感情が直接役者のひとりずつから押し寄せてくるのです。その想いに、観る側がなすすべもなくなぎ倒され埋め尽くされていく。

キャサリンを演じた清水那保の感情の起伏にはがっつりと腰が入っていて、太さのある幾つもの色が一つの仕草や言葉と絡み合う。丸めて形にされるのではなく、一つずつの色が精度を持って解き放たれていくのです。あふれる色がそれぞれに切っ先を持っている感じ。しかもその変化が息をのむほどにしなやかで・・・。ただ息を詰めて見つめるしかないような圧倒がありました。それでなくても、強い浸透力のある演技ができる役者さん、観るほうは、もう抗うすべがない・・・・。

クレアを演じた木下祐子、前回は清水を受け止めた上でのお芝居という印象もあったのですが、今回は彼女が演じるキャラクターの質感をがっつりと舞台に突き刺していました。一人の女性としての存在感がくっきりと観る側にやってくる。「主人公の姉」というような舞台上での要約が消えて、その場に生身のクレアがあるのです。彼女自身のニューヨークの生活や妹に対する思いが、押さえられることなく舞台の空気として広がっていく。その存在感が、自然な光色のバックライトのように物語を浮かび上がらせる力にもなっていました。・・・

小栗剛のお芝居はキャラクターの実直さを見事に伝えて。数学者としての焦燥が前回よりクリアになっていることでキャサリンへの想いもよりエッジを持って感じられる。良い意味で人間臭くなったと思いました。そのことで舞台にさらなる毛細血管が生まれたような・・・。キャサリンの証明を「なうい」と評するとき、それまで積み重ねた彼の演技が本当に報われて・・・。舞台上の様々な想いが一気に束ねられていきました。

中田顕史郎からは、キャサリンから観た父というロールだけでなく、数学者として生きざまのようなものがより明確に伝わってきました。滲み揺らぐキャラクターの才能が扉を開くときの高揚、プライド、そして挫折感が、物語の筋道を示すだけではなく観る側の心に熱や凍えるような痛みを体感させうるほどにまで昇華していて。冬のシカゴ、屋外で破綻した理論と格闘する彼の姿が、シンプルな狂気としてだけではなく、その奥にある混沌と不安の色の結実としてやってくる。それが、キャサリンがその家で介護を続けることに強い説得力へもつながっていくのです。

息が切れるほどの疾走感があるのに、ゆったりとした深さに満たされている。終演の闇に降りてくる消耗感から、自分がいかに舞台に集中されられていたかに気づく。そして、時間がたっても心のなかでなにかが解け続ける。

こういう体験ができるから、劇場通いがやめられないのです。

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