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TorinGi「捨てる。」重ね方の秀逸

遅くなってしまいましたが、2009年9月21日18時の回でTorinGi「捨てる。」を観てきました。場所はエビス駅前バー。

それほど大きくないビルの3Fに会場はありました。中に入ると典型的なバー。カウンター奥の棚には普通にお酒が並べられていて・・・。

しいて言えば焼酎の種類がちょっと多い感じ。

(ここからネタばれがあります十分ご注意ください)

内部にはトールスツールと丸椅子、合わせて20人ほどの客席がしつらえてありました。一番奥の3人掛けのテーブルとカウンター席が舞台という趣向。

木戸銭&ワンオーダーのシステムで必ず飲み物をオーダーさせるのはそんなに珍しくないやりかたですが、今回のお芝居ではその店のドリンクを楽しみながら開演を待つというやり方で観客から観た舞台の敷居がすっと低く感じられたり。

演じられるのは3組のお客の会話劇。

作:米内山陽子  演出:池田智哉

まったくの閉塞空間ではない場所で、登場人物たちの身内の話を漏れ聞くという観客としての視点設定、なかなかおしゃれだと思いました。なんというか観る場所と同化してすっと入っていけるのです。その距離感で導入部分で示されるバーの店員やひとりで待ち合わせをしている女性客の存在が、うまく個々の物語に取り込んでいきます。

最初のお客は結婚式帰りの3人づれ。店への入り方にも登場人物たちのパーティ帰りの高揚があって。

3人は花婿の姉といとこたちらしい。小さいころから互いを知り合っている関係。ワインの種類を決めるあたりの表現もうまいと思うのですよ。親戚という連帯感の中で1本のボトルを頼む。白にするか赤にするかに彼らの間での依存と寛容と妥協の関係がうまく込められて・・・。

でも、それぞれの性格を知り尽くしても、いとこの間は最近やや疎遠らしく、お互いの近況報告などの会話からはじまって。そこから3人がそれぞれに相手に対して抱くものが浮き彫りになっていきます。文学少女で小説家を志していた花婿の姉への憧れがあって出版社に入った従妹。女性としての憧れをもってずっと花婿の姉を眺めていた従弟。日々の生活やあこがれていた仕事や抱き続けた恋心、親戚どうしだからこその愛憎。

やがて、1本目のワインボトルが開くころには、それぞれが触媒となるように過去のことや今の閉塞感のようなものが溢れでて、バーという場所での会話のルールをやや逸脱し始めて・・・。トイレを活用して作られる2人のシーンから従姉弟どおしの秘めた関係までがあらわになっていきます。

長岡初奈の見栄というか強がりと、その内側にあるわだかまりなどがすごく実直に伝わってくる。熊谷高太郎の一途さにはバックボーンが感じられるのがよい。こうお芝居のなかに過去からのつながりを咀嚼した上での想いが伝わってくるのです。蒻崎今日子はふたりの想いを受ける広さに加えて、彼女が抑え込んでいるなにかを複雑な重さとともに隠すしたたかさがあって。それが3人の過ごしてきた、血縁のにおいのようなものを絶妙に醸し出してくれるのです。彼女が内側に抱えている、そのなにかが終盤の伏線としてがっつり生きることにも瞠目。お芝居の作りを骨太に支える好演だったと思います。

ふた組目のお客は兄弟、東京で暮す弟のところに実家を守る姉が上京してきて・・・。

それぞれの生活の閉塞感があけすけに伝わってきます。弟は漫画家でやっと少しだけ安定してきたところ。姉は田舎の空気に嫌気がさしている・・。でも、両親が経営している会社のことがあって、姉は田舎を離れられないという。田舎から出たい姉は弟に実家を継ぐように求めるのですが・・・。

姉を演じた中村貴子には、酔いに任せて電車道のごとく舞台を押し切るキャラクターのパワーを存分に表す演技の力量があって、その一方で女心の初々しさを繊細に織り込めるような器用さが彼女が上京してきた理由にピュアな切なさを与えていました。弟役の福原冠は中村の芝居の受けに回りながらも存在感を巧みにリティを育んで、キャラクターが東京にとどまる感覚を観る側にしっかりと伝えていました。姉の大冒険を否定できない弟の気持ちになんともいえないテイストを与えていて、実直さと巧みさのバランスがすごくよい演技だったと思います。

姉弟が店を去ると、待ち合わせをしている女性客の物語に・・・。

両親の離婚二加えて母親の再婚で親戚に預けられた女性と生き別れのようになっていた実父の対面。男の取り繕わない正直さと女性の醒めた感覚のすれ違いにどきどきと引き込まれます。親子という強い血縁に繋がれていても、二人の間に横たわる空白の時間が満たされるわけもなく、空洞の時間の両岸でお互いの想いがかたられていくような・・・。父親役の山内一生から伝わってくるキャラクターには言葉にできないような実直さがあって、それが正しいかどうかは別にして、そうならざるを得ないというような説得力があるのです。それが、細井里佳のもつ聡明な雰囲気と不思議な接点を生みだして・・。待ち合わせの客として、他のエピソードにも絡んだことで、細井の演じるキャラクターがうまく観客に示唆されていて、それゆえ彼女の内心にある孤独がグラスの酒にやわらかく麻痺していく感じにえもいえない深さがあって息を呑む。バーであるということで、お酒の使われ方がここでもすごく効果的。

演出も兼ねた池田智哉は、役者としても抜群の間を持っていているような。バーカウンターの中で物語の密度をうまくコントロールしていました。

三つ目のエピソードの終わり方も、洒脱で私的には大好き。

それにつけてもしたたかな良い脚本だと思うのですよ。ミルフィーユのように登場人物の想いが重ねられ、3つの物語がやわらかく繋がっていくような感じ。小さな感情の揺れが幾重にも書き込まれていて、それがほどけていく口当たりもきちんと納得ができるのです。心地よさとどろっとした人間関係が、なんというか不思議な調和を持っていて・・・。次第にあらわになってくる人のつながりや過去に、したたかに引っ張り込まれる感じ。米山内作品、もっともっと色々と見たくなりました。

そうそう、ふっと思ったこと。今回はシルバーウィークの公演を観たわけですが、平日の夜、ちょっと遅め(20時とか、今回のように21時もあるみたいな)にこんなお芝居、なかなか素敵かとも思ったり。東京のように成熟した街には、こういう雰囲気でたのしむ演劇も、とても似合いそうな気がするのです。

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