柿喰う客「悪趣味」 柿の熟し方
9月9日、柿喰う客「悪趣味」を観ました。場所は三軒茶屋・シアタートラム。この公演、通常バージョンとキャスト総入れ替えの乱痴気バージョンがあって・・・。本当は両方見たかったのですが、スケジュールが合わず乱痴気バージョンは断念。
それでも、通常バージョンの完成度の高さに、進化する柿ワールドをがっつり楽しむことができました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
作・演出:中屋敷法仁
劇場に入ると舞台の装置に圧倒されます。いつもの素舞台かと思いきやがっつりと作られている・・・。けっこう傾斜が急な舞台で役者も大変だろうなぁと思ったり。
物語が始まると、それが山深い山村の光景であることがわかります。冒頭いきなりバナナ学園純情乙女組のような格闘シーンが現出したときにはどうなるかと思いましたが、そこに森に迷い込んだ教授と生徒の女性が道に迷うシーンが入り込んで、物語が広がり始めます。
村にたどりついた教授とたまたまいき合わせた自殺志願の女性、村人にいなくなった女子大生の捜査を依頼する、そこから村の風景、さらには主人公の家族の姿が浮き彫りになっていきます。
舞台には魑魅魍魎が跋扈する感じ。村長はゾンビだし、河童はでる、医者は怪しい。住民たちもひと癖ふたくせあるものばかり・・・。
しかしそこを、役者たちの豊かな切れで、物語に載せてしまうところが柿喰う客の真骨頂、これまでの柿に比べて若干スピードが抑制された感じがありますが、そのことによって重すぎず適度に抜けのあるおどろ恐ろしさが舞台上に醸成されていきます。
因習の深さや近すぎる人間関係の肌ざわり、さらには妖などが息づく雰囲気を今様の描写に染め変えていく中屋敷作劇・演出の非凡さが随所に光り、よしんばメイドであってもゾンビであっても、河童であっても、中絶マンであってもそこに込められた意図が舞台の濃度をどんどんと深めていく。
河童は町の暮らしの具象化にも思えて。それを狂言回しにすることで今様な雰囲気からの物語の俯瞰を作ったり、数秒休憩などのパロディ感に溢れたシーンで時々物語からはみ出して見せるなかで作者の内心を移ろいを醸し出したり・・・。
終演までは舞台に展開する表現たちの切れと鮮やかさに目を奪われていましたが、終わってみると、中屋敷一流のデフォルメの中に織り込まれた、作品の核ともいえる家族のたくましさや健気さ、そして猥雑さ、さらにはそれらが重なり合って生まれるある種の切なさに浸されていることに気がつくのです。
しかも、舞台の遊び心も失われていない。前述の数秒休憩などの仕組み系、マリオ音をつかったようなパロディ心、役名の付け方にはじまって役者の表現、素の力技、アドリブなども軽重とりまぜて、いろいろとあとを引く部分が満載に盛られている。
お腹一杯楽しんで、あとから霧が晴れるように見えてくる作り手の内にある物語の原風景に息を呑む感じ・・・。物語の面白さや疾走感の美しさに惹かれて観ていた柿作品より、さらなる深い奥行を感じて、柿の熟し進化する力に瞠目したことでした。
柿喰う客の劇団員はぞくっとくるような仕事ぶり。一人ずつのお芝居に輝きがありました。七味まゆ味、コロ、玉置玲央、深谷由梨香、村上誠基、本郷剛史、高木エルム、それに中屋敷法仁も加えて一人ずつのお芝居が多人数のなかでも埋もれないのです。なんというかそれぞれの芝居に風格のようなものすら出てきて・・・。
客演の役者たちも、がっつりとお芝居に食らいつく感じ。
梨澤慧以子、國重直也、片桐はづき、須貝英、齋藤陽介、野元準也、出来本泰史、高見靖二、佐野功、浅見臣樹、永島敬三、佐賀モトキ、伊藤淳二、川口聡、瀬尾卓也、柳沢尚美、熊谷有芳、渡邊安理
それぞれがきちんと筋を通した演技で舞台のシーンを彩っていきます。これだけの個性がばらつかずにふくらみになっていくところがすごい・・・。
この先柿喰う客の芝居がどこまで伸びていくのか、さらには今回の役者たちがどこまでその力を広げていくのか・・・。思うだけでもぞくぞくと幸せな気分になるのです。
これだけのお芝居を見せられるとねぇ・・・、返す返すも乱痴気バージョンを見損なったことが残念に思えた事でした。
R-Club
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