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こゆび侍「はちみつ」はまり込む危うい甘さ

2009年9月27日ソワレにて、こゆび侍第8回公演「はちみつ」を観ました。場所は王子小劇場。

こゆび侍は前回公演の「エスカルゴ」が今でも強い印象として残っています。また、味わい堂々が先日、作・演出の成島秀和の小品を上演したのもすごくよくて・・、あれやこれやで今回の公演をとても楽しみにいたしておりました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください。)

作・演出:成島秀和

商店街のちょっとおしゃれなはちみつ専門店、そこの店長とバイトの店員の物語。バイトの男子は映研に所属していて、自主制作の映画の主演をしたもらった後に、一旦振られた女の子を忘れられない。そこに女の子からふたたびのアプローチがあって。

一方の店長は隣の花屋さんの旦那とひそかに不倫中。その時間を楽しんでいる。

報われる恋ではないことが、はたから見ていてもわかるのに、それが止められないことに濃密な説得力があって、ただ息を呑んで二つの想いのゆく末を見つめていく感じ。

間に挟み込まれる幸せそうなはちみつ屋のお客夫婦や、初めて告白をするためのプレゼントを買いにくる学生、さらにはメイド喫茶の擬似的な愛のテイストなどが物語に厚みを作っていきます。まっとうな恋や代替の思いまで世の中にはあるのに、二人はアリ地獄にはまるように相手への想いに引きずり込まれていく。

働き蜂が憑かれたように働いて、一生に集めるというティースプーン一杯ぶんの蜜。その毒をも持った甘さを集めるために働き蜂が羽根を動かし続けることををいぶかしく思うことがないように、はちみつ屋の二人の愚かとも思える行為の必然性が、不思議な位に自然と観る者に伝わってくるのです。

バイト店員の友人の、負け続けた博打の続きに彼にかけようという感覚からにじみ出すテイストに取り込まれ、さらには舞台が満ちる中で、働き蜂が女王蜂に抱きしめられる時、聴こえてくる羽音の生々しさにぞくっときて・・・。なんというかある種の絶望的な盲目感やドミノ倒しのようにやってくるものへの無力な従属感に息を呑む感じ。

自らが意図しないものまでを女王蜂に奪われたそのあとに、蜜を失ったような愛を語り始める終幕の二人の会話の質感もすごく研がれていて。また、シャッターを叩く音は二人の想いを観る側に打ちつけていくようにも感じるのですが、それより、シャッターを叩けばたたくほどに広がっていく「空」のような感覚にがっつり染められて。

最後に荒れた店を片付けながら二人が交わす訥々とした言葉にもやられた。前回公演に続いて非常に印象の強い、まさに出色の舞台でありました。

役者も本当によくて。

ハマカワフミエには舞台の時間を止めるほどの一瞬を作り出す力がありました。単なる性悪な娘にとどまらない純真さの匂いや相手を蟲惑するようなオーラがあって、しかもその出し入れが絹のようにしなやかなのです。たくさんの引き出しをもった女優さんであることは過去に観た彼女のお芝居で知っていたのですが、今回の彼女には一つの引き出しからなにかを取り出すのではなく、いくつもの引き出しを開け放ってさらなる色を作り出すような凄味すらあって・・・。また、ハマカワに引き込まれる店員役の安藤理樹が大好演。どこか冷静な部分を観客に示しながら、何かに憑かれたがごとく走り出す姿にがっつりとした説得力がありました。安藤はPrefix2で一度観た覚えがあるのですが、その時とは全く異なる印象で・・・。舞台のトーンを見事に作り上げていたと思います。

ハマカワのイマ彼を演じた板橋駿谷もどこか人を喰ったようなキャラクターの雰囲気や性格を丹念に演じてみせました。やわらかなお芝居の中にハマカワが演じる女性を引き付けるようなフェロモンを内在しているように感じさせるところがすごい。

はちみつ屋さんの店長役を演じた佐藤みゆきのお芝居にも力がありました。今回は30才の女性という設定で、落着きを出すというかじっくりと抑えたお芝居でしたが、演技の広がりが大きいというか、キャラクターの内にある炎の色や熱が絶妙な力加減で観る側に伝わってくるのです。また、他のシーンが前面で続く間にも後方で時間をしっかり刻みながら、時の流れや次第にたまっていく蜜の存在を暗示するお芝居も効果的。暗めの舞台のなかでもニュアンスをしっかりと作る力が彼女にはあって。そうそう、不倫の現場シーンに生まれる空気のしなやかさにも目を見張りました。安藤とともに作り上げた終盤のテイストも本当に秀逸。

佐藤の不倫相手を演じたNARUも、内側にだらしなさというかチープな感じをもった男の匂いをきっちりと作りだしていました。こう、どこかにまとわりつくような薄さを観客に感じさせて・・・。それが佐藤の演じる女性に潜んだ愚かさをうまく際立たせていました。さらに、男の奥さん役を演じた根岸絵美の演技にも力量を感じました。LeDECOで観た短編や「佐藤の。」での彼女の男役を観た時にも強く感じたことなのですが、この人にはジェンダーが持つ色を強く深く伝える力があって。彼女のお芝居だから、キャラクターが「女」の想いではちみつ店を壊してしまうような常軌を逸した行為を導くことにも、すっと納得できたような感じがするのです。NARUが演じる男性をがっつりと動かす力が表現できていたと思います。

バイト店員の友人を演じた矢澤勇輝福島崇之はそれぞれの色を持って、ふつうの映研部員を演じてみせました。普通さを実直に表現する感じなのですが、安藤が演じる揺らぎともすごくナチュラルにマッチしているというか、3人の時間に変なべたつきや、あるいは逆に空々しさがないのがとてもよい。積み立てたお金が安藤に渡るときの二人のお芝居は勢いがありながらきめ細かくて、安藤の想いや狂気にも似た愚かさがしっかりと浮かび上がっておりました。

メイドを演じた二人も味のあるお芝居でした。遠藤友香理のお芝居には役をがっつり取り込んだような安定感があって・・・。カムヰヤッセンでの演技などと比較するとけれんもたっぷりなのですが、まったくぶれない感じ、よしんばメイド口調であってもお芝居に腰が据わっているというか本当に瑞々しく安定しているのです。そもそもメイド姿の魅力をきちんと醸し出していることもすごいのですが、その上に観る側が安心して身をゆだねられる感じまでを作り出していて、この人やはりただものではありません。廣瀬友美の演じるメイドから滲み出る包容力にもなんともいえない味があって。母性とある種の天然がきちんと舞台上で癒しを生んでいて。すっとシーンをメイドの時間に染めるような器用さもあって、その色が物語の底辺を広げていたように思います。さらには二人が演じるメイドの時間を離れた女性の姿にもたっぷりの実存感があってうまいなぁと感じたことでした。

山本真由美加藤律ははちみつ屋を訪れる夫婦を適切なデフォルメとともに演じていました。こう、お互いを信頼し合うよい夫婦という感じががっつりと表現されていて。山本が演じる奥さんの雰囲気と加藤の思いやりに溢れた夫にはなんともいえない実存感があって。そのテイストがはちみつ屋の二人の恋愛の陰影を深く作り上げていたような気がします。川連太陽が演じる高校生の、まっすぐな演技も、どこか笑いを誘うような力があって舞台の色を豊かにしていました。

音楽の使い方にもセンスを感じて。舞台装置にも工夫があって、破壊後の背景ボードの使い方などもとてもよいアイデアかと。それと照明がすごくきれい。明かりが次第にはちみつ色に染まっていくシーンなどには目を見張りました。また、照らすだけでなくものを言うような照明の使い方が何箇所かあってそれにも感心しました。

それにつけても、したたかな脚本だと思うのですよ。成島作劇でなければ表せないようなニュアンスというか感覚を前作「エスカルゴ」同様に本作でも強く感じて。不可避な愚かさを駆け抜けた後、佐藤と安藤が舞台に作り出した空気の不思議な軽さがなんとも心に残って。

不揮発性のなにかを反芻するように駅への帰り道をたどった事でした。

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コメント

りいちろがアプローチしたの?

投稿: BlogPetのr-rabi(ららびー) | 2009/10/03 14:04

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