吾妻橋ダンスクロッシング より魅せる舞台
2009年9月12日、吾妻橋ダンスクロッシングを観てきました。たっぷり充実の舞台でございました。
個々の作品についての印象を自分のメモを兼ねて・・・・。
(ここから舞台の内容が含まれます。ネタばれが含まれることにご留意ください)
今回は前回にくらべてイベント的な内容が減って、舞台を見せることを重視した感じ。ダンスエリアがなくなり椅子座席が大幅に増えて舞台を観る時の居心地がかなり改善されていました。トイレがアートスペースになっていたのにはちょっとびっくり。最初トイレの現場感に本当にそこで用を足してよいのか迷ったほど・・・。
ワンドリンクフリー。今回も快快がフードのお店を出店していました。前回とちがってシングルメニューでちょっととまどう。でもこの「ジャークチキンサンド」、舞台を観るには恐ろしく優れていて・・・。
・持ちやすく食べやすい。厚めのブレッドにしっかりチキンが守られて崩れにくく、パッケージから食べていても手が汚れず、バラケてしまうような粗相がないのです。
・匂いが強くないのがよい。ものを食べるときにその匂いがまわりにするのはかなり不調法なもの。でも今回のメニューはブレッドの内側に匂いが閉じ込められている感じで、周りを気にせずに食べることができるのです
・おいしい。いやぁ、本当においしかったです。チキンの味の良さだけがたっぷりあって、鳥の厭味がまったくない・・。ソースというか味付けが絶妙なのです。フルーティな酸味や野菜のうまみも加わってけっこう複雑な味なのですが、それらがきちんと居場所をみつけている感じ。しかも、食べるまでは抑えられていたかおりも口の中にはいっぱいに広がって、これも不思議。ビールにも実によく合いました。
・ボリュームがある。おいしさに取り込まれて夢中で平らげてしまったのですが、実はボリュームがあって。おなかベコベコで入場して、これ一個を食べただけでしたが、3時間の公演中空腹を感じることはまったくありませんでした。
で、食べ終わって一段落すると舞台が始まります。場内は超満員です。
・ハイテク・ボクデス「無機Land」
いろんな「物」だけでのパフォーマンス。それらの動きの連続から無機質な時間が作りだされていきます。
単純に面白いかといわれると多少首を傾げるしかないのですが、でも、物たちの動きに感情移入を始めている自分がいてちょっとびっくりする。記号が自分の意志にかかわらず自らの感情を広げていく不思議。
パフォーマンスとしてはボーダーに位置付けられるような作品かと思うのですが、ちょっと頭が刺激された感じもあって、なかなか素敵な冒頭でありました。
・contact Gonzo「(non Title)」
前回も拝見したのですが、より動きに無駄がなくなってスピリッツが純化された感じがしました。肉体を押しつけながらその空間に入り込んでいく感じに麻薬のような引力がある。観ていて、うっとこちらが顔を背けるような殴打もあるのですが、一方で力のバランスする一瞬に安定した感覚が混在したりもして、気が付くと目が離せなくなっていました。
時間の感覚を失うように見入ってしまいました。
・チェルフィッチュ「ホットペッパー」
独自のメソッドに雰囲気がうまく切り取られて、3人の派遣社員が醸し出す仲間の送別会に対するやり取りの空気が、溢れるように舞台に醸成されていきます。
この実存感、半端ではありません。会社勤めをしている人間にとっては笑えないほどのリアリティがあって。
身体表現とセリフの不思議な一体感は、彼らの本公演よりむしろ鮮烈に感じるほど。一人ずつの独立した空気とその融合や乖離の距離感に目を見張り、役者たちの力にも息を呑みました。
・ほうほう堂「あ、犬」
個人的には好きなたぐいの時間・空間が舞台に生まれていました。繊細さがあって、でも粘り強く表現を貫く強さが存在している・・。
たわいのない時間なのだとも思うのですよ。でもそれが身体にうまくのって瑞々しく具現化されている感じ。
なにか観ていてこちら側がすっと彼女たちの空気に染まってしまうような。彼女たちから生まれる世界に魅了されました。
・快快[faifai]「ジャークチキン~それはジャマイカの食べ物」
場内で販売している「ジャークチキンサンド」の宣伝をモチーフにしたパフォーマンス。
明るく気持ちよく突き抜けていました。コックの姿や肉の焼ける音、シーンを劇的にもりあげる音楽や照明まではほほえましいくらいの感じだったのですが、そこに送風機と化け物のような蛇腹のダクトを使っての装置で臭覚、さらには観客を引き込んで味覚や触感までを現わすあたりで、目指している表現が五感を跳び超えて第六感辺りまで広がっていることに気がついて・・・。最後にジャークチキンサンドの世界観のような部分にまで運ばれると、これはもう立派な芸術表現の域。なにか観ていてわくわくしてしまった。
それを粛々とやり通す彼らの力に、素直に感動してしまいました。
・休憩
トイレにいってChim↑Pomのインスタレーションを鑑賞。なにか工事場のようなトイレでした。
・鉄割アルバトロスケット「馬鹿舞伎」「園まなぶ」「焼鳥の串」「おれの母ちゃん何処行った?」
冒頭の「馬鹿舞伎」にまずやられました。その浄瑠璃風な語りが絶妙にうまいのです。ここ一番の盛り上がりで隣の男のヘルメットを叩くあたりからもうおなかが痛くなるほど笑いました。しっかりと唸っている聞かせどころの部分で突然現代口語のような語りが一節だけ入るところがまたおかしくて。そもそも、ああいう貧乏神官のような衣装、どうやって考え付くのだろう・・・。この雰囲気すごい。後ろを向いてプラバケツを鼓にする女性もそれだけで印象が強烈で・・・。
そのあとの出し物もどこか尋常でない飛び方をしていて。レバー串の見立てにちょいと時事ネタの匂いをかもし出すところにぞくっと来たり。
11月にすずなりで公演があるようで・・・、是非に見に行きたくなりました。
・Line京急「吉行和子(ダブバージョン)」
手法的にはチェルフィッチュの匂いがかなり強くするのですが、チェルフィッチュの作品から比べると、個々のシーンの密度よりも作品全体を貫く雰囲気から物語を浮かばせていくような傾向があって。村松翔子の演技はどこか漫画チックなのですが、でもそこから浮かび上がってくる人物像が絶妙にリアルなのです。スタイリッシュで下世話な感じが身体表現まで含めた演技でがっつりなされていて。
「メモリーグラス」という曲が持っている雰囲気をデフォルメするセンスも抜群で・・。
私的には大好きなテイストを持った作品。気がつけば、彼らの不思議な世界にしっかり取り込まれておりました。
・いとうせいこう feat.康本雅子「VOiCES」
舞台は康本雅子の動きから始まります。光の少ない中での鼓動の始まりのような動き・・・。そこに、音楽といとうせいこうの語りが重なると、彼女の表現しているものが次第に色を増してくる。過去の彼女の作品はミクロに向かっての高密度で観る者を圧倒していましたが、この作品では大きく流れる時間の躍動や揺らぎを強く深く紡いでいきます。
いとうせいこうは[9.11]をメインに戦いの犠牲になっていった人々への哀悼を冷徹に語り続けます。過去への後悔を含んだ史観の主張が熱を帯びてくる。しかし、その熱をあざ笑うように康本がもっと大きな時間の揺らぎを表現していくのです。語りが声高になればなるほど、その言葉を凌駕する康本の描く時間のしなやかさや大きさが増していく。息をのむほどに強く圧倒的に康本から伝わってくる時間の流れに、歴史の残渣への邂逅から導かれる教条的なセンチメンタリズムなど脆く小さなものに思えてしまうのです。
それが舞台を作る側の意図したものかどうかもよくわかりません。いとうせいこうの言葉が康本の創出した世界に凌駕されることが本当の作り手側の意志だったのかも不明・・・。
でも、そんなことよりも、ただただ、康本が表現する人の歴史をもてあそぶほどのみずみずしい力に心を奪われた事でした。
・飴屋法水「顔に味噌」
宮沢賢治の童話「よだかの星」の冒頭が朗読されるところから舞台は始まります。フェンシングによる戦いのイメージがそこに重なって・・・。男はその名をロミオに変えるよう強いられて・・・。
そこから、幾つものコンセプトの軸が重なっていきます。
さまざまな国籍の人々がラインを作って、手拍子でリズムを刻みそれぞれの生活や感情の断片を語り始めます。ラインから伝わってくる彼らの今は、目を見張るほど瑞々しく思えて。観ているだけでどきどきしてしまう。
舞台前方に導かれたジュリエットのようなお姫様は、ドレスを脱いで化粧を落とし、さらにはあたかも知識や経験を重ねるように味噌を顔に塗りたくられていく。それは、童話の描写と交わりながら、同時に人が齢を重ねていく姿の早送りのようにも思えて。あるいは、日々の時間が一拍手ごとに刻まれる中で、人が容姿の美しさや闘争心を捨てて、経験した時間をまとう姿のごとく感じられるのです。
最後に老人がゆっくりと現れて、「よだかの星」の後半の部分を朗読します。人が生きる時間を俯瞰する場所に連れてこられたような気持ちになって。どうしてよいのかわからないほどの想いがやってきて、呆然。
その感触は自らの日々の重なりにまでつながる。齢を重ねるということはこういうことなのかと思う・・・。
観終わったあとの強い感覚がゆっくりと霧散したあとも、深く確実に心に残る作品でありました。
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休息をはさんで約三時間の上演時間、本当に見ごたえがありました。25分の休憩時間もちょっと長いように思えたのですが、それはそれでトイレの事情や前半の刺激をリフレッシュする意味でちょうどよく。
充実した土曜日を過ごすことができました。
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